外国為替の「市場」とその「相場」を形成する通貨取引について。
外国為替市場で取引されている「通貨」は、投機や投資を前提とする需要(投資需要)に伴う売買だけではなく、それらとは異なる需要(非投資需要)に伴う売買も併せて行われています。
そのような「投資需要に基づく通貨の売買(為替取引)」と「非投資需要に基づく通貨の売買(為替取引)」は、主に以下のようなものに分類することができます。
この記事では、上記の為替取引について、それぞれが外国為替相場に及ぼしている影響などを考察していきたいと思います。
入国者・出国者による通貨交換について
以下、BIS(国際決済銀行)が推計している外国為替市場における各主要通貨の取引高の推移です。
このデータから推計すると、外国為替市場における「取引高」は以下のようになります。
これに対して「入国者・出国者による通貨交換」に相当する取引量は、出入国在留管理庁による出所データに基づくと、以下のような推計値になります。
上記で推計した「入国者・出国者による通貨交換に基づく取引量」は、入国者、出国者の一人あたりの通貨交換量を2000ドルと想定して算出しています。
よって、実際にはその2~3倍、もしくは、それ以上の通貨交換が行われている可能性も無いわけではありません。
ですが、仮に入国者、出国者の一人あたりの通貨交換量を、その5倍の10000ドル(ドル円レート150円換算で150万円ほど)と想定したとしても、各取引高の推定値は、そのまま5倍に金額になる範囲に留まります。
2022年度の外国為替市場における日本円の取引高、313兆2500億ドルに対する「割合」としては、どちらにしても、微々たるものにしかなりません。
313兆2500億ドルを母数とした「入国者と出国者による外国為替取引」による差額、324億2000万ドルの割合は、わずか0.01%以下です。
この取引量をそのまま5倍に相当する1500億ドルほどと想定したとしても、やはり313兆2500億ドルの母数に対しては、0.05%ほどの割合でしかないということです。
貿易業者などの商取引による通貨交換について
以下は財務省が公開している、2012~2022年までの日本における輸出総額と輸入総額の推移になります。
上記から推計できる2022年度の貿易収支は以下のようになります。
2022年度の輸出および輸入に伴う外国為替の取引高は米ドル換算で1兆4400億ドル。
こちらも2022年度の外国為替市場における日本円の取引高、313兆2500億ドルに対しては、0.5%にも満たない割合でしかありません。
入国者・出国者による通貨交換、および貿易業者などの商取引による通貨交換においては、国際的な基軸通貨である米ドルとの通貨交換のシェアが最も高いことは明らかだと思います。
よって、米ドル以外の他の通貨におけるこれらの割合は、より少ないものになると考えられます。
これらの推計からも読み取れる通り。入国者・出国者による通貨交換、および貿易業者などの商取引による通貨交換に該当する為替取引が、実際の外国為替相場の「変動」に及ぼす影響。
つまり、外国為替の交換レートに及ぼす影響は、ほぼ無いに等しいと考えて問題はないということです。
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入国者・出国者による通貨交換、貿易業者などの商取引による通貨交換に該当する為替取引については、以下の記事でも、より詳しく解説しています。
政府・中央銀行による為替介入。
外国為替市場では、時に各国の「通貨政策(金融政策)」を担う通貨当局、中央銀行などが、自国通貨の為替レートに影響を与えるために「市場」に介入するケースがあります。
ただ、特別なツテや情報源を抜きに、一般的に入手できる範囲の情報や経済情勢などから、そのような国家単位の「為替介入」の予測を的確に行っていくことは、まず不可能だと思います。
よって、実際に一国の「為替介入」を知ることができるのは、実際に行われた市場介入によって大きく為替レートが動いた後、事後的に公式な声明があった場合か、そのような事実公表が無い中で、それを推察するしかありません。
いずれにしても、為替介入が行われた場合の為替レートの変動は、極めて突発的なものになる場合がほとんどです。
よって、このような「為替介入」は、事前にそれを的確に予測してリターンに結び付けるという事がほぼ不可能に近いのが実情だと思います。
