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湯に溶けてゆく
まだ月曜日だっていうのに全身がヘロヘロで、わたしは急いで銭湯へ向かった。肩まで湯につかる。思わず、「うぁあ~~」と声が出る。目を閉じる。温まった手で顔を覆うと1日中PCを眺めて疲れ切った眼が回復していく。疲れがじわり、じわりと湯に溶け出して、身体中の関節が緩んでいく。身体が少しずつ温まっていく。外は暑い日々が続くけれど、やっぱり身体を温めてあげることって大事だなと思う。夏だからこそ、かもしれない。
小さな子どもが湯船でぱしゃりぱしゃりと遊んでいた。少し経って「熱いよう、もう出ようよう。」と言いながらお母さんの手を引っ張った。
銭湯が好きだ。疲れが取れることはもちろん、なんだか平和だなあと思う。他人同士がみんな裸で無防備で、心からリラックスしている。化粧も落として、念入りに巻いた髪の毛も全部とれて、あの人もこの人も日中はしゃきっと会社で頑張っていたんだろうなと思う。
肩まで湯に浸かることの大切さを忘れない。忙しない日々の中で、少しずつ積もったストレスを、湯の中で解きほぐす作業。どんなに硬く絞ったタオルも、水の中ではあっという間に広がっていく。そんな風に、毎日は難しくても、週に1度くらいは自分のことを解放してあげたいと思った。
ふと思い出す。夏のニセコで弾丸キャンプをして寒さで眠れず迎えた朝に入った温泉のこと。遠くで鹿が草を食べているのを眺めながら、のぼせるまでおしゃべりした霧島の湯のこと。子どもの頃、父の会社の保養所で小さなお風呂に家族でぎゅうぎゅうで入ったこと。夏休みに泊まりに行くと、祖父に毎晩銭湯へ連れていってもらったこと。いつからか男湯には入れなくなったときのなんとも言えない気持ち。家の近くの銭湯にいっつも必ずいる守護神みたいなおばちゃんのこと。そういうひとつひとつの記憶はどれも優しくて、心が平穏になる。
湯がわたしを癒すのは、その瞬間に思い出されるたくさんの記憶が「こういう時間を過ごしてきたのだから大丈夫だ。」となんとなく思わせてくれることもあるかもしれない。
そろそろ温泉旅行に行きたいなと思う。
▼星野リゾートの温泉旅館「界」
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