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映画感想/轢き逃げ 最高の最悪な日

初回の映画感想がこれでいいのかという思いもありますが、直近で見たのがこの映画だったので、「轢き逃げ 最高の最悪な日 」の感想を書きます。


|1.この映画を見ようと思った経緯

正直申しまして、水谷氏の俳優兼監督兼脚本の一人三役は無謀だと思いました。俳優が監督業に手を出して、成功した試しが「ほぼ」ないからです。


私はドラマ相棒の世界観が好きです。
杉下右京というキャラクターに魅力を感じる一方、長年杉下右京を演じることで、たまには違う役がやりたいと思っても、杉下右京のイメージがあって、オファーされ辛そうだなと思いますし、長期の仕事に恵まれる一方、イメージが固定されてしまうことで身動きが取れなくなってしまうことでしょう。

インタビューを見ると、今作は出るつもりはなかったようですが、「オファーがないなら自らが出たいモノ・作りたいモノを作る」という方向に走る気待ちは分かります。

個人的には、監督水谷豊氏より、特別出演などで様々な作品の世界観に触れ、「新たな役者としての水谷豊氏」が見たいという思いがあります。

個人的な思いはさておき、俳優兼監督兼脚本は上手くいくのか?を知るために、監督一作目はスルーしたものの、二作目の本作は見てみようと思いました。「監督してこの出来では今後監督としてやっていくのは無理だろ」と思った暁には、堂々と「監督はやめたほうがいい」と言えるなというゲスな思いもあって、見にいきました。

|2.監督としての水谷氏

ドローンを使った導入、美しい絵を意識しているシーンづくり、少なくとも、「自分はこうしたい・こういう絵を撮りたい」という強い意志は感じます。

スタッフとどのくらいの意思疎通がなされたのか蚊帳の外にいる人間からは分かりませんし、実質的な監督は撮影監督ではないのかと言われれば、否定する材料を何一つ持ち合わせてはいませんが、監督の意志を、撮影監督はじめスタッフが、これ以上ないくらいに素晴らしく形にしていることは確かです。

檀ふみさん演じる母親と水谷さん演じる父親が泣き崩れるシーンと、婚約者がいるエリート社員、宗方役の中山麻聖さん、また、同じ会社に勤める親友森田輝役の石田法嗣さん、主役二人の心の動きも少し演出過剰なところが見受けられた気もしますが、心情の揺らぎの表現が薄くさりげなさすぎるとターゲット層のご年配の方は気付かない恐れがあり、少なくとも「素人学芸会」ではなかったと思います。ただし、遊園地での花を挿した輝はカットしてほしかったと思います。

エリート社員役である中山さんは、ただでさえ、あまり表情が変わらない感じのクールな役にもかかわらず、視線、態度で精一杯「感情の揺らぎ」を演じてたと思います。また、森田輝役の石田法嗣さんは素晴らしいポテンシャルで応えていたと思います。個人的に今後も期待したいところです。

ネタバレしない範囲で個人的に好きなシーンは、ダンススクールに話を聞きに行って亡くなった娘のことを話ながら涙するレッスン生たちに、申し訳ないような悲しいような複雑な視線を見せる父親のシーンです。

ネタバレしてしまうので具体的には言えないのですが、「取調室のもの凄いシーン」はある意味圧巻でした。

監督としての水谷氏は、少々過剰な演出があるものの、俳優陣の魅力を引き出すことには成功しているので、細部で「ちょっと待て」と思うところはあれど、素人の自分が、「今後映画監督として絶対無理だからやめた方が良い」と断じることができないのが実情です。まあ、素人に「今後映画監督として絶対無理だぞ」と言わせる監督はそういないと思うのですが。

|3.脚本家としての水谷氏

個人的に、この映画のジャンルは「ミステリー」であると思います。

被害者である彼女は何故轢かれたのか?

轢き逃げを扱ったこの映画、被害者は女性で、轢いたのがエリート社員の宗方であるというのが、早い段階で明かされます。

人を轢いたあとの主役二人の心の揺らぎ、後半の父親の心情と事件を追う過程を丹念に描き、謎が生まれ、解決する。ところが、解決方法が乱暴すぎます。

キーとなる「アレ」を事故前日に入手した件は、あの「動機」で「実行」すると決め、諸々の情報を他人に知られたくなかったということで、「なんとなく(あくまでなんとなく)」説明できますが、なぜ割れてるんですかね?持ち歩いてたんですかね?壊そうとしたんですかね?

