【SS】カサカサ
「おとーたん」
機嫌よく遊んでいた息子が、首をかしげてやってきた。
「おお、どうした」
「おとーたん、お耳の中がカサカサいうの」
「え、カサカサ。どっちのお耳だい?」
「こっち」
「右のお耳か。どれ、おとーたんがみてあげよう」
「んん」
「なんにもないよ」
「おとーたん、こっちのお耳がカサカサになったの」
「おや、今度は左かい? どれどれ、いや、こちらも何もないねえ」
息子は、ちょっと私を押しのけるような仕草をした。
「どうしたの」
「おとーたん、頭の中でカサカサ音がするの」
「音が大きくなったのかい」
「んん、おとーたん、助けて」
息子は泣きそうだ。
「大丈夫だ、おとーたんがついてるよ」
「助けて、からだの中全部でカサカサしてるの」
頭を抱えていた息子は、どうしようもない様子で胸を押さえ、うずくまった。
「大丈夫だ、大丈夫だよ」
「おとーたん!」
バリバリ、と音を立てて、息子の背中が割れた。脱皮して真っ白な息子が現れた。
「おとー……さん?」
「大丈夫、大丈夫」
私は、やさしく息子のからだを、6本の足で抱きしめた。
「大人になったんだよ」
息子は恥ずかしそうに、まだ柔らかい6本の脚をカサカサと鳴らした。