キミと自分④
仕事上がりの帰り道に、ふと、思う。
(あぁ、逢いたいなぁ……)
だけど━。
今日も、明日も、明後日も、もひとつオマケに明々後日も逢えない。
ほんの数日なのに、逢えないと思うとなおさら逢いたくなる。
でも、キミは仕事だと言っていたから逢えない。
声だけでも聞きたい、と思っても電話も出来ない。
だって、仕事だから。
メールしても……。
メールじゃ、キミの言葉は聞けても、キミの声は聞けない。
(声だけでもいいのになぁ……)
ふてくされ気味に宙を見上げると、そこには大きな大きなクリーム色の月。
(キミがあの月だったら、ウチに着くまで顔を見てられるのになぁ……)
我ながらアホなことを思いついてしまった。
そして、ふと、気づく。
月に見られているのは自分の方だ、ってことに。こんな、ふてくされてるところもしっかりと。
そう考えたら……あぁ、そうかぁ。
あの月は、きっとあの高い宙からキミのことも見てるんだ。
それなら、むしろ自分が月になった方がいいや……なんて、さらにアホ丸出しな自分にヘコむ。
「ふぅ……」思わずため息。
━と。
電話が鳴る。取り出して画面をみれば……えっ!キミ!?
『もしもし?……あれ?今、帰り?』とキミ。
「うん、歩いてたよ。……仕事中じゃなかったの?」
せっかく電話をかけてくれたのに、声聞けて嬉しいのに、ついつい、どうでもいいことを口にしてしまう。
(他に言うことあるだろー!)
自分で自分にツッコミどころ満載。
『今、休憩中。窓の外を見たら、じーっとこっち見てる気がしたからさ~月が』
飄々と言うキミの言葉に……見抜かれてるような気分……いや、絶対、見抜かれてる。
「月、見てたよ」
平静を装い、はぐらかすように答えたら、何となく……何とな~く、ニヤリと笑ったキミの顔が浮かんだ。
『ん……そろそろ戻らなきゃ。仕事場からも見えるから安心しなさい』
「………………」全部、お見通し決定。
『じゃ、またね。おやすみ』
「……まだ、おやすみには早いよ」
自分のナケナシの反論に……。
『でも、聞きたかったでしょ?自分の声で』
うっすら笑った、そして確信を持った自信満々の声音。いったい、どこからその自信は来るワケ?
ムクれるより先に顔が笑ってしまう。でも「うん」なんて口には出さない!
「……仕事、がんばれ」
『うん、ありがと』
元気にそう言って、キミは電話を切った。
キミを眺めながら、キミに見つめられながらウチまでの道を歩く。
あぁ、そうだ。
……ってコトは、見つめ合ってる、ってコトだよね。
そう考えて、もう、救いようがないアホっぷりに自分で笑ってしまう。
でもさ……そう考えた方が嬉しいからいいんだ。
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