令状を取れば、その手の情報は簡単に入手できると、あの年齢の人間ならフツー思うはずですが。そもそも、あの「動機」で「実行」するなら全く関わりのない人がベストだった。数多ある中からどうして轢き逃げなのか。「短絡的なそういう(ネタバレなので言葉を濁しております)人なの」と言われると反論できないのですが、轢き逃げに拘ったミステリにした結果、なんとなくおかしな感じになってしまっています。

あれだけ丁寧に描いていたのはこの為だったのねと納得しましたが、轢き逃げ事故の加害者側・被害者側の心情だけにしておけばよかったのではないかと思います。欲張ってミステリ要素も入れてしまうからこんなことになってしまったのではと。ミステリというのは本当に難しく、それも映画となるとお客様からお金を頂くわけで、尚更ハードルが高いものです。

心情のゆらぎ、ミステリに加え、岸部一徳さん扮する刑事と、毎熊克哉さん扮する刑事のコミカルなやりとりもあり、アクションもあり、バランスも考えてあります。

ただ、あの「設定」は「人の心の(ネタバレするので言及できない)でいいと思う人」、「あれは逃げだ、あれはないという人」と大きく意見を二分すると思います。個人的には俳優さんの演技力がもたらす説得力により、「まあ、ありかもな」と思っています。下記にある「乱暴な解決」の方が引っかかっていたので。

「設定」に引き続いて、個人的には最大級のツッコミどころがあります。「乱暴な解決方法」についてです。

水谷豊氏演じる時山光央はなぜ、○○○○したのか? そして、何故彼はその後フツーに家にいられるのか?

というところです。父親として、娘の無念をとか真実が知りたい思いは理解できますが、迷うことなく「その選択肢」を選んでいるのです。何故、「別の選択肢」を選べないのか?「その選択肢」を選ばざるを得ない理由が、全く出てきていないのです。娘の無念をとか真実が知りたい思いで片付けていいものなのか。

「乱暴な解決」は、「2時間ドラマ」なら許容範囲ですが、これは「映画」です。有料作品です。脚本家としての水谷氏はもう少し、お話づくりをしっかりした方がいいと思います。心情を丁寧に描くなら、ミステリも丁寧に作って欲しかった。補佐するプロがいなかったんですかね?

ミステリターンには全く関係ない、家族ぐるみの付き合いである、勤めていた会社社長との遣り取りはバッサリいけたのではと思います。あくまでメインは「轢き逃げされた側関係者・轢き逃げした側関係者」の心情と、何故被害者は轢き逃げされたか?であり、父親が定年でリタイアしている設定ではなぜいけないのか? 父親が心痛で不定期出社の会社を辞めようとしているくだりを描く必要性があったのかという気もします。

ラストシーンで、被害者遺族である母親が寛大すぎやしないかと思いました。私なら、心の拠り所を求める宗方さんを許せないと思いますが。

意外と粗が出てくるものですね。大変驚いています。

|4.演者としての水谷豊氏

まず、父親は前半部分に全く出てきていません。あくまでも主役は、宗方秀一と森田輝である という強い思いがあるのでしょう。

それでも、水谷豊氏は水谷豊氏なので、やはりオーラが違うのです。娘を亡くしビデオを見る姿や、酒に酔って妻に対し暴言を吐くシーン、焼香しにきた会社の人間を追い返す姿、アクションシーンなど、絵になる俳優であることは間違いないのです。クレームのつけようがありません。

|5.総括

結論を言うと、脚本家としての水谷氏は引退するべきだが、監督としてはもう一作猶予があってもいいと思います。上から目線で恐縮ですが。

脚本家は論外。監督に専念し、監督として無駄なところを削ぎ落とすことに躊躇しなくなれば、もっと良くなるのにと思わせてしまうところが罪作りです。問題は、演出に粗がある監督が新作を作ることを今の配給会社が許してくれるかですね。自費で制作するのはやめたほうがいいのではないかと思います。

少なくとも、本作は、監督の「こう撮りたい」欲を見事に実現させた映画であるといえます。今後も監督業をしていかれるのかは分かりませんが、素晴らしいスタッフ陣に支えられていることは間違いありません。

「二度と映画なんか作るな!」と吐き捨てられたら良かったのですが、脚本家としてはマイナスですが、絵は美しかったし、俳優陣も頑張っていたと思います。

全権は監督にあるので、誰も監督に物申せないのは分かりますが、無駄は排除しスマート且つツッコミどころのない映画を作っていだけるのであれば、もう一作ぐらい監督をされてもいいのではないかと思います。

大変申し訳ないのですが、興行成績的には揮わないであろうと想像できる作品です。まず、有名俳優さん起用を前面に押し出していない。出演している俳優さんのファンに見に来て貰うためのプロモーションはしていない。その上、轢き逃げというテーマです。上記でツラツラ書いたように、演出・脚本での粗がある作品です。「貴重なお金を出しても見る価値あるから絶対見て!」とは言えない作品です。

杉下右京というキャラクターが好きなもので、自分でも甘い感想だなと思います。


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