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「最幸の90分間」 2021.2.8 プレミアリーグ第23節 リヴァプールvsマンチェスター・シティ レビュー

シティはリーグ戦9連勝と絶好調でプレミアリーグ首位の中、鬼門アンフィールドに乗り込む。対するリヴァプールは、アンフィールドで2連敗中。イマイチ調子に乗れていない。

そんな中で迎えた世界最幸のカードと言えるこの一戦。ピッチの中ではどのような現象が起きていたのか一緒に振り返っていきましょう。

両チームのスタメンは下の通り。スタメンを見ても怪我人の多さが気になる。特にリヴァプールは両CBが本職ボランチという厳しい台所事情。もちろん、ファンダイクは怪我でいない。対するシティもデブライネがいない。鍵はカンセロ。ここ最近ずっとカンセロ。そこについては後ほど触れる。

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■ビルドアップvsプレス

僕は試合を観るときにどこに注目するか。まずはお互いの陣形がどうなのか。それを開始5分で観察します。そして、現代サッカーは攻撃時と守備時で陣形が違うことが当たり前なので攻守それぞれを見る。そして、どういう状況の時を見るかだが、これはビルドアップの時だ。言ってしまえば攻撃の始まり。相手からすれば守備の始まり。なぜか。そこが論理が一番詰まっている局面だからだ。4つの陣形を頭に入れ込む。この試合で言えばシティのビルドアップ時のシティの陣形とリヴァプールの陣形。リヴァプールのビルドアップ時のシティの陣形とリヴァプールの陣形。そして、この両チームを毎試合観ていれば、いつもと違ってこの試合で変化をつけてきたかどうかも分かる。その場合、なぜそうしたのかを両チームのゲームモデルや選手それぞれの特徴などをヒントに監督の頭の中を読み取る作業に入る。まずはシティのビルドアップ時を見ていく。

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ここまで2つの図を出していますが、ジョーンズとチアゴの左右の位置が逆でしたね。次の図から修正します。リヴァプールはキックオフのシティのバックパスを合図に猛プレス、ハイプレス。リヴァプールのプレスの仕方はこうだ。

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リヴァプールはウイングのサラーとマネが相手のCBにプレスをするのが特徴だ。本来マークするはずだったSBとCBの間にポジションを取り(中間ポジション)、SBのパスコースを切りながら寄せて行く。外切りプレスだ。フィルミーノは相手のアンカーやボランチを自分の後ろに置いてマーク(図では前に置いてしまっているが)。ボールを奪った時に相手のアンカーやボランチに対して先手を取ってカウンターに出れるメリットがある。背中で相手を見る、カバーシャドウと言われるやつだ。サラーやマネもボールを奪った時には一番ゴールに近い位置にいる。中間ポジションを取るということはボールを奪った時に自分がフリーということなのでカウンターの威力が増す。なんてロジカルな構造なんだ。433、見方によっては4312にも見える。前線からのハイプレス時はこのような守備の仕方だ。SBは浮いてしまう。でもフィールドプレーヤーの中で一番ゴールから遠い選手であり、足元の技術もSBはそこまでない。という考えからそこを捨ててでも外切りプレスだ。

そこで困るのはシティ。シティはこれまでさんざんこの外切りプレスしてくるリヴァプールに泣かされてきた。今回のペップの答えはこうだ。「ビルドアップ時にSBを置かない」。なんて性格の悪いやつなんだ。1つ前の図のようにSBのカンセロがアンカーのロドリの横まで中に入ってくる。偽SBと言われたりアラバロール(バイエルン所属のアラバがペップがバイエルンを率いていた時によくやっていたから)と言われたりするが最近はこう言われる。「カンセロロール」。カンセロの位置を含め、シティのビルドアップ時の陣形は対戦相手によって様々だ。相手によって変える。今回はカンセロをアンカー横に置いた3223。325と言われたりするが、そう言わずにあえて3223と言う。なぜか。ビルドアップ時の陣形は変わるが、3トップはいつも基本的には3トップだからだ。3トップのウイングがライン際まで幅を取り、且つ高い位置に取ることで深さも取る。攻撃時のポジショニングで重要な「幅」と「深さ」。この2つをウイングに任せている。これにより相手のSBは前に出られずにピン留めされてしまう。CBはSBより高い位置を取るわけがないので同時にCBもピン留めされてしまう。ウイング2人で相手4人をピン留め。3バックにすればいいじゃないかと思うかもしれないが、真ん中にはフォワードがいる。最終ラインの枚数は原則的に相手の人数+1がセオリーなので4人がピン留めされる。前線を3vs4の状況を作る。もちろん、数的不利だ。でもどうだ。フィールドプレーヤーは10vs10。ここは退場者や怪我人が出ない限り絶対不変だ。ということは、残りは7vs6で数的優位になる。キーパーも含めたら8vs6だ。相手の6人の配置によってこちらの7人の配置を変える。これがペップの考えだ。フリーな選手が必ず2人いる。今回のシティの7人の配置は322。リヴァプールは33という配置。リヴァプールは相手の2人フリーな選手を誰にさせるかを考え抜いた結論が、相手の両SBだ。理由は先程述べた通り。-2の計算をするとキーパー含めても6vs6になる。その為の外切りプレスでもある。まずここまでを頭に叩き込んで欲しい。これを頭に入れておかないとサッカーは語れない。

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リヴァプールの狙いはこうだ。相手のSBはカバーシャドウで済ませてしまい、後はハイプレス。仮にSBに浮き球でボールを出されてしまっても浮き球はグラウンダーよりパスが到達するのに時間がかかるのでスライドが間に合うし、パスの精度やトラップの精度が落ちるし、なにより「SBしか出すとこないよね?」というマインドでプレスしているのでSBに出されても願ったり叶ったりの状況になるということである。この形にシティは幾度となく泣かされてきた。そこで今回のペップの解答が3223だ。

