外国為替市場における長期的な外貨への投資需要について。
外国為替市場には、多くの機関投資家、個人投資家、トレーダーなどが参入し、彼等は「利益の追求」を前提に外国為替の取引を行っています。
多くの人が「外国為替市場を対象に利益を追求する」という目的で行っている為替取引としては、いわゆる「FX」などを想定されるかもしれません。
ただ「外貨(自国通貨以外の外国通貨)によって行える投資」という視点では、以下のような形でも、それぞれに応じたリターン(利益)を追求していくことができます。
外国為替市場における長期的な外貨への投資需要について
いわゆる「FX」を介して行われている為替取引(トレード)では「デイトレード」「スキャルピングトレード」と呼ばれるような、短時間の間に行われる売買が、その大多数の割合を占めています。
このような短時間の間に行われる為替取引は、その取引対象となる通貨の「買い」と「売り」が短時間の間にそのままリターンする形となるため、短時間の相場には影響を及ぼしても、長期間の相場には、ほぼ影響を及ぼしません。
対して、冒頭で挙げたような「長期間」を前提とする外貨を用いた海外投資では、少なくとも、その「投資」を行っている間は、その対象となる外貨を長期間、保持する形となります。
つまり、短期間の間に「買い」と「売り」がそのままリターンするだけの取引とは異なり、自国通貨を売って外貨を買った状態のままになるということです。
当然、そのような為替取引は、そのような取引が増えれば増えるほど、自国通貨の「通貨安」の圧力となり、同時に、その投資対象となっている外貨に対しては「通貨高」の圧力となります。
このような「長期間の保持(ホールド)を前提とする売買の偏り」は、その規模が大きくなるほど、本当の意味での「為替レートの変動」に大きな影響を及ぼすということです。
外貨への長期的な「投資」が及ぼす為替相場への影響
例えば日本(日本円)は長らく、低金利(ゼロ金地)が続いている中で、2022年頃から、米国(米ドル)は金利を徐々に引き上げ、2023年には5%を超える高金利が付くようになっていました。
よって、低金利の「日本円(JPY)」を売って高金利の「米ドル(USD)」を買い、そのまま米ドルを保持していれば、保持している米ドルにはどんどん金利が付くため「円売り米ドル買い」という投資需要が生まれていたことになります。
実際に2022年は110円台だったドル円相場は、2024年には一時、160円台まで円高に進む結果となっていました。
もちろん、日米間の「金利差」だけが、円安ドル高の要因というわけではありません。
ですが、日本(日本円)と米国(米ドル)における「金利差」が『円売りドル買い』の1つの要因になっていたことは間違いありません。
金利の低い日本円が売られることで、日本円には「通貨安」への圧力がかかり、金利の高い米ドルが買われることで米ドルへの「通貨高」の圧力がかかっていく形になっていたということです。
高金利の通貨が必ずしも買われるわけではない。
ここでは馴染みやすい「ドル円」を1つの例として挙げましたが、外国為替市場においては、必ずしも金利の高い「高金利の通貨」が買われていくというわけではありません。
それは実際に「外国為替相場の歴史」が証明している事でもあり、発展途上国における通貨などでは、先ほど例に挙げた米国(米ドル)よりも、遥かに高い金利が付いていることも珍しくありません。
ですが、そのような発展途上国が発行している通貨は、通貨そのものとしての信任や為替レートの変動リスクなどが伴うことになります。
そのため、必ずしも「高金利の通貨」が投資の対象になるわけではないということです。
ただ、米国における米ドルは「国際通貨(基軸通貨)」としての地位も確固たるものにしている点も含め、米国や米ドルそのものへの信用を疑うような投資家はまずいません。
よって、途上国の発行通貨に対して、米ドルの方が明らかに高金利となっていれば、それは投資家としても、手堅く、ほぼ確実なリターンを見込める投資ということになります。
そういった視点で言えば、発展途上国が発行する通貨の高金利と、米ドルのような確固たる信頼と地位を築いている国際通貨の高金利は、その意味合い自体が異なる側面もあるということです。
外貨への長期投資は「為替レートの変動」も考慮される。
