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俺、東京で就職するけん。

乗り慣れた電車を今までに無い気持ちで乗る事は、とても不思議な感覚だった。
周りには見慣れた景色があるのに、自分だけ変わってしまったと言う錯覚の様なものが自身の中に芽生えた。
広島駅まで向かう途中の景色一つ一つには確かな思い出があった。
上京すると言うこと自体、自分から発生したものであって、第三者の意見が自分をそうさせたものではないとは言っておくが、自分を乗せて東京への道のりをたどる見慣れた鉄の箱は、煌びやかな景色とともに僕を知らないどこかへと連れ去る。
何にも形容しがたい高揚感と不安で包まれている感覚が、この街を後にする実感をひしひしと感じさせる。
抱え切れない楽器と両腕から有り余るほどの夢を抱えて新幹線に乗り込む。自分が今まで羨望の眼差しを向けていた場所まで行く時が来たのか。
新幹線の途中、移り行く景色を見つめ、想いが頭を駆け巡る。
自分はもう広島の人間ではないのだと、皆が経験してきたことなのだと、必死に言い聞かせながら。

過ごしてみて、半年、東京も等しく、夜の月は綺麗で、あたりは寝静まり虫は泣き涼しい風に当たって過ごすものだと知って、少しの安寧を感じる。
幻想の街と言うものを抱いて出てきた、東京は意外にも静かで、したたかで僕の地元とはさほど変わらないものであった。
希望を抱いて出てきた東京にこのような側面があることを知れば、人というものが作った社会の大きさを知る。場所は違っても根本にあるものは何も変わりはせず、思うに人の求めているモノは同じものと認識する。

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