1歳時点のスクリーンタイムと発達
家事、仕事とある中での子育て、お疲れ様です。時間がいくらあっても足りませんね。本当は子どもに構ってあげたいけど、なかなか時間が作れず、録画のアンパンマンを子どもに見せながら、その間にすべきことを行う、なんて日常よくあると思います。ついつい頼ってしまうスクリーン、発達への影響は皆さん気になりますよね。
今回ご紹介する論文はこちら
要約すると
1歳時点のスクリーンタイム(テレビやデジタルデバイスの使用時間)が、2歳および4歳時点の発達遅延の5つの領域(コミュニケーション、粗大運動、微細運動、問題解決、個人および社会的スキル)に及ぼす影響を調査しました。
約7000組の親子を対象にしたこの研究では、スクリーンタイムが長い子どもほど、特にコミュニケーションおよび問題解決の領域で、発達遅延のリスクが高いことが明らかになりました。
第一印象
この論文の強みとして、5種類の発達評価を行っていること、日本人のデータなので、日本の子どもたちに応用できること、が挙げられます。ただし、この結果から、「子育てではスクリーンタイムをとにかく短くすればいい」とは個人的には考えません(一番下に意見があります)。内容を掘り下げていきましょう。
研究の背景
スクリーンタイムとは、テレビを見たり、ビデオゲームをしたり、携帯電話やタブレットなどの電子機器を使用する時間です。子どもの健康的な成長のためには、身体活動に取り組み、十分な睡眠を確保する必要があります。この点について、世界保健機関(WHO)やアメリカ小児科学会(AAP)は、スクリーンタイムを制限するガイドラインを発表しています。特に、2~5歳の子どもについては、1日1時間以内に制限することが推奨されています。しかし、最近のメタ分析では、これらのガイドラインを満たす子どもはごく少数であると報告されています。また、デジタルデバイスの急速な普及とCOVID-19パンデミックの影響で、子どものスクリーンタイムは近年増加傾向にあります。したがって、スクリーンタイムが子どもの発達にどのような影響を及ぼすのかを考慮することが重要です。
これまでの研究では、スクリーンタイムと子どもの発達成果の関連が報告されてきました。
コミュニケーションスキル
日常生活スキル
社会化スキル
粗大および微細運動スキル
問題解決スキル
個人および社会的スキル
発達スクリーニングテストの総合スコア
認知発達、社会情動的発達
言語発達、注意の問題、行動問題、発達障害(自閉症スペクトラム障害など)
ただし、これらの研究の多くは単一の測定結果を用いたものであり、発達の複数の領域について包括的に調査した研究は少数にとどまります。また、スクリーンタイムと発達遅延の関連が成長とともに継続するかどうかを調べた研究も限られています。
研究の目的
1歳時点のスクリーンタイムが、2歳および4歳時の5つの発達領域(コミュニケーション、粗大運動、微細運動、問題解決、個人および社会的スキル)における発達遅延とどのように関連しているかを調査することです。
研究の方法
研究の対象者は2013年7月から2017年3月にかけて、宮城県および岩手県内の50の産科クリニックおよび病院で募集されました。
⇨日本での研究なので、日本人への応用がしやすい研究という強みがありますね。
参加者: 親子ペア23,130組のうち、16,033組が以下の理由で除外されました:
インフォームドコンセントの撤回:505組
複数回参加:875組
1歳時のスクリーンタイムに関するデータが不足:8,820組
2歳および4歳時の発達評価データが不足:2,512組、3,321組
最終的に、分析には7,097組の親子ペアが含まれました。
⇨観察研究として、十分な人数と考えます。
スクリーンタイムの測定
1歳時のスクリーンタイムは、以下の質問を含むアンケートを用いて測定されました:「通常の日において、子どもにどのくらいの時間テレビ、DVD、ビデオゲーム、インターネットゲーム(携帯電話やタブレットを含む)を見せますか?」
見ない、または1時間未満
1~2時間未満
2~4時間未満
4時間以上
発達遅延の測定
子どもの発達遅延は、日本語版「Ages & Stages Questionnaires, Third Edition(ASQ-3)」を使用して評価されました。ASQ-3は、生後1か月から66か月の子どもの発達を測定するツールであり、以下の5つの領域を含みます。
⇨ASQ-3は有料で中身を確認できませんでした。
コミュニケーション(喃語や理解を含む)
粗大運動(体や腕、脚の動き)
微細運動(手や指の動き)
問題解決(学習や遊びを通じたスキル)
個人および社会的スキル(他の子どもとの遊びや一人遊び)
