電子音楽を聴く①
電子音楽というとかなり幅が広いんですが、ここでは広義のテクノ/ハウス/エレクトロニカという感じで。アンビエントやニューエイジは別でまとめ始めたので除きます。このジャンルは割と昔からちょいちょい聴いてるし好きなんだけど、最近聴いてる/聴いたアルバムのメモ用としてこれも記録しておこうと思います。
Moebius, Plank & Neumeier / Zero Set (1983)
非英語圏アルバムランキングで知った一枚で、一音目からぶっ飛ばされた。コンクリートブロックで頭をガツンとやられた気分だ。ClusterのMoebius、KraftwerkのAutobahnを手がけたConny Plank、日本の非常階段と所縁のあるクラウトロックのドラマーMani Neumeierからなるグループ唯一のアルバムは、踊れるクラウトロックとしては個人的に最良の部類に入る。1983年の作品とはとても思えないキレッキレの音は全く古臭さを感じさせない。ジャーマンニューウェーブな実験精神が十二分に発揮されている点と、テクノの祖として例えられるくらいのダンサブルな反復展開とのバランス感覚が絶妙で、そんなところが名盤として存在を確立してる理由なんだろう。「Pitch Control」やべーぞ。
3MB / 3MB (feat. Magic Juan Atkins) (1992)
Juan Atkins、Morits von Oswald、Thomas Fehlmannというデトロイトテクノ、ベルリンテクノを代表する3人による金字塔。実は個人的にはデトロイトテクノ(特に90年代前半の最盛期のものは)の煌びやかさよりは、Basic Channelをはじめとしたベルリンテクノのストイックさの方が好きなんだけど、これはその両者の良いところが見事なまでに融合していてカッコいい。BPM140前後で放たれるストイックなキックの連打に、ロマンあふれるウワモノの旋律が最高だ。今年の再発をきっかけに聴いたんだけれども、やはり時の荒波を乗り越えて後世に残るようなクラシックなものはいつ聴いても素晴らしいということを再認識したアルバムだった。
Two Lone Swordsmen / Stay Down (1998)
スクリーマデリカのプロデュースやマイブラのリミックスなど、ロックとダンスシーンをつなげる役割を担ったAndrew Weatherall先生と、ブリティッシュDJであるKeith Tenniswood(この方は存じ上げませんでした)によるデュオ、Two Lone SwordsmenによるWarpからリリース。このダークで割とミニマルなエレクトロニックミュージックは自分にはかなり捉え所が難しいアルバムだと感じた。というのもフックがあるようで少なく、ダブやソウル的な要素も含んでいたりと、このアルバムを一言で形容する言葉がうまく見つからないんですよね。アシッドハウスの享楽的な雰囲気があるわけでもない。むしろ90年代前半のダンスミュージックを喰らい尽くした後に残された残骸のような印象だ。ただ、大袈裟に言うと、ダイヤの原石じゃないけれども一見乱雑に配された音の一粒一粒にこそ、真の美しさが宿っているんじゃないかなんて思わないでもない。未だに分かったようで分からないアルバムなんだけど、ついつい手が伸びてしまう一枚。
St. Germain / Tourist (2000)
フランスのジャズ×ハウスのクロスオーバーシーンのベテラン、St.Germainの会心のアルバム。一言で言ってしまえば上品なオシャレハウスで、あなたの日常生活に彩りを与えること間違いなし、思わずお気に入りの服を着て街を颯爽と歩きたくなるような、さすがフランスと言いたくなるセンスの良さだ。でも、安易にオシャレに走ってるようなアルバムでは決してなく、ジャズもハウスも知り尽くしたからこそ生まれ得たアルバムのように感じる。ちなみにこのアルバムはジャズレーベルのトップに君臨するBlue Noteレーベルからのリリース。
The Other People Place / Lifestyles of the Laptop Café (2001)
