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社内事情〔24〕~米州部の過去~
〔藤堂目線〕
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片桐課長と『ロバート・スタンフィールド』についての話をしたものの、結局、お互いに思い当たる人物はいないと言う結論。
しかしその後、根本先輩と話す機会を得て、ぼくは課長からは聞いたことがなかったある事実を知った。
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たまたま、その日の昼、社食で根本先輩と同席した時だ。
「藤堂くんが企画室に異動になってから、もう5年近いのか……早いもんだね」
「はい。あっという間だった気がしますが、根本先輩には米州部では本当にお世話になりました」
「いやいや、とんでもないよ。ぼくの方こそ、きみのようにデキる新人が来てくれてどれだけ助かったか……返す返すも異動が恨めしいよ」
そう言いながら穏やかな、しかし残念そうな笑顔を浮かべる。
「そんなにお役に立てたとも思えませんが……結局、何だかんだ言って米州部は……いや、他の部署も大変なんでしょうけれど、先頭切って大変なのが常ですね」
ぼくの言葉に、
「そう言う位置にいるんだろうね」と少し苦笑いした。
そんな話をしながら、ふと思いついてぼくが洩らしたひと言。
「相変わらず、米州部には女性の参入はなしですね。やっぱり厳しいのでしょうか」
何の気なしに言ったその言葉に、根本先輩が驚いたような、納得したような不思議な反応をする。
「……あぁ、そうか。藤堂くんは知らなかったよね」
「……え……?」
「前はいたんだよ、女性が。ぼくが入社して……一年経たないうちにいなくなってしまった記憶があるから、本当に入れ替わりみたいな期間しか知らないけど。片桐課長から聞いたことなかった?」
「……一度もなかったです。米州部に女性がいたなんて……」
ぼくの驚きように、先輩の方が驚いているようだった。
「……そうか。う~ん……話さない方がいいことだったのかな……」
先輩はそう言い、腕を組んで天井を見遣った。片桐課長がわざわざ話さなかったのだとしたら、確かに根本先輩がそう考えるのも不思議ではない。
「まあ、ぼくが入社する前のことですし、必要性を感じなかっただけかも知れませんね」
「……そうだったらいいけどね。でも、まあ……どっちにしても、もう時効だから大丈夫かな」
先輩にしては珍しく開き直ったような笑み。
「たぶん、片桐課長と同期なのか……いや、一期上なのかな?アメリカの大学の卒業時期の問題だと思うんだけど、半年くらいなのかな……課長より早く入社していたらしい女性がいたんだよ」
本当に初耳だった。
課長は同期はおろか、それより早く入社した人たちまでも飛び越して駆け上がってしまった上、あまり他の人の噂をする人でもなかったから尚更だ。
課長の口から話題として出る同期の先輩なんて、もしかしたら大橋先輩くらいではなかっただろうか?
「その方は……何故、退職されたんですか?」
ぼくの質問に、根本先輩は手を顎に当て、少し考えるような仕草になった。
「うん、それがね……ぼくにも良くわからなくて。新人だったぼくから見ていても二人は名コンビで、何の問題もないように見えたんだけどね」
「……あの……その人は、片桐課長とはどんな……?」
ぼくの訊き方に含みを感じ取ったのか、根本先輩は顔を上げると笑いながらこう言った。
「……あぁ。ぼくの見立てだけど、その人と課長の間に、個人的な男女関係のようなものはなかったと思うよ。本当に仕事上に於いての名コンビ、だったと思う」
ぼくの表情が納得していなかったのか、
「第一、その頃の課長には交際していた女性がいたようだし」
そう付け加えた。
「どんな方だったんですか?」
「日本人離れした感じだったね。パワフルで英語も堪能で……何て名前だったかな……る……流川……流川さん……だったかな」
「流川さん……」
「いきなり辞めてしまって……恐らく、それきりなんじゃないかな。本当に課長とはいいコンビだったように思う」
ぼくは根本先輩の話を聞きながら、何故か、何か、予感めいたものを感じずにはいられなかった。
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