【結城友奈は勇者である考察】日本神話との関係性①天の神、神樹、中立神、造反神
みなさんこんばんは。来覇(くるは)と申します。
今回は勇者であるシリーズと日本神話との関係性について考察していきたいと思います。
勇者であるシリーズでは、天の神、高天原、天沼矛、生大刀、国造りといったように日本神話と関わりの深い用語が多く登場します。
なかでも、勇者であるシリーズに登場する神々である天の神、神樹、中立神、造反神は日本神話に登場する神々をモチーフとしていると考えられる描写があるため紹介していきます。
※注意
今回の記事において、日本神話に登場する神々の表記はわかりやすさ重視ですべてカタカナ表記とします。一部、勇者であるシリーズに登場する表記とずれる部分がありますがご了承ください。
1.天の神
まずは、『天の神』についてです。
日本神話において『天の神』というと、天津神が連想されます。
天津神とは高天原にいる神の総称であり一般的にはイザナギ、イザナミ、アマテラス、アメノウズメなどが有名だと思います。
日本には八百万の神がいると言われ、日本神話に登場する天津神だけでも大変多くの神様がいますが、その中で勇者であるシリーズに登場した『天の神』とはどんな神なのでしょうか。
私は勇者であるシリーズにおける天の神とは、日本の最高神であり三貴神の一柱のアマテラスなのではないかという仮説を立てました。
その根拠を示すため、まずは勇者であるシリーズにおいて、『天の神』とはどんな存在であるのかを紹介していきます。
『天の神』は西暦2015年7月30日、後に七・三〇天災と呼ばれる日に突如として世界中にバーテックスを差し向け、四国や長野県の一部などを除くほとんどすべての土地を蹂躙した存在として語られます。
その後、人類が生き残った四国や諏訪地方に対して幾度も尖兵であるバーテックスを侵攻させ、最終的には天沼矛により四国外の世界の理を書き換え人類の再起の可能性を徹底的につぶします。
さらにその後も神世紀298年、神世紀300年の2度にわたってバーテックスを四国へと送りこんできます。
最終的に神世紀301年、結城友奈と神樹が神婚を行うことに怒った『天の神』は自ら四国へと侵攻を開始します。
その際に現れた姿こそが、『天の神』の正体を探る大きなヒントになると考えています。
「結城友奈は勇者である -勇者の章-」で登場した『天の神』の姿は三種の神器の一つである八咫鏡に酷似しているのです。
周囲にある12個の紋様こそありませんが、内側の紋様などはほぼ同じであるといえます。
日本神話において、八咫鏡とはアマテラスのご神体とされます。
ご神体とは神が宿るとされる物質という意味であり、依り代などとも呼ばれます。
勇者であるシリーズにおける『天の神』の見た目がアマテラスのご神体である八咫鏡に酷似していることから、『天の神』はアマテラスなのではないかと考えられます。
また、『天の神』がアマテラスであると仮定すると、別の観点からも気になる描写が見えてきます。
それは小説「乃木若葉は勇者である」の勇者御記です。
これは、西暦の勇者達が四国の結界外調査を行う際に書かれた御記です。
ここで一番気になるのは「ルートは紀伊半島を避けるように」という記述です。
なぜ紀伊半島を避けなければならなかったのでしょうか?
