スペース路線バス乗り継ぎの旅 THE MOVIE in ケプラー22b
せーの、
「スペース路線バス乗り継ぎの旅 THE MOVIE!」
「映画になっちゃった!」
「1800円出してくるひといんのかな」
ケプラー22b、スペース路線バスセントラルステーションの前。太川陽介は目をまんまるくして、蛭子能収はいつものいい加減な感じで、いきなり映画は始まった。
「1800円?」
「最初に映画になったときはたしかそうだったんじゃないかな」
「あー。そうだ、映画って昔は映画館っていうところにわざわざいって観てたんだよね」
「そうだよー、太川さん知らないの」
「いや、知ってるけど、俺何代目太川陽介だと思ってんの」
「わかんないよ、俺はずっと蛭子だし」
「あなただけですよ、芸能界で、というか人類で、初代のまま何万年も続いてるひと」
「いやー、まさかあそこから歳をとらなくなるとは思わなかったね」
「まあねえ、あの映画の最後でね、まさかああくるとはね」
「俺、ほんとはめんどくさかったんだよね、台湾行くの。興味ないし。たぶん汚いし」
「またそういうことを。汚くなかったでしょ! ダメでしょ、みんなよくしてくれたでしょ、台湾のみなさんの親切さのおかげで、あの映画が超大ヒットしたんだから」
「まあそうかもね」
「そうかもねじゃないよ。台湾のひとが冷たかったら、バス旅が面白くなくて、映画も失敗して、テレビ東京の通常の特番もなくなったかもしれないんだよ」
「それはそれでよかったんだけどね」
「よかったの?! 約束したじゃない。お互いに相手が死ぬまでは続けようって」
「あー、うーん、そのときは、たぶん、なんかそう言ったほうがいいかんじだったのかなあ」
「まあ、毎回いうことちがうからね、蛭子さんは」
「俺は俺で、これで筋を通してるんだよ」
「うん、ひととしてはね。なんたって、俺が32代目太川陽介なのに、蛭子さん初代のままだからね」
「みんながおかしいんじゃないの?」
「んなわけないでしょ! あの頃、日本人の寿命がだいたい80歳ぐらい? 100超えるひとも増えてきたねえ、っていう時代だったんだから」
「だったんだからって、なんで23代目が、そんな……ふっふっ……まるで……ふっふっ……その時代を……知ってるような……んふっ、んふっ、んふふふふふふふ」
「あのね、蛭子さんは何度言っても忘れるからいうけどね、あの最初の映画のラストから、ひとは死んだら、その瞬間に生まれ変わるようになっちゃったの。しかも、死んだときの記憶を持ったままで。だから、死ぬ、っていう言葉もなくなっちゃった」
「あ、聞いたような気がする」
「まあ、何千年ごとかに聞いてるからそう思うのかもね」
「あれ、前回の映画はどこだっけ、エルドン?」
「エメラルダス」
「あれ、それは漫画じゃないの」
「発見されたでしょう、実際に。お世話になったでしょう、エメラルダス人の皆さんに」
「ああー。そうだー。たしか松本零士先生がマドンナで」
「どんなマドンナだよ。ある意味マニアックだけど。なんだろう、この、蛭子さんの、宇宙で、宇宙でだよ、たったひとり、死なずに何万年もつながってるのに、すごくつながってるところと、全然つながらないところのある感じ」
「それが路線バスの旅だよね」
「初代の俺ーー! 聞こえるかーー! 蛭子さんが、なんかうまいこと言ったぞーっ!」
「いやそれほどでも」
「さ、マドンナをご紹介しましょう」
「松本先生?」
「どーぞーっ」
笑顔で36代目三船美佳が登場し、スペース路線バス乗り継ぎの旅 THE MOVIE in ケプラー22bが始まった。