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一生分のひととき〔前編〕~あどりめ×あどりは☆サイドストーリー~

 
 
 
始まりは 雨の中でひとりさん の楽曲
 
 ☆その1『あどりめ~南国の夏に惑う
     『あどりめ~イメージストーリー

 ☆その2『あどりは
     『あどりは~イメージストーリー
 
※勝手にイメージストーリーを書かせてもらったストーリーのサイド版です。ベッタベタでギットギトなメロドラマ展開です(笑)
 
 
 
***
 
 
 
 いつも不思議に思ってた。
 どうしてママは……。



 ママが突然の事故で亡くなったのは、私がハイスクールを卒業した18歳の時。
 帰宅した私に、大家のおばさんが血相変えてこう告げた。

「アドリメ!アドリハが……!あんたのママが……!!」

 生まれて初めての旅先から帰る途中で事故に遭い、ママはそのまま二度と帰らぬ旅に出てしまった。
 ひどい事故だったと聞いたけれど、ママの顔には奇跡的に傷ひとつなくて。微かに微笑んだその顔は、綺麗なまんまのママだった。

 でも、もう、私に笑いかけてはくれない。
 呼びかけてもくれない。
 抱きしめてもくれない。

 この旅に出る数日前、ママは私に嬉しそうに言ったのに。

『ねぇ。今度ママ、大事な用事で3日ほど出かけるんだけど、その間ひとりで大丈夫?』
『ママ、私のコトいくつだと思ってるの?もうハイスクール卒業なんだけど』

 少しムクれて言う私に、

『……そうよね。もう卒業するのよね』

 嬉しそうに、ちょっと遠い目をして呟く。

『その用事がすんだらね。あなたの卒業のお祝いに、ふたりで旅行に行こうと思ってるんだけど……どう?』

 ママからの初めて提案に私はビックリした。でも、すごく嬉しくもあって。

『ママ、それホント?どこに行くの?』
『それは、ナ・イ・ショ。楽しみにしてて』



 イタズラっぽい女の子みたいな表情で笑うママ。楽しみな気持ちが膨れ上がり、その日が待ち遠しかった。

 でも━。
 その約束は果たされず、ママはひとりで旅立ってしまったのだ。私を置いて。

 そうして、泣くことも出来ずにママの傍に突っ立っている私に、知らないおじさんが話しかけて来た。
 立派な身形のそのおじさんが、ママの遺体に付き添って来てくれたのだと言う。
 そのおじさんは、ママの旅の目的とか、私が今まで知らなかったこととか、全部、教えてくれた。

 私のパパのことも。



 ママはこの街で1・2を争う美人で、自慢のママだった。私はママにそっくりだ、って言われてるけど、目と髪の色は全然違ってて。
 黒い艶やかな髪の毛、吸い込まれそうに黒い瞳のママは本当に綺麗で、私が知ってる限りでもママを狙ってる人はいっぱいいた。
 その中にはかなり素敵な人もいたのに、当のママは全然その気がなさそうだった。

 生き字引と呼ばれている近所のおじいさんも、

「お前さんのママは別嬪だから、そりゃあモテてすごかった。嫁の貰い手がなくなるんじゃないかと、それはそれは心配したもんじゃ。じゃがな……ある時から急に変わったんじゃよ。きっとお前さんのパパと出会った頃なんじゃろう」

 ……なんて言ってたっけ。

 でも、パパはここにはいない。

 不思議に思っていた私は、子どもの頃、一度訊いてみたことがある。

『ねぇ、ママ。ママはまだ若くてこんなに綺麗なのに、どうして恋人を作らないの?』

 ママはちょっとビックリした顔をして、でも、すぐにいつもの笑顔に戻ってこう言った。

『ママはもう一生分の恋をしたの。一生分愛して、一生分以上愛されたから……一生分のひとときをもらったからいいのよ』
『だったら、どうしてパパは、今、ママの傍にいないの?何でそんなコトわかるの?』

 納得できなくて食い下がると、

『こんなに素敵な宝物をもらったもの』

 そう言って、見てる方までトロけそうになるくらい極上の笑顔で私を抱きしめた。
 その笑顔を見たら、もうそれ以上は何も言えなかったけど。でもホントは、私は心の奥底では納得できてなかった。
 そんな私の気持ちがわかってしまったのか、ママは私の顔を覗き込む。

