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#54 見えない壁:世代間ギャップと社会的アイデンティティ理論
先日、学生たちと駅前のビアガーデンに行ってきました。金曜日の夕方ということもあって、会場は賑わっており、僕たちもぎゅうぎゅう詰めで席に座ることになりました。
僕たちのグループの後ろには、60歳前後のおじさまたちのグループがいて、「若いね〜」とか「令和か!」といった愛情のこもった(?)声をかけてくれました。正直、ちょっと照れくさいし、学生たちも反応に困っている様子でした。
そのおじさまたちの会話の中で、こんな言葉が聞こえてきました。
「でも最近の子は本当に飲みに行かないし、コロナ以降はアルハラ(アルコールハラスメント)とかいろいろ言われるから、なかなか誘いづらいんだよね。」
なんだか、おじさまたちは「見えない壁」を感じながら話しているように見えました。
見えない壁の正体:社会的アイデンティティ理論とは?
この「見えない壁」を、心理学の視点から解釈すると「社会的アイデンティティ理論(Social Identity Theory)」が浮かび上がります。
社会的アイデンティティ理論は、心理学者のヘンリー・タジフェル(Henri Tajfel)によって提唱された理論で、人は自分を特定のグループ(内集団)に属していると感じることで、自己評価を高めるというものです。そして、自分が所属しないグループ(外集団)に対しては、無意識のうちに距離を置いたり、時にはネガティブな感情を抱いたりすることがあります。
今回のケースで言えば、おじさまたちは「昭和的な飲み会文化」を内集団とし、若い世代を「外集団」として捉えているのかもしれません。
彼らが感じている「最近の子は飲みに行かない」という違和感は、外集団に対する認知的不協和(自分の常識と現実のギャップ)を解消するための防衛反応とも言えます。
なぜ「見えない壁」は生まれるのか?
おじさまたちが感じている「見えない壁」は、いくつかの要因が絡んでいると考えられます。
世代間ギャップ (Generational Gap)
おじさまたちは、飲みニケーション(飲みながらコミュニケーションを取る文化)が当たり前の時代を生きてきました。
一方、若い世代(特にZ世代)は、SNSや個人の価値観を尊重する文化の中で育ち、無理に飲みに誘われることを「アルハラ」として認識しています。
社会的距離 (Social Distance)
若い世代は、仕事とプライベートを切り分けたい、自由な時間を大切にしたいという価値観を持つことが多いです。
おじさまたちは、そうした価値観を理解しきれず、無意識に「寂しさ」や「疎外感」を感じているのかもしれません。
非言語的コミュニケーションの違い (Nonverbal Communication Differences)
おじさまたちの世代では、親しみを込めて肩を叩いたり、距離感の近いコミュニケーションが一般的だったかもしれません。
しかし、若い世代にとっては、それが「パーソナルスペースの侵害」と感じられることもあります。
世代間の「見えない壁」を越えるには?
世代間ギャップを埋めるには、以下のポイントが有効かもしれません。
「内集団」と「外集団」を意識しすぎない
まずは、自分の常識や価値観が全てではないことを自覚することが大切です。
共通の話題や興味を見つける
例えば、学生とおじさまたちが共通して楽しめるゲームや音楽、映画などの話題を取り入れることで、距離を縮めることができます。
無理に距離を詰めない
若い世代が「見えない壁」を感じていることを理解し、少しずつ関係性を築く姿勢が求められます。
まとめ
今回のビアガーデンでの出来事を通じて感じたのは、「見えない壁」は世代間の違いだけでなく、お互いのアイデンティティや価値観の違いから生まれているということです。
社会的アイデンティティ理論の視点から見ると、内集団・外集団という枠組みに捉われすぎることが、コミュニケーションを阻害する要因になり得ます。
おじさまたちも、若い世代も、少しずつ相手の視点に立ちながら、お互いの価値観を尊重していくことが、「見えない壁」を越える第一歩になるのではないでしょうか。
実は、僕もそんな「見えない壁」を感じた一人です。 でも、その壁を乗り越えるために、まずは一歩踏み出してみようと思います。