この疑問は、『天の神』がアマテラスであると仮定するならば少し見えてきます。
紀伊半島にあり、なおかつ大社がわざわざ避けるように言う必要のある施設と言えば、三重県にある伊勢神宮が考えられます。
伊勢神宮は日本で最も格式の高い神社とされ、日本国民の総氏神とも呼ばれています。
その伊勢神宮が祀っているのは当然、日本の最高神とされるアマテラスです。
大社は勇者や巫女が、『天の神』であるアマテラスを祀っている伊勢神宮に近づくのは危険だと判断し、結界外調査の際に紀伊半島を避けるように指示を出したのではないでしょうか。
以上のことから、勇者であるシリーズにおける『天の神』はアマテラスがモチーフとなっているということで間違いないのではないかと思います。
2.神樹
次に、『神樹』についてです。
勇者であるシリーズにおいて、『神樹』は土地神の集合体と言われています。
四国に結界を張ったり、勇者に力を与えたり、巫女へ神託を与えたりするだけでなく、四国の人々が不自由なく生活を送ることができるように恵みを与える存在ともいわれています。
土地神の集合体であるが故に、天の神のようにたった1人の神様で表すことはできませんが、勇者であるシリーズで出てきた『神樹』の特徴を追っていくと、土地神の集合体と言われる神樹の中にも特に中心となっているのではないかと考えられる神様がいるので考えていきます。
まずは簡単に、勇者であるシリーズ内で言及された神樹や土地神についての記述を紹介します。
これらの記述より、神樹は土地神、地の神、土着の神といったように様々な呼称で表現されていることがわかります。
日本神話において、こういった呼称で呼ばれる神として国津神が連想されます。
国津神とは、高天原に住む天津神に対して、葦原中国に住む神々のことを指します。
国津神も天津神同様、数多くの神様がいますがそのうちのいくつかの神の特徴が勇者であるシリーズで描写されている場面があるので紹介していきます。
まず一番目はオオクニヌシです。
オオクニヌシは国津神の代表的な神であり、数多くの名前を持つ神様としても有名です。
勇者であるシリーズにおいて、オオクニヌシの名前が直接出てくることはありませんが、オオクニヌシを指し示す別名が出てくる描写はいくつか見られます。
上で示している「《無数の武器》の名を持つ地の神の王」という表現もこれに当てはまります。
これはオオクニヌシの別名である『八千矛神』を表していると考えられます。オオクニヌシは数多くの武器を使いこなした武神としての一面もあったためこのような別名がつけられていました。
この描写から地の神の王や土地神の王と描写されているのは国津神の代表格であり無数の武器を意味する八千矛の名を冠するオオクニヌシなのではないかと考えました。
また、勇者であるシリーズにたびたび登場する祝詞からもオオクニヌシを指し示す名前が登場します。
上の祝詞はバーテックスを封印する際に唱える祝詞として登場したものです。
こちらは「幽冥神語」と呼ばれる祝詞であり、出雲大社において葬儀や慰霊祭で唱えることで幽世の大神から霊的な守護と導きを得られるそうです。
この、『幽世の大神』もオオクニヌシの別名となります。
これはオオクニヌシが冥界の一種ともいわれる根之堅州国に行き力を得たことに由来するのだと思われます。
下の祝詞は国土亜耶が神樹の一部である苗を結界の外の世界に植える際に唱えた祝詞になります。
こちらは「大國主・甲子祝詞」と呼ばれる祝詞の一部であり、オオクニヌシを奉るために唱えられるそうです。
『地津主神』は国津神の主を表しているため、こちらもオオクニヌシを表しています。
このように勇者であるシリーズに登場する祝詞にはオオクニヌシが随所に登場します。
以上の描写から、『神樹』を構成する土地神の中心であり、土地神の王と呼ばれる存在はオオクニヌシなのではないかと思います。
二番目はオオモノヌシです。
オオモノヌシは、オオクニヌシが葦原中国を平定した後、国造りを行う際に協力した神様です。
オオクニヌシはオオモノヌシを奈良県北部に位置する三輪山に祀ることで国造りを完遂しました。
この儀式の内容が勇者であるシリーズにおいてそのまま語られています。
それは小説「楠芽吹は勇者である」において国造り計画の詳細が語られた場面です。
「土地神の王」はオオクニヌシ、「旧近畿地方にあった霊山」を三輪山と考えるならば、「神樹の一部である土地神の一柱」とはオオモノヌシを指し示すのではないでしょうか。
また、三輪山の神であるオオモノヌシは日本神話において白蛇の姿をした蛇神であるとする説があります。さらに、オオモノヌシがイクタマヨリヒメと結婚した逸話は「神婚説話」とも呼ばれています。
勇者であるシリーズにおいて「神婚」「白蛇」というと、あるシーンが思い浮かびます。
それは結城友奈が神樹と神婚を行うシーンです。
神樹と神婚を行おうとする結城友奈に無数の白蛇が絡みついています。
これは神樹の中の一柱であるオオモノヌシの神婚神話をもとにした描写だと考えられます。
以上の描写から、神樹の中の一柱として防人たちによる国造り計画や結城友奈との神婚に関わっていた神様はオオモノヌシなのではないかと思います。
三番目は、スクナビコナです。
スクナビコナもオオモノヌシと同様、オオクニヌシが国造りを行う際に協力した国津神です。
また、スクナビコナは神でありながら体がとても小さいことが特徴で、一寸法師のモチーフとなったともいわれています。
そんなスクナビコナは、勇者であるシリーズにおいて珍しく、名前の一部がそのまま登場しています。