よって、長期間に及ぶ外貨への「投資」においては、その間の「為替レートの変動」が避けられない要因となります。
そのため、為替レートの変動による利益をとくに視野に入れていないとしても、結果的に、その変動に伴う利益または損失のどちらかが生じてしまう形になります。
仮に「金利差による収益」を目的として外貨への投資を行い、金利差に基づく利益を得ることができていても、その為替レートの変動によって、それ以上の損失が生じていた場合、その投資は失敗だったことになります。
つまり「金利差を狙った外貨投資」や「海外資産への投資」などは、必然的に、その「為替レートの変動」も視野に入れて行わなければならないことになります。
「長期的な為替レートの変動は小さい。」
「一時的に損失が生じる方向へと変動したとても、最終的には投資を行った時点の水準に戻るだろう。」
もし、このように想定するのであれば、純粋に「金利差」や「海外資産への投資」によって十分なリターンを見込めるかどうかが投資の判断基準になるはずです。
また、為替レートの変動による損失が一定範囲で生じる可能性があると想定した上でも、それ以上のリターンを十分に想定できるなら、そのように想定する投資家は、そのまま投資を行うはずです。
このように「金利差を狙った外貨投資」や「海外資産への投資」は、為替レートの長期間な変動に伴う損益も相対的に捉えた上で行われているということです。
外国為替市場を占める具体的な「取引」の区分
その上で、以下は外国為替市場において実際に行われている「取引」を、その種別ごとに分類した資料(2019年まで)です
上記の通り、取引高の約半分ほどを占めている取引種別は「為替スワップ」と呼ばれる取引であり、これは為替レートの変動リスクを回避するための、いわゆる『両建て取引』を意味するものになります。
具体例としては、米ドルを多く保有しながら日本円による商取引などを頻繁に行っている事業者・金融機関などが、米ドルの日本円による米ドルの現物を買います。
併せて、米ドルによる日本円の先物売りを同時に行うことで、為替レートの変動によって生じてしまう恐れがある損失のリスクを回避できることになります。
本来、先物取引というのは、このような商取引におけるレート変動のリスクヘッジなどが、その主な用途であり、こうした「為替スワップ」による取引が、外国為替市場における取引高の大部分を占めているということです。
よって、このような「為替スワップ」による取引は、実質的には「両建て」に該当するため、実際に取引の対象とした通貨のどちら側に対しても、通貨高および通貨安への影響を及ぼしません。
要するに外国為替取引の半分を占める取引(売買)は綺麗に相殺されている事になるため、現実の為替レートの変動に影響を与えるのは『その残り半分に相当する取引(取引量)』ということです。
外国為替市場における「現物取引」と「先物取引」
先ほどの取引種別ごとの取引量の推移データから、その半分ほどの割合を占める「為替スワップ」に相当する取引分を除外した場合、残りの大半を占めるのは以下の2つの為替取引となります。
実質的に外国為替相場の動向に「影響」を及ぼしているのは、この2つに区分される為替取引ということになります。
その上で「スポット」は『直物取引』と呼ばれるもので、インターバンク市場(銀行間取引市場)における「即時決済」を基本とした最も一般的な為替取引がこれに該当します。
対する「フォワード」は、いわゆる『先物取引』のことで、約定から資金受渡日までの期間が3営業日以降の取引がこの「フォワード取引」に分類されます。
この「フォワード(直物取引)」と「スポット(先物取引)」による為替取引(通貨の売買)の『偏り』が、実質的に為替レートの変動を形成しているということです。
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よって、ここで言及したような以下の取引も全て、スポット(直物取引)またはフォワード(先物取引)のいずれかの形で行われています。
このような長期的な外貨への投資を含め、外国為替相場を形成している他の為替取引についての考察や、その動向を分析(予測)する具体的な手段については、以下のような記事も併せて参考にしていただければと思います。
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