KID Aとは何だったのか
2000年、すでにOK computerでその地位を絶対的なものにしていたロックバ ンド、Radiohead。彼らはロックにコンピューターの要素を取り入れるとい う革新的なアルバムをリリースし、多くの期待を寄せられていた。 そんな彼らがOK computerの次にリリースしたのはKID Aだった。
当時の反応
KID Aのリリースに、当時の多くのファンの混乱しただろう。 1曲目。彼らが再生ボタンを押しまず流れ込んできた音は聞き覚えのあるギ ターサウンドではなく、冷たく不気味な電子音だった。 そう。このアルバムは、ロック要素の排除されたロックアルバムなのだ。 このアルバムが発売された当初、多くの音楽メディアは酷評をした。
「商業的自殺」とも言われたこのアルバムは、日を増すごとにその評価を 上げていった。つまりこのアルバムは、1度聴いただけで理解できるような アルバムではなく、とにかく難解だったのである。 しかしそんなこのアルバムは、2000年のベストアルバムに選ばれるまでの高評価を得るのだった。
Radio Headの革新性
先述した通り、このアルバムでは基本的なロック要素が排除されていて、 ギターサウンドが聴こえてくることもほとんどない。 そして今までそんなロックアルバムを作ったロックバンドしたのは、彼らだけだったのだ。
彼らは次第にそのスタイルを定めていったが、常にどのバンドよりも新しい ことに挑戦していた。彼らの最初のアルバムである 「Pablo Honey) (1992) は、ポストグランジなどの要素を取り入れたアルバムで、名曲「Creep」 などが収録された。彼らの二作目のアルバムとなる
「The Bends」 (1995)は、 「High and Dry」 「Fake Plastic Trees」 などといったアコースティックソング から、「Street Spirit (Fade Out)」 「Just」などといった、後期の彼らの 作品の要素を感じる楽曲が収録され、高評価を得た。
「OK computer」 (1997)は語る必要のないほどの大名盤で、コンピューター を取り入れた実験的なサウンドが高い評価を受けた。
「In Rainbows」 (2007)では、販売価格を買い手に決めさせるという販売方法である、
「Pay-What-You-Want」 を導入し大きな話題を呼んだ。2016年以来 彼らの新たなアルバム(過去録音等を除く)はリリースされていないが、未だ に音楽業界において大きな存在感を放つバンドなのだ。(メンバーのトムヨーク、ジョニーグリーンウッドは別のバンド である、「The Smile」 として活動している)
おすすめ曲
このアルバムには、革新的であると同時に魅力的である楽曲が多数存在するが、その中でも特におすすめの5曲を紹介したい。
「EVERYTHING IN ITS RIGHT PLACE」
この曲は、このアルバムの一曲目を飾る彼らの代表曲の一つでもある。 聴いていて孤独な宇宙に放り出された感覚になるのは、僕だけではないだろ う。この曲は終盤にかけて様々な音が重なっていくのだが、最後は一つの音 となるのが聴いていて爽快だ。1トラック目というのはアルバムの雰囲気を決める重要な曲であり、 まさに相応しい楽曲といえるだろう。
「THE NATIONAL ANTHEM」
ジャズ的な要素を多く感じるこの楽曲では、ずっと同じベースラインが鳴り響いている。終盤では吹奏楽器も登場し、独特なシンセサイザーの音 の関係もあり、唯一無二の曲となっている。 ライブでこの曲を演奏するときは、彼らの独特の雰囲気とギタリストのジョニーの多彩さを楽しめるパフォーマンスとなっている。
「HOW TO DISAPPEAR COMPLETELY」
この楽曲もファンからの支持が非常に高い。 透明感のあるアコースティックサウンドから、終盤のストリングスまで、 透明感で満たされた楽曲だが、歌詞は現実逃避などをテーマにしていて、 彼らの楽曲の中でも特に悲しいものである。 聴き慣れるまでは「長くて単調」と感じるかもしれないが、ある瞬間突然 今までになかったほどの感動を覚えるはずだ。
「IN LIMBO」
この曲はあまり語られることがないと同時に最も独特な雰囲気を持つ曲だ。 まるで、「Pablo Honey」の楽曲、「Blow out」 をKIDAのサウンドに落とし 込んだような浮遊感を持っていて、歌詞のタイトルにもある天国と地獄の間 を意味する、「Limbo」 という言葉のイメージともよく合っている。
「MOTION PICTURE SOUNDTRACK」
個人的にはアルバムのベスト曲に選びたいほどの名曲だ。 このアルバムには「シングルカット」という概念が存在しない為、 どの曲が代表曲なのか、というのは聴き手の判断によって選ばれるのだ。 この曲はオルガンやハープなどといった楽器が使用されており、とても 幻想的な曲に仕上がっている。歌詞は世間や人生に対する絶望的な見方が テーマだ。この曲は最終トラックだったこともあり、「I will see you. In the next life」という歌詞から、決していい結末では無かったことが受け取れる。
ジャケットの魅力
このアルバムのジャケットには、氷山の後ろに赤い空が広がっている 不思議な背景が描かれている。この二つの物のイメージは対照的であり、多くの人が不気味に、そして 魅力的に感じただろう。これは「Stanley Donwood」 という英国のアーティ ストが手掛けたものであって、他のアルバムのジャケットも、彼の作品であ る。彼のアートはレディオヘッドの独特の雰囲気によく似合っていて、 彼らの作品をより良いものにしていると思う。
まとめ
この記事を通して、このアルバムの魅力を存分に伝えることができていたら光栄で す。伝えるまでもない魅力が満載のアルバムですが、何度も聴き返した僕も気づいていないことがあるかもしれません。それだけこのアルバムは遊び心と、音楽業界への反骨心の詰まった アルバムだったということだと思います。
このアルバムにはミュージックビデオやプロモーションが無かったこともあ り、Youtubeなどで彼らの音楽を楽しんでいる人たちには見逃されてしまう ことがあるかもしれないので、是非CDやレコードなどで楽しんでみて下さい