『……パパはね……誰よりも、あなたと私の傍にいたいと思ってくれていたのよ。どんなことをしても戻って来たいって。必死に闘ってくれたの……』

 ママは長い睫毛を少し伏せた。

『……でも、そうね……あなたには寂しい思いをさせてしまっているわね。……ごめんなさい』

 私は慌てて否定した。

『……ママ!私は全然寂しくなんかないの!ママがいるもの!……だけど……』

 ━そう。だってこの街では、私たちのような境遇の家は珍しくも何ともないのだ。

『……ママは……ママは寂しくないの?』

 ……ずっと、ひとりで。

『寂しくなんかないわ。ママにもあなたがいるもの』

 ママは満面の笑みで、私の額にキスをした。
 寂しくないワケがない。でも、ママが泣いてるところを見たこともない。私の顔を見ては、いつも嬉しそうに微笑んでいた。

 パパと写った写真をいつも大切に持ち歩いて、同じものをフォトフレームに入れてヘッドボードにも飾ってある。その隣には私と写った写真。
 写真の中のパパとママは幸せそうで、ママの言ってることは本当なんだろう、って思いたいけど……でも。

 どうして、もういないパパのことをそんなに思っていられるの?
 どうして、そんなに信じていられるの?
 パパは本当に私たちを愛してくれてたの?

 私にはわからない。



 ママのお葬式が終わって、私はママが私を連れて行ってくれるはずだったところに、その弁護士のおじさんと行くことになった。
 おじさんはパーカーと名乗り、パパの家の弁護士をしている人で、おじさんのパパが弁護士として働いていた時からずっと、パパのパパたち、つまりお祖父さんたちとママとの橋渡しをしていたのだと言う。

 ママの初めて旅は、私がハイスクールを卒業する報告のためのパパのお墓参りだったこと。
 その旅から帰って来たら、今度は私を連れて行くつもりでいたこと。

 それも全部、そのパーカーさんが教えてくれた。

 そうして私がパパのところに行く時、近所のおじいさんはいつもと変わらない調子でこう言ってくれた。

「気をつけて行っておいで」

 私は笑顔で頷いて、ママと同じく、生まれて初めての飛行機に乗った。



 現地に着いて、真っ先にパーカーさんが連れて行ってくれたのは信じられないくらいに広い墓地。私の住んでる街より広いんじゃないかと思うくらい。
 その広い墓地の一角にある、綺麗に手入れされ、花が飾られたお墓の前で止まったパーカーさんが私を振り返った。

 「ここが、あなたのお父さんのお墓ですよ」

 ━ジェームス・アンダーソン━と彫ってある。パパの名前だ。
 よく見ると、小さく他の文字も彫られていて、何が書いてあるのかと、私は近づいて覗き込んだ。

 『共に生きる』

 ママの指輪の裏にある刻印と同じ言葉。そしてその下には。

 『愛しい人━きみと、そして、我が子と』

 (……これ……これ……ママと私のこと……?)

 ママもこれを見たはずだ。だから、死に顔まであんな風に幸せそうに笑っていたの?ママが信じていた通りのパパだったから。
 その文字を見つめたまま動こうとしない私に、パーカーさんが声をかけてくれた。

 「また帰る前にここによることにして、一度、会長たちのところへ行きましょう」

 『会長』と言うのは、私のお祖父さんのことらしい。頷いて、私はパパのお墓を後にした。

 パーカーさんが連れて行ってくれたのは、門から玄関までも車で走るような大きなお屋敷。入り口のところに、ひとりのおじいさんが立っている。
 近づいてそのおじいさんを見た時、私の頭の中に子どもの頃の記憶が弾けた。

 (このおじいさん……私、知ってる)

 何年か前まで、時々、ママが家の近くのカフェで会っていたおじいさんだった。

 「私の父です。数年前までは、父があなたのお母さんと連絡を取り合っていたのですよ」

 パーカーさんの言葉に、私はやっと納得が出来た。このおじいさんも弁護士さんだったのだ。

 「久しぶりですね。おとなになられて……私を覚えていますか?」

 おじいさんが目を細めながら私に問う。

 「……はい……」
 「さあ。お祖父様とお祖母様がお待ちですよ」

 嬉しそうに頷いたおじいさんは、そう言って私を促した。
 立派な廊下を通り、奥まったところの重そうな扉をおじいさんがノックする。

 「会長。アドリメ様がいらっしゃいました」
 
 私は息を飲んだ。
 
 
 
 → 後編へ続く
 
 
 
 
 

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