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This is Kumagaism【第0話】


みんなでせーので合わせる。鳴り響く一発目。

全力でその瞬間を生きる者たちの音は人生を肯定してくれる。そして俺もまたギターひとつで肯定されてきた。

バンドマンになりたかったんだ。

まだやれる、まだやれる、まだやれるんだ俺は。
俺の人生はその繰り返しだった。

10代の頃、いつ終わってもいいと思っていた。
その割に全力で生きていなかった。
好きなバンドの曲を聞きながら、ただちょっとしたヒロインになりきっていただけだった。

27クラブを信じていない。
その年齢で死にたいとかも思ってもいない。
でも見えない将来の壁に風穴を開けられないでいた。

どうしてこのバンドが、どうしてあいつは。
あの人に繋がれたら、このイベント出たら。

考えうる全部の羨ましさについて考えたことあるけど、大した意味なんてひとつもなかった。
己の小ささを知らされることもなく、ただひたすら無痛で毒が回る。あとでその代償のデカさも知った。

不器用に過ごしてきたおかげで後悔もたくさんある。でもその後悔のおかげで今幸せになれてる。

大抵のことは無傷って言ったら大袈裟だけど、だいぶ色んなことに理解が及ぶ様になってきた。


そして気付いたらバンドはやらなくなっていった。

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