小説【あべこべ】
「あれが見えるか?」
動画内、真夜中のどこかの屋上だろうか。
ライトに当てられた男が明るい声で柵に体を持たれかけながら何かを指さしている。
「病院でしょ、看板に書いてある」
面倒そうに高校生ぐらいの少女がそれに応えた。
ちなみにどちらも有名人でもなければインフルエンサーでもない。
この動画だってライブ配信だってのに最初の視聴者は10人行くか行かないか。
だけどコメント欄は、余りにもあれていた。
《何を呑気に話してんだよ!》
《飛べ!飛べ!!www》
《どうせ、釣りだろ?》
《通報しろ!》
余りにも動画の内容とは不釣り合いのコメントが並んでいる。
かくいう俺もどうしたら言いかわからないままその動画に釘付けにされてる1人だ。
この動画は、つい数分前にライブ配信された。
動画のタイトルは、《気になることがあるから聞いてみた》
配信主は、ジョーカー。
動画は、暗い屋上からスタートして男の声で「やぁそんな所にいて寒くないか?」なんて呑気な挨拶から始まった。
ちなみに時刻は深夜の1時に回った頃だった。
眠ろうかでも眠くない、暇でたまたま見ていた動画サイト《U-CAST》で黒いサムネイル画面に興味が湧いて開いてみた。
映し出された画面を見ながら「なんだこれ?」なんて思いながら流みをしていた。
丁度、タバコを吸おうと目を離した時だった。
横目で見ていたコメント欄が突然、はっ?の連呼が始まり、荒れ始めたのだ。
何が起きた?そう思いながら画面を見ると息を飲んだ。
屋上の風景は、変わってない。
映し出されたのは、白い柵とそして柵の向こう側に立つ一人の少女の姿だった。
「来ないでください…」
制服と見た目から恐らく高校生ぐらいの少女だろうか暗く冷たい目でカメラを睨みつけた。
「まぁまぁ、そう邪険にしないでくれよ、邪魔はする気なかいからさ、ただ聞きたいことがあるんだよ」
男の声でそう言いながら、揺れていた画面が少しだけ下がりながら固定されたのか画面が揺れなくなった。
すると画面の右端に黄緑色の派手なジャケットを羽織った金髪の男の背中が写った。
「君、クロコさんだろ?今自殺しますって生配信してる」
その男が告げると彼女の体ゆっくりと下がった。
「慌てんなよ~さっきも言ったろ俺は君の事を邪魔しないって~」
男は、笑いながらそういい、証明するかの様に両手を上げた。
「なら…なんでここに来たんですか?」
クロコは、寒さなのか男の不気味さなのか微かに震えた声で聞きいた。
「さっきも言ったろ、君に聞きたいことがあったから聞きに来たんだ、近かったし直接聞けるタイミングなんてそうないだろ?だから話をしてくれたら飛ぶなりなんかり好きにしていいからね、少しだけお話をしようじゃないか?」
男のヘラヘラとした言葉に頭が微かに熱くなるのがわかった。
いや、そこは、止めるところだろ!
しかし、男は、言ってる事を証明するかのようにゆっくりとクロコとの距離を取るとその場に座り込んだ。
「聞きたいことってなんですか?別に私じゃなくてもいいんじゃないんですか?」
「いや、君じゃないとダメなんだ、なんせ死のとする人間でライブ配信するやつなんて今ここで君しかいないじゃないか?」
男の無神経な言葉に気づくと《何してんだよ通報しろよ!》っと無我夢中でコメント打ったが何も返って来なかった。
俺は、慌てて動画を閉じてクロコ ライブ配信で検索しクロコの動画に飛ぶとそこの動画は、クロコの顔がアップで映された動画と彼女の自殺を止める為のコメントがほとんどを支配していた。
「率直に聞くよ、君はなんで死にたいんだい?」
男がそう問うとクロコの目がより一層黒いものになった。
「理由必要ですか?こんな世界に未練がないからですよ、それだけですよ」
「それなら、なぜライブ配信なんてしてるんだい?」
「記録ですよ、アタシがここにいたっていう記録です」
「誰の為の記録だい?誰に見せたい?誰に知ら締めたいんだい?」
男との問答に彼女の言葉が詰まった。
「死にたいから死ぬ、それは理解しよう。だってなんで生きてるんですか?って聞かれたら生きたいから生きてるだけなんだから、死ぬのだってそんな理由でもなんの不思議もない。でもライブ配信となれば話は別だろ?違うかい?」
