コロナ禍で学校のICT化がすすまない理由についての考察
1 はじめに
先日行われた、「学校の情報環境整備に関する説明会」(「GIGAスクール」ch)によると、ICT環境に前向きに取り組もうとしない教職員(管理職)がいること)が話題にのぼっています。このコロナ禍でさえ、ICTを使った子どもへの支援は、とても少ないように感じます。なぜ、学校でICT化がすすまないのか、これからどのようにICT化を進めていけばよいか、考察してみました。(ただし、これらの考察は私見によるものですので、もしお読みいただき、疑問に思われたら、コメントいただければとてもありがたいです。)
2 ICT化に取り組まない理由
(1)ICTを活用できない教員が少なからずいる。
下記の「平成30年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)確定値(文科省)より)のように、ICTを活用できる教員がいる一方で、そうでない教員も少なからずいる実態があります。これによれば、「B:授業中にICTを活用して指導する能力」がある教員は76.6%いる一方で、全体の1/4程度は活用できていないことになります。また、「C:児童・生徒のICT活用を指導する能力」は67.1%で、およそ3分の1は児童生徒にICT活用を指導する能力がないことになります。ちなみに、この調査によるとICT活用指導能力に関する研修を、平成30年度の1年間で受講した教員の割合は47.1%です。私見ですが、これらの要因として、アナログな授業なほうが学校現場では合っていると考える教員が、結構多いのではないかということが考えられます。
(2)学校のICT環境が整備されない
同調査によると、1台のコンピュータを児童5人で共有しなければならない状況です。このような状況で学習のなかでコンピュータを使っていくことは、現場の感覚では難しいと思います。いつもコンピュータが使えるわけでもなければ、一人で使えるわけでもないからです(ちなみに、自分の学校では、つい最近までこどもが学習用に使えるパソコンは、児童400人に対して20台であった)。
(3)家庭のICT環境が整備されていない
「文科省、家庭学習にICT積極活用して…通信環境の至急把握も(resemom.biz)」でもわかるように、家庭のICT環境の調査と整備も急務です。一方で、実際にICTを活用することができる家庭があるのも明らかで、こういった家庭から繋がっていくことを視野に入れる必要があります。
(4)セキュリティーに対する制限が厳しい
「小中高等学校等教職員・教育委員会指導主事向け教材(文科省)」によると、下記のようなチェックシートが例示されていて、ほかにもさまざまな事柄に留意して、ICTの運用がなされるよう、示されている。また、学校教育の情報化の推進に関する法律(通知)もあり、各自治体や教育委員会にセキュリティーポリシーの策定が求められています。このような法律やシステムを運用するためにはかなりの専門的知識が求められるが、実際に運用し、使いこなせる教職員はどれくらいいるのだろう。(以下はほんの一部分。このチェックシートはしっかり運用したいが・・・)
3 ICT化をすすめるための施策
(1)ICTを活用できていない教員が少なからずいることに対しての施策
これは、教員が学ぶ以外にないと思います。あるいは、一定のスキルを満たすよう、研修を必修化するなどの施策が必要だと思います。ある程度のICT活用能力を身に着けていなければ、今後の学校で担える教育活動は少なくなっていくのではないか(これには異論もあるとおもいますが)と思います。コロナ禍でなくても、子どもの多様な学びを保障するためには、子どもとICTで通信したり、簡単な動画を作ったり(いまの若い人はスマホのアプリで簡単に作れるみたい)、もちろんオフィスの基礎的な機能を使いこなす(これも結構できていない場合が多い。こちらは若い人で多いかも)ことが必須のように思います。一方で、現実的に今それをするのが難しいのであれば、ICT活用能力の高い人を中心に、アプリ環境を整備し、校内研修を行っていく必要があると思います。ただし、現場レベルで積極的に新しい取り組みを行っている例も増えてきています。
(2)学校のICT環境を整備する施策
これは、様々な要因が考えられますが、まず、学校に割り振られる予算については考える必要はあると思います。これについては説明も必要ないと思います。一方で、(1)とも関わりがあるように思います。現場がどの程度ICTリテラシーを高め、ICTを欲していたのかということにも要因があるようにおもいます(そして、ICTに割り振る予算がないからこそICTリテラシーを高めずに放置しておいたとも言えるかもしれません。これについては推測の域はでませんが。)。少なくとも、学校により多くの国家や自治体の予算を配分すべきと考えます。
(3)家庭のICT環境の整備のための施策
すでに各関係機関が動いているように、子ども一人に1台整備していくことが必要でしょう。一方で、学校や家庭でICTリテラシーの教育が必要で、これについては、学校と家庭で連携して密に行っていかなくてはなりません(場合によってはPCやタブレットに依存した子どもを育ててしまうことになります。このことについてはあまり論じられていませんが、一部の研究者はリスクの高さを指摘しています。「スマホやSNSに「依存」するのは理由があった、知られざる「行動依存症」の実態(The New York Times)」によれば、薬物やたばこと同じような行動依存症状が、スマホやタブレットを使うときに見られる(すでにこのような依存症をもっている人は多く、現在はアルコール依存施設がゲーム依存施設に置き変わっている実態もあるようだ)。家庭へのICT環境整備は、迅速かつ慎重に行わなければならないと思います(むしろこの記事によると、意図的にICT機器から子どもを遠ざける親も少なからずみられるこのような親に対してICT機器の導入を勧め、必ず使うように頼むことはむずかしい)。
(4)セキュリティーに対する制限が厳しいことに対しての施策
現に上記の「学校の情報環境整備に関する説明会」(「GIGAスクール」ch)では、ICT機器や情報セキュリティーについての考え方について言及されています。特に、セキュリティーに関する部分は、多くの教職員が、まだまだ理解できていないという現状があり(少なくとも自分の学校では)、安易に余計なことに手を出すと、セキュリティー問題に引っ掛かり、指導や処分を受けるという意識が働いています。結局、多くの職員・管理職は、同じ教育委員会管轄の学校と連絡を取り合い、足並みをそろえてお茶を濁し、やり過ごすことに終始しているように思います。これの状況を乗り越えるためには、職員一人一人がICT機器の特性と情報リテラシーを理解し、積極的に機器を前向きに行ってこどもにとってよりよい支援は何か、模索していくことが大切だ、ということになります(この方法は、最も意義がある一方で、とてもむずかしい・・・。)
4 理由、施策についての考察
私は学校のICT化に際して最も問題なのは、上記の2(4)の要因だと考えます。現場レベルでは、ある程度取り組みが進んでいる一方で、管理職や教育委員会に提案するとうまくいかないという話をよく聞きます。管理職や関係機関にはICTを使うことがリスクにつながるというという意識が非常に強いように感じます。そして、これは、ICT化だけの問題ではありません。学校システムをこれから先、よりよいものに変えていく上で、多くのリスクにさらされることが予測されますが、そのリスクを担保する機関やシステムがないことが非常にリスクです。今後、このようなシステムにどこかでメスを入れないと、私たちは変われないままだと考えます。一方でシステムを黙認してきた私たちも責任をとらなければなりません。今、何をすべきか、一人一人が考えるべきです。(難しいですが、しなければならないと思います)
現状のコロナ禍のリスクに備え、システムを変更してくことにはポジティブな側面がたくさんあります(リスクを回避するという側面だけではなく、よりよいシステムをつくっていくという意味で)。変わることのリスクは慎重に検討しなければいけませんが、同時に、変わらないことのリスクを積極的に考える必要があるのではないでしょうか。
システムも私たちの意識も、どちらかに問題があるということはありません。それは、両立し得るからこそ、私たちは自由であり得るのだと思います。