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手を二本失ったら、代わりに想像力が生えてきた件。

先日、小学生ぶりに動物園に行ってきた。場所は東京の上野動物園。日頃目にしている霊長目ヒト科の動物と違って、根源的、本能的な生命の強さを垣間見て、不思議なカタルシスをこの身に感じとった。動物園にはもちろんヒト科ではない他の霊長目も飼育、展示されている。哺乳類コーナーの一角に何種類かのサルが大きいケージの中に入っていて、それぞれ違った振る舞いを見せている。今の世界とほんの少しだけ異なるパラレルワールドでは、ケージの金網を挟んで私とサルの位置は入れ替わっているのだろうかという、SFじみた妄想をしながらよく観察していると、彼ら(この主語は正しくないであろう)の後ろ足は人間の手のように指が一本一本独立していることに気がついた。人間の足のような地面を蹴ることしか能がないような足ではなく、手が4本あるような感じである。そして種類によっては尻尾まで自由自在に使いこなし、もはや4本足の生物というより5本手の生物であった。私はその軽い身のこなしにジェラシーを感じつつ、あんなに便利そうな尻尾をどこで落としたのか過去のヒト科達に問い詰めたくなった。
しかし、金網越しに相対する5本手の生物達は、今の私のような想像をしているのだろうか。「ヒト科の体に巻き付いている繊維状のものは、その個性によって異性から目立つことでより子孫を残しやすくする役目を果たすのだろう。」「生物的に未成熟なヒト科を連れた状態で、この肉食獣のいるエリアに入っていくのは、その身を持って奴らの恐ろしさを感じ取ってもらうためだろう。」などなど、もし私が動物園サルの立場だったら考えそうなことを書き出してみたが、私の観察で彼らがそんなことを思いふけっているようには見えなかった。もしかしたら食欲、排泄欲、睡眠欲など本能的な想像(というよりは欲求)はあるのかもしれないが、私達ヒト科と同程度の想像力を持っていたらもっと色々な発明(文字、道具、調理、農作、etc…)をしていると思うので、今回はヒト科のみが高度な想像力を持っているということで話を進める(生物学、生態学などに詳しい方がいらっしゃったら、コメントで教えて下さい)。
ではなぜ人間のみが、使い所によっては無駄とも言える想像力を手にしたのか。それは簡潔に言うと「立ったから。」の一言に尽きると思う。テナガザルやチンパンジーが私達の直接の祖先ではないものの、はるか昔の私達は森林で四本手ないしは五本手で生きる選択をせずに、後ろ足を平面移動に特化させてきた。今では靴というものまで履き、「掴む」能力は皆無である。そうして、使い勝手の良い「手」の数は半減してしまった。


話は変わるが、良いアイディアを生むための場所として、中国の宋の時代の詩人が言った、「三上」というものがある。これは馬上、枕上、厠上のことである。また最近でもシャワー中に発想が降りてくるということもよくあるらしい。(私もよく石鹸の付いた手でスマホにnote用のメモをしている。)これらはまとめて心理学で言う「孵化効果」と言えそうである。

問題解決に取り組んでいる時,一旦その問題から離れている期間を「あたため期 (incubation)」といい,あたため期を経ることで解決が促進される効果を「孵化効果(incubation effect)」という

山岡,湯川 2016, p506

孵化効果の要点は一旦問題から離れることで急に雛がかえるように解決するということなわけだが、私は先程の三上とシャワー中の動きに注目したい。これらはある程度行動に制限、特に手に制限がかかっていることが多い。手綱に掴まっていなければ馬から振り落とされる。寝るためにはじっと体を動かさないようにする必要がある。排泄時には拭かなければならないし、足で頭を洗うわけにもいかない。これらの動きはわずか2本しかない腕を一時的、または全ての時間において封じられているのだ。もし人間の足が使い物になれば手の役割を肩代わりして、本来の両腕は自由自在となるわけだが、そうはいかない。私はそこに、想像力の因果関係があるように感じるのである。2本あった腕が制限されて1本ないしは0本になったとき、人間は急に想像力豊かになる。ならば、その手が4本から2本に永久的に減少したとき、ヒト科は想像力爆発を経験したのではないかと。(想像力爆発は、私の造語である。)ヒト科以外の霊長目の身のこなしには、私達が訓練しても到底及ばない。しかしその代わりに「想像力」という透明な手が生えてきたのである。遠い将来、私達以上の想像力を手にするのは手塚治虫作『火の鳥』に出てくるナメクジのような、0本手の生物なのかもしれない。


注:この文章の内容一切の科学的根拠はありません。全て私の妄想の産物です。

下部に画像の引用元URL記載

サムネイルに@Nagomi様のみんなのフォトギャラリーを使用させていただきました。ありがとうございます。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/87/5/87_87.15057/_pdf


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湯川結衣
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