文劇2 異端者ノ円舞 感想
今作のテーマは「友情」って断言できるくらいシンプルに友情!!!!!!!!!って話でしたけど、裏テーマとして「置いていかれる人、置いていく人」ってテーマがあったなあと思った。
文豪の人選でさくちゃんとさかぐちが最初謎だったんだけど、話を見ていたら納得したというか。
つまり置いていかれる人枠だよね、あの二人。
さくちゃんの史実は実はそこまで詳しくないのですが、亡くなった順番でいったらさくちゃんはお早い方だったけど、ここの「置いていく人」って物理的に亡くなる、って意味だけではないんだよねきっと。詩人一本で有名な人もいるけど、コンビにあたるさいせんせーとかは小説家でもあるしさ。その辺の背景分からずとも、「孤独」って単語を使うさくちゃん、最初の潜書のとき置いていかないで!って仲間に言うさくちゃんとか見ているとなんとなくお話における役割ってそこだったのかなあ、って思いました。
そしてさかぐちは唐突に自分の闇を見せるな。心の準備できてなかったからやめてくださいぶらい推しの私無事死亡しました。同じ道を歩いていなかったから、いつの間にか消えてなくなった、のところの坂口の表情は大分……お辛いのですが……。でも違う道に進んでも友のことを想い続けたんだから坂口のそれは武者的には友情だし私的にも友情だよ。閑話休題。
ラストバトル、武者の考える友情は「たとえ離れていても、たとえ傷付けたとしても、友のことを想い続けること」ってのがすごく良かったんだよね。武者が抱いていたのはいつも先に行ってしまう志賀に対する嫉妬ではなく、置いていかれる恐怖や寂しさだったんだよ……それが武者の負の感情だったんだよな……。そんなんどこが負の感情!?ってなるんですけど、人間誰でも負の感情を持っているってことなんですかね。
武者は持論がそんな感じなので、最後に自分を置いて先に行けって迷いなく言うことができる。ここで離れ離れになっても、志賀のことを想い続けるつもりだから。それが武者の友情だから。でもそれを受け取った志賀は友から決して離れないこと、背を向けないことで自身の友情を証明するって流れがさいっっっこ~~~~~~~~に最高すぎた。優勝。二人でいつまでも仲良くしてほしい……。二人で色んなところにツーリングをしてくれ。
・前作を踏まえて
芥川先生が顕著だったけど、何かと太宰の影がちらちらしていた。
まず初回の潜書で他ならぬ芥川先生が、有島に「この戦いに意味を見出したいなら生き続けること」って提言するのすごい前作の太宰の「生きてください!」を受け取った芥川先生だ……って思って良かったです。
あと地味に志賀さんも。芥川先生に、志賀さんのような美しい人を失うわけにはいかないって言われて、太宰くんの名前出してそんなことねえだろ、って言うのすごくない????言葉にならない。
前作踏まえた関係じゃないこれ??太宰だって~って喋りながら顔笑っているし。ただそこにマジレスする芥川の太宰作品解釈は面白かったです。鋭い刃物のような文体って表現かっこいいな。ただ芥川先生から見ても太宰→志賀は理解の範疇から逸脱しているってなるんだなあ。興味深かったです。
しがむで走れメロスをするのも、太宰くんすげえ白樺と仲良くなっているんだな……というお気持ちでした。
・出てくる作品
今作ではカインの末裔→友情→暗夜行路の順番に侵蝕されていくけど、内容わかっているとより楽しめるのは友情かなあって思った。要約はしてくれているからもちろん未履修でも楽しめると思うけど。
有島作品で選択されたのがカインの末裔なのきっと意味あるよなあ、って思って考えていたんだけど、作中で言及されていた、「他人の痛みを知りたいという優しい気持ちが根底にあるのが有島作品」って説明をするのにちょうどよかったのかもなあ。ゲームでも有島の代表作として紹介されてるしね!
あとは後に出てくるありのままを書く自然主義文学との対比、そこから本来の意図とは違う解釈をされたことで侵蝕されていく武者、って流れの布石なのかな?と思った。有島作品はほぼ未履修なので今度読んでみたいな。
貧しい人たちと裕福な自分の生活の違いを知って、罪悪感を抱いた。そのギャップを埋めたくて、貧しい人たちの気持ちを知りたくて筆をとった……って流れはそこまで悪いものじゃない。でも罪悪感というだけで負の感情認定だから困ったものですよね……。
・好きなシーン
①侵蝕されている武者が「僕の理想郷にはいつも志賀がいるんだ」って言うところ。そこからラストの志賀がいればそこが理想郷なのかもしれないねになるのさいっこーーーーーーでした
②「愛すべき友との友情を選ぶ」って言い切る志賀。しかし秒で芥川との約束を破る志賀は酷いやつだよ。自分の作品を任せているんだから頼ってはいるんだよな。
③「中盤の志賀と武者が話している後ろで時計の音とともに朗読される書簡。良き不穏。
上二つは好きすぎて語彙力が死んでいます。武者の泣き笑いの表情素晴らしすぎるんだよな……
一番下だけちょっと詳しく備忘録的に詳しく書いておく。最初にさくちゃんが暗闇の中で見た書簡は、光り輝くものなのに、中盤の武者が志賀を突き放すシーンの背景で読まれている書簡は内容が同じでも違ったものに聞こえてくる。あの演出すごく良かったな……。時計の音も不穏で良い。
ところで武者の「いつもそうだ いつだって僕を置いていってしまうんだ だって君は小説の神様だから」の声が怖すぎて泣いた。前作で志賀も人間なんだよ、って太宰くんに教えてくれていた武者がそれ言うの辛すぎない!?志賀も一撃で喪失したことでしょう。あれからふらふらしていた志賀が武者と会えたら元気になっていくのすごく、とても、お前そういうとこだぞ!!!!!!!
・タイトル
異端者って誰なんだろうなあ、と思っていて。お話を見る前と見た直後は白樺派のことなのかな?って思っていたの。いやまあそこに深い理由はないけど、メインだしさ……くらいの理由。今の感想だと、この異端者は武者さんのことなのかなあ、って思っています。イメージとしては、藤村&独歩さんと芥川の会話で、「普通なら~と言う風に書く。でも武者はあえてそうしなかった」ってあたりから。
あと円舞(ワルツ)は二人で踊るものじゃないですか。武者と志賀だなあ、と。異端者(武者)とワルツを踊るのは志賀ってなんとなく思ったからそんな解釈です。この辺普通に他の人の解釈も聞きたい~