くちる〜苦散る〜
いさぎよく
ぽとりと朽ちる花もあり
はらはらと
彷徨い朽ちる花もある
花は潔く散るものぞ
花は儚く散るものぞ
いつか散ると知りながら
はらりと倒るる花は良い
記憶に留まる美しさ
鼻孔に留まる匂いなら
散るのは花、だけではなく
身体(からだ)──命、だけでもない
絶対的な氷の世界
砕け散る花のように
心も凍土に苦散る(くちる)のだ
なればこそ
苦しみ抜いて散るのなら
いっそ我が身と知らぬうち
跡形も残さずに
砕け散ってしまえば良い
吹き荒ぶ風に立ち
消え往く塵ともなれば良い
それなのに
千切れそうに切り裂かれても
何故(なにゆえ)、朽ち果てはしないのか
未練に能うものもなく
引き留めるものもない
それとも
苦散るその瞬間まで
眺めていたいと望むのだろうか
最期のその瞬間まで
焼き付けたいと願うのだろうか
気づかぬうちに苦散ず(くちず)とも──
それでも
最期の最期に目に映る
この世は美しいだろうか
それでも
苦散るこの一瞬に
残響のように焼き付けて
我が心の芯に住まう
きみの灯(ともしび)は愛おしいだろうか
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