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【今でしょ!note#134】空き家増加の根本理由 (1/2)

いかがお過ごしでしょうか。林でございます。

地方部に住んでいる方と話していて、割と話に上がりやすい地域課題の一つが「空き家問題」です。
「空き家問題」が社会課題として広くクローズアップされてきたのは、総務省が2013年に行った住宅・土地統計調査において、空き家が全国的に約820万戸存在しており、空き家率は全国平均で13.5%という数字が公表されて以降とされています。

それまで都市計画や空き家問題に大きな関心がなかった私としては、どうしても空き家問題の話を聞くと「空き家活用」や「空き家バンク」といった現状の取り組みに目が行きがちでした。しかし、「空き家問題」の本質的な課題が何か?を理解しておきたいことから、今日から2回にわたって「空き家問題」をより解像度を上げてみていきたいと思います。

参考図書は、砂原庸介さんの「新築がお好きですか?」です。

空き家が増える理由は需給のアンマッチ

2022年10月の国土交通省 住宅局が公表した「空き家政策の現状と課題及び検討の方向性」の資料によると、空き家の総数はこの20年で約1.5倍(576万戸→849万戸)に増加傾向であることが示されています。

【出典】: 住宅・土地統計調査(総務省)
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001518774.pdf

特に「居住目的のない空き家」とされる「その他空き家」に分類されるものは、2018年時点で349万戸に上っており、今後も増加傾向で2030年には470万戸に上ることが見込まれています。

空き家問題は、まちを維持・発展させたい地域の自治体にとっては深刻な問題で、空き家の放置は、火事の発生や治安悪化のような望ましくない外部性につながります。
一方で、空き家の所有者にとっては、大きな費用がかかる空き家処分を行う動機は弱く、放置されがちです。

空き家が何故増加傾向にあるのか、という直接的な原因はシンプルで、総世帯数を上回る形で総住宅数が増加しているからです。

1960年代後半以降、総世帯数を上回る見込みで住宅が増えている
総世帯数のピークは2023年との推計

総世帯数に関しては、人口増加傾向にあるのと同時に増加を続け、核家族化や高齢者の単身世帯が増えたことから人口増が一定落ち着きを見せて以降も増加を続けてきましたが、2023年をピークに低下していくことが予測されています。

本来は、世帯数=需要に応じた適切な住宅総数=供給が提供されるようコントロールされるべきではありますが、日本はヨーロッパ諸国に代表される国々ほど住宅規制が厳しくなく、人口が減っているのに新築住宅建設が止まらないというところに「空き家問題」の本質的な課題があります。

ヨーロッパの多くの都市では厳しい規制が行われ、日本のように都市が無秩序に広がっていくことは少ないです。都市の境界線が曖昧だと、郊外に人が住みはじめて、都心を常に魅力的なものに改善し続けるのが難しくなってしまいます。

では、なぜ人口減少フェーズにも関わらず、新築建設が止まらないのでしょうか。

新築建設が止まらない理由

「賃貸か持家か」という議論がしばしば話題になります。

賃貸の場合、貸し手側にとっては、安定した家賃を支払ってくれる借り手を見極めないといけないというところに取引費用が発生し、それが家賃に転嫁されているため、同じようなレベルの物件の場合、どうしても購入より賃貸の方が割高になりやすい傾向があります。

私自身も持ち家を選択していますが、その理由は過去記事でもまとめていますので、興味がある方はご覧になってみてください。

また、より良い住まいを求める人が持家購入に向かうのは、設備が充実した賃貸物件の供給自体がそもそも少ないからという理由もあります。

賃貸住宅経営のプレイヤーは、三井不動産などの例外もありますが、基本的には零細事業者や個人が多い事業です。
理由は、賃貸住宅経営がマンション開発に比べて入居者の交代が多く経営が不安定になりがちで、住居者の近隣トラブルなどへの対応が求められるため大手では手を出しにくいためです。

また、賃貸住宅経営は、相続対策として有利であるため、大手よりも個人の参画が多いです。

例えば、高齢者が土地を売却して利益を上げると、譲渡益に対して課税されるだけでなく、相続の際の現金、その他金融資産も課税対象となります。
一方で、賃貸住宅としておくと、土地や建物への課税評価が低くなり、また建物を建てるために銀行から資金を借りることで相続税が圧縮されます。
素人の節税目的で賃貸住宅が過剰に供給されると、当然価格が下がり、賃貸住宅からの収入にこだわらない素人と不公平な競争を強いられるため、貧弱な賃貸住宅が支配的になってしまいます。

結果として、特に大手不動産会社にとって、賃貸住宅市場よりも、購入用の新築物件販売のほうが手を出しやすいのです。

国にとっても、住宅建設がGDPに占める割合もバカにできないため、いきなり新築物件構築の規制をかけて開発をストップさせるということができなくなっています。

諸外国との違い

ヨーロッパ諸国の国では、家族向け賃貸住宅の選択肢が広く存在しています。
民間の事業主体が運営する賃貸住宅でも、政府規制により家賃が抑えられているため、多くの人々が賃貸住宅を利用可能です。

日本では、賃貸住宅に対する政府介入が少ないので割高になりやすく、民間提供の家族向け賃貸住宅はあまり提供されないため、結局持家という選択肢を取らざるを得ません。

また、アメリカやイギリスでは住宅が滅失するまでの期間が70〜80年を超えるのに対し、日本では30年程度です。

アメリカやイギリスでは複数世代で同じ住宅が利用されることも多いですが、日本では、子どもが誕生したときに新築であっても、その子どもが死ぬまで使われることは少ないです。
そのため、短い期間で中古住宅の価値が失われてしまいます。

日本は新築の価値もすぐに低下し、売るときには仲介業者を中心に個別的、恣意的に価格付けが行われやすいため、金融機関が住宅そのものを担保として資金貸付することが難しいです。
結果、住宅の価値ではなく、人の返済能力を判断するしかなく、安定した企業に勤めて「通常」のライフコースに乗った人々に住宅ローン借入ができて、そうでない人は借入しにくいという特徴もあります。

まとめ

本日見てきたように、空き家問題の本質的な課題は、単に「人口減少で空き家が増えている」というだけでなく「全体の住宅供給量を需要に応じて調整する機能が弱い」というところです。

具体的には、

  • 具体的には、賃貸住宅よりも新築建設のほうが特に大手民間企業が合理的に選択しやすい

  • 空き家所有者が使わなくなった住宅を廃棄するインセンティブが弱い

  • 居住者保護が強く、人に移動を要請することを伴う政策実行ハードルが高い

というところにアプローチしていかないと、根本的解決にはならないと考えてます。
空き家有効活用のアイデア自体はあってもいいとは思いますが、しばしば議論されるように、新築を作るならば、それ以上に「空き家をどのように壊していくか」という議論が根本的には必要なのだろうと。

明日は、戦後の住宅政策や生活スタイルの変化を軸に、住宅供給過多の状況がなかなか是正されなかった背景と、居住範囲の制限がなかなか進まない理由に踏み込んでいきたいと思います。

それでは、今日も1日お疲れさまでした。
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林 裕也@30代民間企業の育児マネージャー
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