ゆえに、そういった視点で為替介入を的確に予測しようとする必要はなく、また、それをしようとする事自体が徒労でしかありません。
あくまでも為替相場には、時にそのような「為替介入」が行われる事があり、それに準じた突発的な変動を伴うことがあるという事実。
これを踏まえた上で、それに対処できる「対応策」を講じておけば、それで十分ということです。
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政府・中央銀行による為替介入については、以下の記事でも、より詳しく解説しています。
FX会社などを介して行われている短期的な為替取引
いわゆる「FX」を介して行われているような為替取引(トレード)では「デイトレード」「スキャルピングトレード」と呼ばれるような、短時間の間に行われる売買が、その大多数の割合を占めています。
このような短時間の間に行われる為替取引は、その取引対象となる通貨の「買い」と「売り」が短時間の間にそのままリターンする形となるため、短時間の相場には影響を及ぼしても、長期間の相場には、ほぼ影響を及ぼしません。
よって、外国為替相場を「短期的な視点」で捉えるのであれば、FX会社を介して行われているようなデイトレードなどの短期的な為替取引の動向は、それを分析する意義もあるかもしれません。
ですが、為替相場を「長期的な視点」で捉えるのであれば、そのような短期的な為替取引の動向などは、さほど考慮する必要もありません。
ただ、実際にFXを行っているトレーダーの大多数は、まさに「デイトレード」のような短期的な取引を行い、その大多数が勝てていない状況にあります。
そもそも外国為替相場においては、短期間の相場の動向を予測(分析)する事自体が極めて「難しい」という特性があるのが実情です。
いわゆる「相場」の動向を予測する手段は『テクニカル分析』と『ファンダメンタルズ分析』に大別されますが、短期間、短時間の相場の動向は『テクニカル分析』による予測が基本となります。
ファンダメンタルズ分析では、そもそも短期間、短時間の相場の動向は、まず予測することはできないからです。
ゆえに、実際にFXを行っているトレーダーの大半は、テクニカル分析を行って外国為替相場を予測しようとしています。
ですが、外国為替相場はテクニカル分析による予測が極めて難しい性質を有しているため、これが大多数のFXトレーダーが負けている決定的な要因となっています。
よって、外国為替相場は、そもそもテクニカル分析が困難なため、短期的な相場の動向を予測することが非常に難しい相場と言えます。
そんな相場を対象に、極めてリスクの高い短期的なレバレッジ取引を行い、継続的に勝ち続けることなど、まず不可能です。
ゆえに、外国為替相場はデイトレードのような短期的な「投機」の対象にするのではなく、長期間の動向を予測した上で行う「投資」の対象にする方が賢明ということです。
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FX会社などを介して行われている短期的な為替取引については、以下の記事でも、より詳しく解説しています。
長期的な外貨投資に基づく為替取引
よって、外国為替相場の「長期的な変動」に最も決定的な影響を与えているのは、以下のような区分の上で言えば「長期的な外貨投資に基づく為替取引」ということになります。
つまり、為替相場の長期的な変動を捉えていく上で、その分析対象としていくべきなのは、金利差収益、海外投資などを目的とした長期的な為替取引の動向ということになります。
まさに長期的な「外貨投資」に基づく為替取引こそが、実際に為替レートに最も大きい影響を与えていると言っても過言ではないということです。
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金利差収益、海外投資などを目的とした長期的な為替取引については、以下の記事でも、より詳しく解説しています。
外国為替相場を分析(予測)する具体的な方法
為替介入という特殊な事態を除けば、実質的に外国為替相場を動かしていると考えられるのは「長期的な外貨投資に基づく為替取引」であり、これに該当する取引は以下の3つに分類することができます。
これらの「長期的な外貨投資に基づく為替取引」については、以下のような記事がございますので、こちらも是非、併せて参考にしてください。
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