各領域の得点は0~60点で評価され、得点が平均値の-2SDを下回った場合に発達遅延とみなされました。
⇨100人あたり2〜3人が発達遅延という定義です。
共変量
以下の変数を考慮し、スクリーンタイムと発達遅延の関連を調整しました。
⇨例)親の教育レベルによる子どもの発達の差、などを調整しています。
子どもの性別
母親の出産時の年齢
年収
母親の教育レベル
祖父母と同居しているかどうか
母親の産後うつや母子関係の障害
統計解析
スクリーンタイムのカテゴリと発達遅延の関連を、ロジスティック回帰分析を用いて評価しました。結果はオッズ比(OR)として報告され、95%信頼区間を提供しました。多重代入法を使用して、不足しているデータを補完しました。
研究の結果
研究対象の特徴
研究対象の7,097人の子どもは、以下のように分類されました:
男子:3,674人(51.8%)
女子:3,423人(48.2%)
1日のスクリーンタイムの割合:
<1時間:3,440人(48.5%)
1~<2時間:2,095人(29.5%)
2~<4時間:1,272人(17.9%)
≥4時間:290人(4.1%)
2歳時点での発達遅延の発生割合:
コミュニケーション:361人(5.1%)
粗大運動:400人(5.6%)
微細運動:329人(4.6%)
問題解決:301人(4.2%)
個人および社会的スキル:387人(5.5%)
4歳時点での発達遅延の発生割合:
コミュニケーション:283人(4.0%)
粗大運動:303人(4.3%)
微細運動:349人(4.9%)
問題解決:269人(3.8%)
個人および社会的スキル:328人(4.6%)
スクリーンタイムと発達遅延の関連
1歳時のスクリーンタイムが長いほど、特定の発達領域で遅延のリスクが高いことが確認されました。
1日のスクリーンタイムが**<1時間**の子どもを基準にした場合
補足分析
自閉症スペクトラム障害(ASD)や脳性麻痺と診断された19人の子どもを除外した場合でも、結果に大きな変化はありませんでした。
議論
本研究の結果は、1歳時のスクリーンタイムとその後の発達結果との関連性を示した先行研究を支持するものであり、特に以下の重要な知見を提供します。
スクリーンタイムと発達遅延の用量反応関係
1歳時のスクリーンタイムが長いほど、2歳および4歳時におけるコミュニケーションおよび問題解決スキルの遅延リスクが高まることが確認されました。特に1日4時間以上のスクリーンタイムは、これらの発達遅延と強く関連していました。発達遅延の領域別分析
スクリーンタイムが発達に及ぼす影響は、特定の領域に限定されることが分かりました。例えば、1歳時のスクリーンタイムは、2歳および4歳時のコミュニケーションと問題解決の遅延リスクと一貫して関連していました。一方、粗大運動スキルや個人および社会的スキルなど他の領域では、関連が確認されない場合もありました。この結果は、特定の発達領域がスクリーンタイムの影響を受けやすいことを示唆しています。早期の影響とその回復の可能性
微細運動スキルや個人および社会的スキルにおける遅延は、2歳時点では関連が見られましたが、4歳時点では確認されませんでした。この現象は、早期の発達遅延が時間とともに回復する可能性を示唆しています。ただし、これが特定の領域に限られるのか、あるいは他の領域でも同様の回復が見られるのかについては、さらなる追跡研究が必要です。教育的スクリーンタイムの考慮
スクリーンタイムには否定的な影響だけでなく、教育的な側面もある可能性があります。一部の研究では、教育的プログラムに限定したスクリーンタイムが、言語スキルの向上と関連していることが示されています。したがって、スクリーンタイムを完全に制限するのではなく、教育的な側面を活用しつつ、発達遅延と関連するスクリーンタイムの種類を特定して制限することが重要と考えられます。
感想・方針
日本からこのようなTop Journalに貴重な研究を報告されていて、執筆者はじめ関係の方々に感謝申し上げます。
今回の研究では、1歳時のスクリーンタイムによる2歳や4歳時点での発達の様子ですので、それ以降にも影響が残るかはわかりません。今回は点数下位2.3%程度を発達遅延としていますが、集団によって発達遅延のレベルも異なるかと思われます。
私は今回の研究結果から、不必要にスクリーンタイムが長くならないよう気をつけようと思いました。それでも生活していく上で必要なスクリーンタイムは必要ですので、活用したいと思います。内容はどのようなものがいいか定まっていませんが、教育的なスクリーンタイムにしたいと思います。
コミュニケーションや問題解決に課題があることが判ったので、日常での子ども教育で気を付けることができると思います。そういった面でも貴重な研究ですね。