それが「結城友奈は勇者である -鷲尾須美の章-」において、勇者たちが鍛錬を行っている場面です。
このシーンに出てくる「少名社」はスクナビコナに由来していると考えられます。
これが飾られている訓練場は大赦の施設であるため、大赦はスクナビコナを奉っていると考えて間違いないと思います。
また、スクナビコナはガガイモの実で作られたアマノカガミブネと呼ばれる乗り物に乗っていたという説があります。
勇者であるシリーズにおいて、カガミブネといえば「結城友奈は勇者である 花結いのきらめき」で登場した移動手段ですね。
神樹の中の世界限定とはいえ、カガミブネが使用することができたのは神樹の中の一柱にスクナビコナがいたからではないでしょうか。
以上の描写から、スクナビコナも神樹を構成する神の一柱として存在していたのではないかと思います。
3.中立神
続いて『中立神』についてです。
勇者であるシリーズにおいて、『中立神』は「結城友奈は勇者である 花結いのきらめき」の花結いの章31話で初めて名前が登場し、きらめきの章において本格的に登場した神です。
造反神や天の神に近い格を持つといわれ、花結いの章では造反神の試練に立ち向かう勇者たちを見ているだけでしたが、きらめきの章では『中立神』自らが勇者たちに試練を課すことになります。
そんな『中立神』がどんな神様であるかはきらめきの章において、主に中立神の巫女である天馬美咲によって語られています。
これらの描写から『中立神』は、
・造反神や天の神に近い格を持つ
・夜を象徴としている
・性別を超越したような存在
ということがわかります。
日本神話の神々の中でこれらの特徴に当てはまる神と言えばツクヨミが考えられます。
ツクヨミは、先に紹介したアマテラスと同じく三貴神の一柱であり、夜を司る神様とされています。
また、同じ三貴神であるアマテラスが女性神、スサノオが男性神とされているにも関わらず、ツクヨミは古事記および日本書紀では性別の記述がなく、中性的な神として扱われることも多いです。
さらに、『中立神』がツクヨミではないかという仮説を裏付けるものとして『中立神』の見た目が挙げられます。
『中立神』はきらめきの章終盤において、自らの手で勇者たちの力を試しに来ます。
その際に判明した姿が三種の神器の一つである八尺瓊勾玉に酷似していると考えられます。
色こそ違いますが、姿かたちは八尺瓊勾玉を二つ組み合わせたような姿をしています。
八咫鏡がアマテラスのご神体であったように、八尺瓊勾玉はツクヨミのご神体であるといわれているため、やはり勇者であるシリーズにおける中立神はツクヨミがモチーフとなっているということで間違いないのではないかと思います。
4.造反神
最後に、『造反神』についてです。
『造反神』は「結城友奈は勇者である 花結いのきらめき」で初めて名前が登場した神様です。
『造反神』はもともと天の神に属していましたが、追放されて神樹を構成する一柱となっていました。
花結いの章では、造反神が神樹の中で反乱を起こし、それを鎮めるというのが目的でした。
ここまでの情報だけでも、造反神は三貴神の残る一柱、スサノオであると考えられます。
日本神話において、スサノオはアマテラスやツクヨミと同様、イザナミの息子であるため天津神に属していました。しかし、高天原での粗暴なふるまいから高天原を追放され、国津神が住む葦原中国に落とされます。
また、スサノオは先で説明した神樹の中心である土地神の王、オオクニヌシとも深い関係があります。
日本神話では、オオクニヌシが葦原中国を平定し、土地神の王となるための力を与えたのがスサノオであると言われています。
ここからも『造反神』が土地神である神樹に力を貸していたというエピソードにつながるのではないかと思います。
さらに、「結城友奈は勇者である 花結いのきらめき」の中では造反神の特徴を表すセリフが多く登場しており、造反神=スサノオであるという説を裏付けることができます。
一番目の「造反神は試練を出す神様としても有名」というのは、日本神話においてスサノオがオオクニヌシと初めて会った際、オオクニヌシに対して多くの試練を課して、試していたエピソードに由来すると思われます。
二番目の「色々な顔を見せる」というのは、スサノオが語られる文献によって大きく印象が異なる点に由来すると思われます。
日本神話と一口に言っても、古事記や日本書紀、風土記など元となる文献は様々ありますし、それぞれ内容が微妙に異なる部分があります。
特にスサノオは、古事記や日本書紀においては高天原で傍若無人な振舞いをしたことで追放された乱暴者という印象を受けやすいですが、出雲国風土記ではヤマタノオロチを退治し村を救った英雄としての印象が強調されています。
このように、見方によって乱暴者にも英雄にも見えるというのが、勇者であるシリーズにおいて「造反神はいろいろな顔を見せる」という特徴につながったのかもしれません。
以上の理由から、勇者であるシリーズの『造反神』は日本神話のスサノオがモチーフとなっているということで間違いないと思います。
余談となりますが、『造反神』がスサノオであると考えた時、本編にいくつか気になる描写があります。
それは、小説「乃木若葉は勇者である」において結界の強化が完了した際のひなたのセリフです。
この『根之堅州国』も日本神話で出てくる用語です。
『根之堅州国』とは高天原を追放されたスサノオが住んでいた場所と言われており、オオクニヌシがスサノオの課したいくつもの試練を突破し力を認められた場所でもあります。
大社はなぜ結界の強化が完了した四国を『根之堅州国』と呼称しようとしたのでしょうか?
