ひとよばな
一夜(ひとよ)なんて贅沢は言わない
一度きりでいい
*
咲き誇るなんて高望みはしない
ひっそりと開けばそれでいいから
*
今だけでいい
その身のすべてを委ねて欲しい
*
この時だけでいい
この身のすべてを奪って欲しい
*
何故、もっと早く
何故、あのときに
*
どうして、今になって
どうして、あのときに
*
ひっそりと心の奥底に閉じ込めていた
長く長く燻っていた想い
気づいた時には傍らにいた存在に
いつしか抱いた別の想い
兄妹のようにと思っていたはずなのに
ひとりになった今になって甦る想い
━あの時
伝えることが出来なかった弱さは
貫けなかった想いより
押し切れなかった柵より
そのどちらより
あまりにも無力で
開かれた心の扉からは
激流のように溢れ出す想いが二人を押し流す
触れ合う肌が
混じり会う汗が
二人の空白を重ね
溶け合う吐息が
重なり合う鼓動が
二人の想いを交わえる
━やがて
震える身体が
乱れて止まる呼吸が
流れる一筋の滴となり
二人の年月を押し流した
*
このとき限りに咲く一輪の花が
ひっそりと見守る宵のひと時に