#318 増加するカスタマーハラスメント。企業やマネジメントはどう向き合うか? (1/2)
いかがお過ごしでしょうか。林でございます。
カスタマーハラスメント、いわゆる「カスハラ」は、利害関係のある顧客や取引先からのハラスメントということで、自社だけの努力ではなかなか対応が難しい点が厄介です。
一方で、多くの業界で人手不足に悩まされており、人材確保がただでさえ難しい中、顧客からのハラスメントにより人材流出に繋がってしまうのはたまったもんでなく、最近では、カスハラガイドラインを制定したりと対策を進める企業も少なくありません。
社内のハラスメントホットラインへの通報という手段だけでは対応が難しい中、私たちはこの現状をどのように理解して、どう構えておけば良いのでしょうか。
私は、もちろんハードルも低くはありませんが、「企業が真っ当な顧客や取引先を選ぶ」ということとも、真剣に向き合わないといけないと考えています。
また、個人においても「いきなり激怒したり、暴言や高圧的態度で理不尽な要求を通そう」という大人は幼稚でダサいという価値観が広がり、冷静な態度と論理・美意識に基づき行動し、「選ばれるお客様」にならないと、近い将来誰も付き合ってくれなくなると思います。
今日は、前編として、厚生労働省やパーソル総合研究所の調査レポートに基づき、カスハラの現状を見ていきます。
増加傾向にあるカスハラ
2024年3月に厚生労働省が公表した「令和5年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」のレポートによれば、「顧客や取引先からの暴力や悪質なクレーム等の著しい迷惑行為」のことを「顧客等からの著しい迷惑行為」とし、これをカスハラと定義しています。
本調査は2024年1月に行われていますが、パワハラやセクハラなどのハラスメントの種類別の相談件数の推移を見ると、パワハラ・セクハラ・妊娠や出産、育休に関するハラスメントが軒並み「過去3年間で相談件数が減少している」が「増加している」を上回っているのに対して、カスハラのみが「過去3年間で相談件数が減少している(11.4%)」を「相談件数が増加している(23.2%)」が10%以上上回る結果となっており、カスハラが増加していると読み取れます。
下図の通り、事例件数ベースでも「顧客等からの著しい迷惑行為」の事例件数が増加していると回答した企業の割合は22.6%と、パワハラやセクハラなどの他のハラスメントと比べて最も多い結果となっています。
一方で、「顧客等からの著しい迷惑行為予防・解決取組の実施」に関しては、カスハラに対しては全体の35.5%が「何も実施できていない」と回答しており、パワハラの4.8%、セクハラの7.3%と比較しても大きな割合です。
パワハラやセクハラと比べて最近急に増加傾向にあるので、対応が追い付いていない組織が多いと考えられます。
もちろん、各企業でカスハラガイドラインを制定するだけではダメで、それが現場にも浸透して実効性があるものになっていないと意味がありません。「何らかのカスハラ予防の取り組みを実施している」と回答した64.5%の組織も、その中身を見て、より対応内容を深化させていく必要があると考えます。
せっかくの貴重な人員をカスハラで失うなんて企業にとっては損失が大きすぎますし、何よりもカスハラなんかで体調を壊してしまう人が出ており、それが増加傾向にある事実に対して、激しい怒りを感じます。
カスハラ被害の実態
2024年6月に公表されたパーソル総合研究所「カスタマーハラスメントに関する定量調査」では、この深刻な状況について、詳細な状況をまとめてくれています。
まず、「カスハラ被害経験」がある人は、全体の35.5%にも及び、3人に1人は「カスハラ被害経験あり」となります。
職種別の「3年以内の被害経験者」の割合で見ると、「福祉系専門職員」が34.5%で最も高く、「顧客サービス・サポート」「受付・秘書」「医師・看護師」などが続きます。
冒頭で述べた通り、カスハラは貴重な人材流出にもつながっています。
以下の「カスハラ経験率と離職率」の関係性を見ると、3年以内にカスハラ経験率が高い「介護士・ヘルパーなどの福祉職」「宿泊サービス」「医師・看護師などの医療職」「受付・秘書」などで20%台の特に高い離職率が見て取れます。
カスハラ経験者は「仕事を辞めたいと思った」人が38.0%、「出勤が憂鬱になった」人が45.4%に上り、改めてその深刻さが分かります。カスハラって超理不尽ですからね。
そのように感じて離職の道を選ぶ理由はよく分かりますし、カスハラが温床する環境では適切なExitが進んでいかないと、業界の常識や「とは言え仕方ない」の敢行が見直されていかない=社会全体としても改善されていきません。
カスハラ経験者の性別・年代別の傾向を見ると、「カスハラ経験率」は男女共に若年層が多く、社会的立場が比較的弱い人に被害が多いことが分かります。
男性30代が最も多いのは、組織でも中堅の立場として顧客と相対するシーンが多いからではないかと推察しています。
そして、私がもともと持っていた印象通りなのですが、下図の通り、カスハラ加害者は年齢を重ねるにつれて上昇し、特に40代以降の男性で一気に上がります。
色々要因はあると考えられますが、「年齢が上がり、自分よりも歳下でマウント取りやすい相手が増えること」、「カスハラするような人ですから、周囲の人に相手にされなくなってきて暇、あるいは寂しい」というのが、主な理由ではないかと考えています。
「いい歳こいて何やってんだよ」と心から思います。30代男性が最もカスハラ被害を受けているデータと比較して考えると、「自分もやられてきたから、そんなもん」と考えているかもしれません。
でも、顧客の立場であるという一見優位な立場を利用してカスハラするのとか、本当にみっともないです。
「カスハラ」だと自分で認識できてないケースも一定ありそうなので、パワハラやセクハラと同様、カスハラに対する社会的認識も高めていく必要性を強く感じます。
カスハラに対する現場の対応
ここから、カスハラ被害者の対応を見ていきますが、その場では「ただ我慢した」人が37.0%と最も多く、事後に「社内の上司に相談した」人は41.5%に上ります。
半数弱の人がカスハラ被害を上司に相談しているわけですから、組織側でも被害に対する一定の認知はされていると言えます。しかし、下図からも分かるのは「会社は嫌がらせの被害を認知していたが、何も対応はなかった」が36.3%と最上位を占めています。
また、さらに従業員を追い詰めるのは、「ひたすら我慢することを強要され」たり、「相手にしてもらえない」と感じたりする、セカンドハラスメントの実態です。
おそらく、既存の顧客との関係性もある中で、各現場で個別に適切な対応を取るのが難易度高いのでしょう。
しかし、現場ではどうしようもない問題、または職場の上司も「一定のカスハラは仕方ない」と無意識に受け止めているという問題が、カスハラ経験者をさらに追い詰めているはずです。
貴重な従業員を失い、最悪、一番大事な「人」の心身にも支障をきたす重大な問題であるにも関わらず、各現場では、なかなか実効的な手段が打ちにくいという点で、なかなか深刻な問題です。
明日は後編として、カスハラに対して、組織やマネジメントはどのように向き合っていくべきか?という点について、調査結果をもとに考えていきたいと思います。