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第3話 「逆順海岸」
行動する人のように考え、考える人のように行動せよ
-アンリ・ベルグソン-
次のカッコに入る言葉はなんだろう。
これは、岸辺露伴の「密漁海岸」の1シーンである。
露伴は密漁なんて違法でダメだと言っていることから、
「だが、気に入った」という逆接的な言葉が入ると考えるのが自然だろう。
だが、実際には「だから、気に入った」と言っているのだ。
そして、作者の荒木飛呂彦さんはこのセリフのシーンを描きたかったといっている。
「でも、ちょっと待って」と、窓辺語楽としては言いたい。
「だから」は普通、順接的な場合に使う。
だから、「だから」を使うなら、その後は「気に入らない」となるはずだ。
それは違法な密漁だ。だから、気に入らない。
(cf. それは違法な密漁だ。だが、気に入った。)
でも、実際には露伴は「だから」を使っている。
なぜ、「だが (逆接)」ではなく真逆の「だから (順接)」なのだろうか?
これは、この「だから」には逆接も含まれているからだ。
さらに、日本語の逆接の「が」も順接を表す場合がある。
(『ロイヤル英文法改訂新版』 より)
これは「潮の流れ」と同じように考えることができる。
普段はまったく逆の海流である「順接」と「逆接」が円を描くかのような潮の流れによって交わることがあるのだ。
順接と逆接が混じっていると「味わい深い」表現になる。
だからこそ、作者の荒木さんも露伴のセリフを気に入ったのだろう。
ちなみに、英語にも「順接と逆接」が混じっている表現がある。
たとえば、and (順接)+yet (逆接)である。
(『表現のための実践ロイヤル英文法』 より)
順接のようにふるまう逆接というべきか、逆接のようにふるまう順接というべきか。
そういえば、「だからこそ」とはいえるが、「だがこそ」とはいえない。つまり、「逆接 (だが)」 + 強調 (こそ)」がいえない。
一方、英語には 逆接を強調するeven thoughのような表現がある。
つまり、日英語で次のような違いがありそうだ。
日本語: 「逆接 (だが) + 強調 (こそ)」 (×)
英語: 「強調 (even) + 逆接 (though)」 (〇)
謎は深まるばかりだ。
だから、面白い。