追憶の欠片~千切れ雲の記憶~
※花本恵介さん作曲の『千切れ雲』から、私なりにイメージしました。
こちらをお聴き戴きながら見て戴けると幸いです。
かなり詩くじりまくってますが……。そして、千切れ雲の入れ方にムリくり感が溢れています。
(そして、全くイメージが違うと思われても責任は負えません……すみません ←)
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広い敷地の一角に建つ、豪奢、だけれど古い洋館。
その奥まった一室。
そこは家族が団欒する居間のようであり、見守るのは大きな暖炉。
マントルピースの端にはオルゴールが置かれ、踊り子人形が揺らめく。
暖炉脇の低い棚に座らされた、はしばみ色の巻き毛にブルーグレーの瞳──アンティーク・ドールが、その様子を可憐な、それでいて寂しげな笑顔で見つめていた。
そのドールに近づく小さな人影。小さな手が、そっとドールの両脇から身体をすくい上げる。
ドールとは正反対の、艶やかで真っ直ぐな黒髪と吸い込まれそうな黒曜石の瞳。
この屋敷の住人であろうか。その少女は嬉しそうな、しかし、はにかんだ笑顔を浮かべると、ドールを抱いたままオルゴールを見上げた。
オルゴールが奏でる音を聴きたいのであろうか。それとも、踊る人形を眺めたいのか。
少女が精一杯背伸びして手を伸ばしても、高すぎて届かないそのオルゴールのネジに少女の手が触れ、煌めきながら床へと落ちる。
カツーン。
静かな部屋に響く音。
「……あっ……」
小さな悲鳴にも似た声を上げ、落ちたネジを見下ろしたまま微動だにしない少女。
──と、その時。
「そこに誰かいるのか?」
突然、静寂をかき分けるように聞こえた声と気配。
ハッとその方向を見遣った少女は、人形を棚に座らせると、慌てて奥の扉へと逃げ込んだ。急いで置かれたドールの身体が傾ぐ(かしぐ)。
静かに部屋の扉が開き、この屋敷の主と思しき優しげな様相の紳士が姿を現すと、不思議そうに部屋の中を見回した。
「女の子の声が聞こえた気がしたのだが……気のせいか」
呟きながら、ふと、目を留めると、マントルピースの前には横たわるオルゴールのネジ。そして、脇の棚の上には今にも横たわりそうなドールが。
「さっきの音は、これが落ちた音だったのか。もう、鳴らなくなってしまったけれど、おばあ様が大切にしていたオルゴール……」
納得したように口の中で呟くと、ネジをオルゴールの横に置き、脇の棚を見遣る。
「これもおばあ様の形見だったな。しばらくほったらかしてしまったから埃が……今度、綺麗に掃除しなければ……」
傾いたドールを真っ直ぐに座らせ、入って来た時と同じように、静かに扉を閉めて紳士は立ち去った。
後に残ったのは、古びた家具とマントルピースに置かれたオルゴール、今にも踊りだしそうな人形。
──そして、棚の上に座っているアンティーク・ドールが、さっきより少しだけ嬉しげな瞳で首を傾げていた。
その全てを見ていたのは、棚の隅に置かれた古い写真立てに写る、黒い髪、黒い瞳の少女と、天窓から覗いていた、流れ行く切れ切れの雲──だけ。
*