うかれてポンチる☆悠凜's『雨さん “あどりか” イメージストーリー』
元ネタの曲はこちら↓↓↓
~アドリカはひとりぼっちで朝に旅立つ~
*
〔イメージ1〕
(……ここは、どこ?)
気がつくと、アドリカはひと気のない街の片隅に立っていた。
古い、けれど綺麗な街並み。静か、と言えば聞こえはいいけれど、少し閑散としているようにも見える。
クルリと周囲を見回してみるが、彼女の住んでいる街でないのは確かだ。
なのに、どうしてか……見覚えがあるような、そんな懐かしさが押し寄せて来る。
胸がキュウとなるような、鼻の奥がツーンとして涙が出そうになるような。そんな感覚。
不思議に思いながらも、目の前にある道を辿ってみることにした。
デコボコの石畳の道、小さな店が点在する細い路地裏、ところどころが削れている古い壁、重厚でいてあたたかみのある木の扉。
そこかしこに生活の匂いがするのに、人の気配を感じない。それどころか、ひとっ子ひとり見かけないのは何故だろう?
それよりも、本当にどうして、自分はこの街にいるのだろう?目的を持ってここを訪れた自覚はないのに。そもそも、一体ここはどこなのか……疑問が膨らむ。
━その時アドリカは、ふと、視線を感じて辺りを見回す。
人の姿はない。だが確かに視線を感じたのだ。
「……誰かいるの?」
恐る恐る問いかけるが返事はなく、静まり返った空間で……ふいに振り返る。
━と、目の端に映ったのは、路地の横道に走り込んだ人影。
(……子ども?女の子だったような……)
アドリカはその人影が逃げ込んだ横道へと急いだ。先を見ると、その先の路地を曲がって行く。
(足が速い……)
追いかけっこをしているうちに完全に見失ってしまった。入り組んだ路地に迷いそうになる。
「……やっと人に会えたと思ったのに、どこに行っちゃったのかしら。どこか建物に入っちゃったのかな」
途方に暮れながら呟くと、不意に、背後に感じた気配。
とっさに振り向くと、どうやってそちら側に回ったのか、先程の少女と思しき人影。急いで追いかける。
今度は真っ直ぐな道を走って行く少女。
街中を追いかけているうちに、次第にアドリカの既視感は強くなって行く。
……どのくらい走ったのだろう。突然、目の前の景色が開けた。
そこは聖堂前の広場。少女はアドリカに背を向け、その前に立っていた。ゆっくりと近づく。
「……ねぇ、ここはどこなの?」
アドリカの声に少女が振り向く。その顔を見た彼女は驚きのあまり言葉を失った。
(……私……!?)
━そう。その少女は、間違いなく幼い頃の自分。
その瞬間、過去のあれこれの記憶が一斉に押し寄せて来る。まるでコラージュのように。
アドリカはすべてを思い出した。
その街が自分の産まれた街であることを。そして、彼女の幼い刻を知っている場所であることを。
少女アドリカが、おとなのアドリカに手を延べた。何かを渡そうとしているような仕草。
『小さな自分』に近づいたアドリカは、その手の下にそっと掌を差し出す。
少女アドリカは、何か光り輝くものをアドリカの手に乗せた。
『それ』を見た瞬間━。
アドリカはここに来た意味をも理解した。
自分は、自分の過去を見つめ直し、再び、ここから未来(まえ)に向かって旅立つために来たのだ、と。
掌の上で光り輝くものを真っ直ぐな瞳で見つめる。
それは、これから始まる新しい朝の陽の光。
*
〔イメージ2〕
透明な水の中。
私は宙に浮くようにプカリプカリとたゆたう。
水の中に出たり入ったりすると、そのたびに目に映るのは、木々から伸びた緑の葉。風にそよぎ、光を浴びて輝いている。
そして、その緑と陽の光を反射して煌めく水のプリズム。
眺めながら、心地よい浮遊感にまどろみそうになる。
とろけそうな幸福感。
この場所を失う不安感。
それを上回る安心感。
ああ、この感じを私は知っている。
……違う。
『知っている』んじゃない。
『憶えている』んだ。
この感じに、とても良く似ているところを。
昔、いた、あの場所……。
━ああ、お母さんの胎内(なか)だ。