「何が言いたいんですか?」
「聞かせておくれよ、このライブ配信してる理由を、気になるんだよ~」
男は、猫なで声を出し、そんな男に呆れた様な表情を浮かべたクロコは、スマホを弄りカメラを反転させると胡座で座る金髪のピアスだらけの化粧をした男の姿を映した。
「今この配信を3000人の人が見てます。貴方の顔はここで晒されたら明日からどうなるんでしょうね?」
「別にどうにもならんさ、しぃて言うなら警察に事情聴取で呼び出されるぐらいだろ?」
「警察は、そうでも、他の人達はどうでしょうか?」
「直ぐに忘れるさ、俺は有名人でもなければそれで飯を食ってるわけじゃない。それに叩かれも失う物もないからな、特別困らんが?」
なおも男はニヤニヤと笑いながら続けた。
「ほっといて貰えないんですか?」
「終わったら放っておくさ、これは約束する間違いない」
男がそう言うとクロコは、大きなため息を漏らした。
「借金ですよ…騙されたんです」
「ほぅ?借金とは?いくら?」
「700万」
「あれま!?お宅女子高生よな?どうやったらそんな借金できんのよ!?」
そう言うとクロコは押し黙った。
男はそんなクロコをマジマジと見ているのだろう、にやけた顔でカメラ目線がイライラさせる。
「とある人がいて、その人の為に使いました」
「だが、その700万なんて女子高生貸してくれるところなんてそうないでしょ?」
「お店のツケで、貸してもらってました…」
「へぇ~~なるほどね~~」
そう言うと男は、立ち上がるとクロコのカメラが動き、男はクロコとの距離を保ちながら柵に近づくと地上へ指を指した。
「あれが見えるか?」
男にそう言われてカメラが動き、街灯の光に照らされた閑静な住宅街を映した。
「どれですか?」
「あれだよ、屋根も四角のあれ」
「あぁ病院ですよね、あれがなにか?」
「なんかあべこべだなぁ~って思ってさ」
「あべこべ?何がですか?」
「もう少しで死ぬ老人共が生きる事に縋るのに、なかなか死ぬ事の無い君がここで死を選んでいるのんてね~」
「説得するつもりですか?」
クロコがそう聞くと男は、ケラケラと笑いだした。
「まさかぁ~そんなつもりは、ないよ。素朴な疑問さ~飛びたければ何時でもどうぞ」
そう言いながら両手を広げて男は、なおも距離を取った。
「でもさ、せめて、君を騙した男とそのお店の名前は、披露しておかない?君はここで死ぬだろ?ならこの先のことを気にしないで良いんじゃない?どうせ誰も君に何も出来ないんだしさ」
男にそう言われてクロコは押し黙った。
考えているんだ言うか言わないか。
気づくと俺は言えって願っていた。
「それでも人に迷惑かけるんで…言う気はないです」
クロコの応えに俺はため息を漏らし男は、高笑を始めた。
「君ってお人好しだね、そんなんだから騙されるんだよ~」
そう言いながら男は、ゆっくりと歩き出しカメラは、それを追っている。
男は、それに気にもかけずに自分の置いたスマートフォンに近づくと手に取り画面を切り替えたのかゆっくりとカメラにを覗き込んでいる。
俺は、慌ててクロコの動画から男の動画へ移動した。
「いや~言え、言えコールが凄いなぁ~」
呑気な声と男の顔がドアップで映り、その背後には、カメラを構えているクロコがなにかに怯えるように映っていた。
「さぁ~クライマックス、彼女は本当に飛ぶのかな?」
男は、ニヤニヤと笑いながらカメラに向かいピースをしている。
「しないと思ってるんですか?」
クロコがムッとした声で返すと男は、ゆっくりと振り返った。
「いんや、するよ、キミは飛ぶ、そんな目をしてるからね」
男の声のトーンが変わった。
男は、どんな表情しているのだろうか?
クロコは、男の顔を見るとゆっくりと後ろへ下がって行く。
「よせ!!やめろ!!」
気づくと声を出して止めていたがそんな声が届くはずがない。
「最後に」
男の一言が黒子の足を止めた。
「なんですか?」
「コンカフェ《夢想ゲート》の美弥麻 聖哉くんに一言どうぞ」
男のその一言にクロコの目が見開き、目に涙を浮かべながら苦笑いを零すと。
「最低な気持ち、地獄に落ちろ」
そう言いながらクロコの姿が闇夜に落ちて行った。
続く