URの一員であるデトロイトテクノのレジェンドDrexciyaの片割れであるJames Stinsonのソロ名義での唯一のアルバム。Drexciyaの音楽はどちらかというとハードでエッジの効いたテクノをガンガン鳴らしているイメージだけど、こちらはダークなんだけどもう少し穏やかなテクノとなっている。アルバムタイトルからも日常に寄り添うようなテクノを目指したのかな?と思わせ、個人的には基本ホームリスニングがメインなのでDrexciyaよりもTOPPのこのアルバムの方がしっくりくる。BPMが130前後で速すぎないのも家でゆっくり体を揺らすのにちょうどいい感じ。クールなトラックの上で腹の底から絞り出すように「Let me be what I wanna be」と繰り返されるM5はマジでクラシック。なお、このアルバムの1年後にJames Stinsonは他界・・ファンは辛かっただろうな。。
Metro Area / Metro Area (2002)
アメリカ・ブルックリンベースのハウス/ディスコデュオであるMetro Areaのデビュー作。ビートは硬質というよりは柔らかい感じで、スペーシーなシンセの使い方が上手く、まさにディスコ〜ハウスの真ん中あたりの音楽という感じ。言い換えるならば、Kraftwerk的テクノとLCD Soundsystemのディスコパンクを繋ぐ存在とも言えるかもしれない。もちろんパンク要素はないし、ボーカルもないんだが。いや、でも時代的にこの後ニューヨークでディスコパンクが流行ってくることを考えると、この作品の影響も多少はあったんじゃないか?共振する何かがあったんじゃないか?なんて思った。そこでちょっとググってみたら、ほらね、James MurphyはLoose Joints(アーサーラッセル)の音源とともにMetro Areaの12インチでDJしていたなんて記事が!これだけでも更に見方が変わりますね(というかこの記事面白いやん)。
Monolake / polygon_Cities (2005)
Basic Channel、Chain Reaction系アーティストであるMonolakeの7枚目のアルバム。ダークでアンビエントな作風は初期作と変わらないが、ビートがブヨンとしたような丸みを帯びた感じになっており、よりズブズブと深海のような深い闇に引き摺り込まれる音になっている。蠢くような不協和音がベールのように全体を覆っており、不穏なアンビエントダブテクノとしての性質をさらに際立たせていると感じる。気付いたら鳴らされるリズム一つ一つを追っかけて体を揺らしてしまう・・・部屋を真っ暗にして低音の出力をガンガン上げて聴いたら余裕で飛べる最高の一枚。
Ghostride The Drift / Ghostride The Drift (2019)
ele-kingか何かに載ってて知ったんだっけかな?ニューヨークの電子音楽シーンの鬼才、Huerco S.周りのプロジェクトで、彼のレーベルメイトであるExael、Uonと組んで作成されたアルバム。サイケ/ドローン/シューゲイザーっぽいサウンドにディープでレフトフィールドなテクノが組み合わさった、超刺激的な音楽。これはリアルタイムで聞いてたら年ベスにも入れてただろう内容。全5曲32分と比較的短いけど、その間一切緊張感が途切れない素晴らしいアルバムなので、実験的なディープテクノが好きな人にはオススメです。
Josey Rebelle / Josey In Space (2020)
オリジナルアルバムではなくミックスアルバムなんですが、これは素晴らしいですね。2020年のResident Advisorのベストミックスアルバムにも選ばれた本作でロンドンベースのDJ、Josey Rebelleは、レイブ、アシッド、ジャングル、ガラージ、ハウス、エレクトロ、ベースといったUKをベースとした様々なダンスミュージックを縦横無尽に繋いでいき、最高のダンスフロアを作り上げている。このBeats In Spaceからのミックスシリーズは第一弾がPowderの2018年傑作ミックスで、第二弾が本作なんだけど、どちらも大当たりで最高。今後もこのシリーズには要注目。
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どうもこの辺の音楽を聴いていると、元々クラバーというわけではないけれども「クラブ行きて〜」となりますね。スモーク炊いた真っ暗なハコの中で体の芯まで響き渡るローを浴びながら、下を向きながらチビチビと酒を飲み、身体を揺らす・・・。そんなのが日常に戻ってくるのはいつになるのでしょうね。