一枚の絵が問いかける Game Changer
毎週見ている、新美の巨人。今週はBanksyのGame Changerが取り上げられていた。いつもは「過去」、「作者が生きていた時代にどう向き合い、何を考えたか」を一つの作品から学ぶのだが、今回は「今」、「このコロナの時代我々は何ができるか」がテーマだった。
Banksy
・額縁に仕掛けたシュレッダーで落札後に裁断
・パレスチナ、ベツレヘムの壁画
・イギリスのEU離脱を風刺して星を削り落とす男 など
人によって思い浮かべる絵は違うと思いますが、プロフィールも確かなことが分からない謎のアーティスト。世界各地に出現し、強烈なメッセージを残し、世界中に問いかける。
Game Changerは、男の子がヒーローマントを付けたナースの人形で遊ぶデッサン調の作品。男の子が夢中になっている傍らにアメコミの人形がバスケットに無造作に捨てられている。
初めてこの絵をニュースで見たとき、
・男の子がナースの人形で遊ぶ:
▶医療従事者に対する素直なリスペクト
・無造作に捨てられたアメコミの人形:
▶アメリカのコロナ対策に対する非難?
▶今は夢中だけど、そのうちにまた新たな人形をもらったら捨てる?
一時的な熱中に対する警笛?
のようなことをぼんやり考えました。
番組では、過去、Banksyにインタビューしたことがある、ライター・翻訳家の鈴木沓子さんが作品に込められた意図を次々に解説していくのですが、あまりに深くて思わずnoteに要約を書き留めたくなりました。よろしければお付き合いください。
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今回の作品は、University Hospital Southamptonというイギリスで新型コロナと闘う最前線の病院に送られた作品。
◆作品解釈の要約◆
・ナースの人形のモデル:
▶19世紀のイギリスの看護師、フローレンス・ナイチンゲール。
彼女は『犠牲なき献身こそ真の奉仕である』という言葉を残した。
▶福祉の仕事はボランティアの精神では長く続けられない。看護をプロの仕事と認める必要性と訴えていた人。
・ナースの肌の色が黒い:
▶イギリスのエスニックマイノリティ(移民・有色人種)を投影。イギリスの医療現場は彼らに支えられている。
▶高い感染リスクにも関わらず低賃金で働かざる負えない今の現場を抉っている。コロナのパンデミックによって社会の歪みが明らかになったことを風刺している。
・無造作に捨てられたアメコミの人形:
▶背景にあるのはDismaland
夢の国をイメージしたお城の前で美しいプリンセスが幻だと言わんばかりに歪んだ形状で佇んでいたり、馬車が転倒してプリンセスが振り落とされそうになっている作品群。
▶蝶よ花よと褒めそやしても、飽きてしまえば捨てられる。
▶今は世界中で医療従事者を讃えているが、気を付けないとそのうち忘れてしまうという強烈な皮肉が込められている。
・無邪気に遊ぶ男の子のモデル
▶巧みな弁舌でEU離脱を実現し、自身もコロナに感染した、イギリスのボリス・ジョンソン首相。手厚い介護を受け、生還後はそれまで予算を削ってきた医療福祉の充実に政策を急転向する。
▶医療従事者の方に感謝を伝えるだけでヒーロー扱いするならば、彼らのことを使い捨てしまうことになる。だから、本当に予算を医療現場に投下するか国民も彼をしっかり監視しなければいけないと訴えている。
▶今は夢中になっているけれどもそのうち飽きて当たり前になってしまうことがないよう、ジョンソン首相だけでなく、見る人にも訴える。喉元過ぎても暑さを忘れるな、と。
・Game Changerというタイトルに込められた意味
▶Game Changerとは、世界を大きく変えようとする人。
▶一人一人がGame Changerになる時代だよということを問いかけている。
◆Banksyの言葉◆
自分の作品でみんなの心がちょっとずつ変わっていけば嬉しいと思っている
俺のやりたいことはそれ以上でもそれ以下でもない
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言葉は大事。でもアートは言語も文化も違うのにストレートに訴えてくる。アートの力ってすごいな~私は何ができるんだろうと考えさせられる作品。