月の花
届かぬ先に咲く花に
それと知って手を伸ばす
その花──月の花は
ぼんやりと揺らめく象牙の光に包まれ
仄かに、凄烈に、それは咲いていた
かすむ姿に目を細めれば
満面をたたえる笑顔のように咲く一輪
手に入れたくて
自分のものにしたくて
──出来なくて
姿を捉えようとしても
どんなに目をこらしても
にじむ淡い笑み
追い縋る私を
求め続ける私を
笑うでなく
哀れむでもなく
ただ見ている
呼んでも
願っても
希んでも
答えない
振り向かない
手に入らない
こがれてもこがれても
灯る花は冴え冴えと
くすぶる想いは焔と化すも
燃え上がる術もなくかき消され
己(おの)が焔が消えたなら
月の花も咲かぬのに
伸ばしても
追っても
叫んでも
届かない
追いつけない
とまらない
かつても犯した過ちを
途中で堕ちた我が身を
嘲笑うでなく
励ますでもなく
ただ見下ろす
堪えても
偲んでも
悔やんでも
留めない
戻らない
悔やみ切れない
触れることは叶わずに
近づくことも叶わずに
せめてこの目に焼き付けたいと
見上げた花は固く閉じ
開かぬままに
今宵、微かに笑うばかり
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☆ちびまゆさん → 朗読