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これでまずフィルミーノはカバーシャドウしないといけない相手が2人になってしまった。そして、願ったり叶ったりの位置にいたSBがいなくなる。ジンチェンコはさほど位置は変わらないが、カンセロは完全にボランチ。

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これでサラーとフィルミーノのゲートとマネとフィルミーノのゲートの先にロドリとカンセロが待ち構える配置に。この2人がビルドアップの出口になることでリヴァプールのハイプレスの威力を最小限に抑えようとした。このゲートを通されたくないとフィルミーノやサラーやマネが立ち位置を少し修正したりでプレスをかけるどころではなくなる。それをも抑えようとしてきた時にはこれだ。

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ベルナルドがSBの位置に降りてくる。いや結局SBの位置に降りるんかい!と思うかもしれないが、あれとこれとでは訳が違う。まず、外切りプレスが無効化されていること。リヴァプールが願ったり叶ったりの状況でのSBではないということ。さらには、ベルナルドの技術の高さに加え、左利きということで仮に後ろ向きでボールを受けても簡単にプレスを剥がすことができる。

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もしベルナルドに相手がついてきたらフォワードのフォーデンがスルリと降りてくる。この動きを「偽9番」と言う。ちなみに、ジョーンズとチアゴの位置は前半早々に左右を入れ替えている。この変則的なシティの右の動きに対してチアゴで対応させたかった考えか。

3223がプランAだとしたらペップはプランBも用意していた。それが3223から4123だ。は?え?元の433(4123)に戻るの?うん、そう。戻る。

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カンセロ、ロドリ、ディアス、ストーンズ。この4人がそれぞれ反時計回りに1つずつポジションを動かしたのが分かる。こうすることにより、マークのズレを生む、守備の基準点を狂わす(自分が基本的にマークする相手)。こうすることで、一瞬だけでもプレスの猛威を抑える考え。このボランチがCB横に落ちて4バックを形成するのJリーグでもやっている監督いるなあ。先駆者だったのか?(笑)

ここまでがシティのビルドアップの構造だ。実にロジカル。カンセロがこの動きをするだけではなくボールも捌けるので凄い。8人制でこれをやるにはどうしようとかすぐ考えてしまう。とても難しいが、だからこそ奥深くて楽しい。

さあ、ここからはリヴァプールのビルドアップだ。シティの守備陣形はリヴァプールと同じ433で外切りプレスだ。これは完全にリヴァプールを真似ている。

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CBが開き、SBが高い位置を取り、インサイドハーフがCBとSBの間に降りたり、ワイナルドゥムが降りたり。そこに秩序はあまりなさそう。ワイナルドゥムのビルドアップのもたつきが目に付いた。ターンできるところでターンできないというのはとても痛い。後半からシティは守備時433ではなく442に変更。これがズバリはまってアリソンのキックミスを誘発して先制点ゲット。

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アーノルドとロバートソンをフリーにさせるのはリスクが高い。という考えか。ウイングの位置を中盤まで下げた。ベルナルドは自陣まで攻め込まれるとロドリの脇までしっかりプレスバック。カンセロ、ベルナルドのポルトガル人コンビがチームを引っ張る。ユナイテッドのブルーノとCR7と今ポルトガルがとても熱い。イングランドも良い若手が出てきているけれども。

シティの攻撃時の最終的な狙いはウイングと相手SBをできるだけペナルティエリア付近で1vs1の状況に持っていくこと。それも、特にスターリング側。アーノルドの守備が弱点なので。外してしまったがそこからスターリングがPKを貰っている。今回はシティ十八番のニアゾーン侵入はほぼほぼなかった。スターリングにいかに良い状況を作ってあげるか。この為に、後方から時間とスペースの貯金を前線に届けながら最終的にスターリングへ。


■オプションの多さが試合を優位に

この試合は最終的に4-1でシティの勝利。シティとリヴァプールの一番の違いはオプションの多さ、プランBを持っていたかどうかだ。シティはビルドアップ時にチーム共通認識を持った上でいくつかの配置を用意。一方のリヴァプールも、配置は1つだけではないがそれは共通認識を持った上でというよりその場その場で個々が判断してやっている印象。なので、認知から判断までの時間がシティより必要になってくる。それは果たして良い戦術と言えるのかどうか。シティは守備時も後半から442に変更するプランBを発動。プランBのメリットは良くなかったところを改善できるのに加え、相手がプランAに対して対策を取っていた場合に全くの無駄にさせてしまえるところだ。今回で言えば、クロップがハーフタイムに「シティは433で守ってきている。それは分かっているな?それならアーノルドとロバートソンが浮くだろ?アーノルドとロバートソンのキックの精度はSBで世界一、ニだ。活かせる絶好のチャンスじゃないか。彼らにボールを届けよう。」と指示をしていたとして、プランBを発動されるとその指示が完全に無駄になる。貴重なハーフタイムを棒に振る。リヴァプールの選手たちの混乱も生じる。このように、後半開始から陣形を変えるメリットは意外とあるのだ。このオプションの多さ、プランBを持っているシティ、ペップが今回は一枚上手だった。ただ、世界最幸のカードだったのは間違いない。この試合より強度の高い試合は今季もう生まれないと思う。やはり2人とも名将なのは変わりない。次の対戦でクロップがどう対策してくるか、今からもう待ち遠しい。最幸の90分間をありがとう。

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