〘お題de神話〙黄金の果実
『黄金の果実』
現代で
『林檎』とされがちなそれは
本来は別のものだった
それは多くの場合に於いて
オレンジを指したと言う
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Tú eres mi media naranja.
(汝、我が運命の片割れなり)
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オリンポスの頂で、ヘラは何度目かわからない溜息をついた。
心底困りながらも、どこか慈しみの残る相。嫉妬深いとされる女神は、その実、賢母としても名高い。
「本当に困った神……ゼウス……あなた……大切な果実を盗るのも、これで何度目かしら。ガイアから結婚祝いに戴いた大切な木なのに……」
無論、夫の目的などお見通しだった。つまり、目当ての女がいるのだと。
「オレンジはわたくしへの贈り物だったこと、憶えていないのかしら?」
色々な意味でヘラにとって大切なオレンジを、夫にも同様に扱って欲しいと思うのだ。
とは言え、彼の多情は端から知っており、結婚くらいで治まるとも思えなかった。自分を大切に遇してくれているのはわかるし、目移りしても、結局また戻って来ることもわかっている。それでも、いつでも許すと思われるのは癪だ。
「せめて持ち出せないようにしてしまいましょう」
ヘラは、果樹園の木をアトラス山の頂上に植え替えてしまった。これでは如何にゼウスでも手が届かない。
「このくらいの罰はいいわよね」
今後も悩まされることはわかっていたが、何だかんだヘラはゼウスを愛しているのだ。
だが、この時ヘラには想像すら出来なかった。
誰が人の世に伝えたのか──結婚の際、ゼウスがヘラに贈った花だとか、花と実が同時につくからだとか──そこに尾ひれがついたのはスペイン辺り。
まさかオレンジが『media naranja』を意味するものになろうとは。
──原初、人は丸いオレンジだった。時と共に2つの顔、4本の腕と脚の、人が2人くっついたような形に変化したが、勝手に変化したことを怒ったゼウスは、罰として体を半分に割ってしまった。
そのため、現在の人の姿になったが、元々の自分の半身を恋しがって探し回るようになった──。
「浮気虫のゼウスが絡んで、まさか運命の相手の逸話になるとは皮肉な……」
人界を見下ろしながら、ヘラは苦笑する。
「仕方ないわね。そんな貴方でも、私の運命の片割れなんだもの」
いっそ面白いと思い直し、ヘラは余裕の体で微笑んだ。
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