また、結界の強化のために大社が行ったという儀式とは、具体的にどのようなものだったのでしょうか?
私は、この結界の強化のための儀式とは、
元・天の神であったスサノオに対して、神樹の一部となり協力してもらうために行った儀式である
という仮説を立てました。
結界が強化する前の四国は星屑が容易に中に入ることができていましたが、強化後の結界では星屑では通り抜けることはできず、完成体のバーテックスしか中に入ることができていませんので非常に強力になったことがわかります。
これが天の神に近しい力を持つといわれる造反神、スサノオが神樹の一部となり力を貸したことによるものではないかと考えました。
また、結界の強化が完了した後の四国を大社が『根之堅州国』と呼称しようとしたのも、スサノオが正式に神樹の一部になったことで、四国を日本神話においてスサノオがいた土地である『根之堅州国』とすることでより結びつきを強めようと考えた人がいたのかもしれません。
さらに、勇者であるシリーズにおいて『根之堅州国』を表しているのではないかと思われる描写が一つあります。
それが「結城友奈は勇者である -大満開の章- 第11話」において、東郷美森が結城友奈を助けるため、神樹の中に辿り着いた際の描写です。
この時、東郷美森はまるで水の中にいるような反応を示します。
一見、神樹様の内部に入ったのになぜ水の中なのだろうかと思いますが、この場所が『根之堅州国』であると仮定すると少しずつ見えてきます。
日本神話において『根之堅州国』とはスサノオが住む場所であるとされますが、具体的にどこにあるかという点に関しては諸説あります。
その中の一つとして、「月晦の大祓の祝詞」において根之堅州国は海の底にあるという説があります。
この説を採用するならば、東郷美森が辿り着いたこの場所は『根之堅州国』であり、大社が呼称するだけでなく実際の場所として神樹の中に『根之堅州国』が存在していることとなります。
この描写からも神樹には造反神であるスサノオが協力しており、神樹の世界の内部に『根之堅州国』が存在していると考えられます。
神樹世界の内部の『根之堅州国』がいつ発生したのかについてははっきりとは描写されてはいませんが、私は大社が四国を『根之堅州国』と呼称しようとした結界強化の際にスサノオが神樹に協力し、神樹の一部となったことで発生したのではないかと予想しています。
以上の描写から、西暦の時代に行われた結界の強化の儀式とは、
元・天の神であったスサノオに対して、神樹の一部となり協力してもらうために行った儀式である
のではないかと思います。
5.最後に
いかがだったでしょうか。
今回は勇者であるシリーズに登場する神々と日本神話との関係性について考察していきました。
私は日本神話の専門家ではないため、簡単に調べられるような内容から勇者であるシリーズと関連がありそうな項目を拾い上げて共通点を見出していく形で紹介していきました。
日本神話に詳しい方であれば、より多く勇者であるシリーズとの共通点や関連性を見出すことができるでしょうし、一方で明らかな相違点や矛盾する点を見つける方もいるかもしれません。
そのような方がいらっしゃいましたら是非コメントでご指摘くださると幸いです。
また、今回紹介した日本神話に関する記述の多くは諸説ある内の一つを抜粋したものとなります。
書かれている内容が必ずしもすべて絶対的な一つの事実ではありませんし、時には現在主流とされない説を採用していることもありますためその点はご了承ください。
ただ、こうして勇者であるシリーズを通して、日本神話について少しずつ調べていき、共通点を探すことで勇者であるシリーズの世界をまた違った視点で考えることができたのはとても楽しかったです。
この記事を通して皆さんが勇者であるシリーズと日本神話との関係に興味をもち、勇者であるシリーズをより深く楽しんでいただけたら幸いです。
それでは今回はこれで以上となります。
最後まで読んでいただきありがとうございました。