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実例:洗濯物を干すのを妻に頼まれたが夫は忘れた(後)

(承前)
〔共感的な会話〕夫から妻へ
トモミ「ねえ、洗濯物、干してくれなかったの?」
ヒロシ「あ、悪いわるい、すっかり忘れてた。いまからやるから」
トモミ「もういいよ。わたしがやるから」
ヒロシ「(ここから相手に共感をあたえる)おれがきみとの約束を守らなかったから、イラッとしてる?」
トモミ「なんか、テキトーに返事したんじゃないのって思っちゃう」
ヒロシ「洗濯物干しといてってきみがいったき、おれが約束守る気もないのに適当に返事したんじゃないかって疑ってるんだね?」
トモミ「疑う、とまではいわないけどさ」
ヒロシ「おれのきみにたいする誠実さが感じられなくて、疑いの気持ちがわいたり、イライラしたりしてる?」
トモミ「たしかに約束してたのに洗濯物を干してくれなかったことは、誠実な感じじゃないよね」
ヒロシ「きみはおれがきみとの約束をきちんと守って誠実でいることが大切なことなんだね」
トモミ「そうよ」
ヒロシ「おれもきみにたいして誠実でいることが大事なんだ」
トモミ「じゃあ、どうして洗濯物を干しといてくれなかったの?」
ヒロシ「おれの話も聞いてくれるかな」

ここで人の心理として、「自分の話を聞いてもらえた相手の話は、聞く準備ができている」というものがあります。
ヒロシはトモミに共感をあたえて彼女が大事にしていることを聞くことができたので、今度は彼女のほうに彼の話を聞く準備ができて、ヒロシの話を聞いてもらえるというわけだ。
ヒロシは自分のニーズ――仕事の休みで休息のニーズがあること、自分の家でのんびりできる気楽さのニーズがあること、そういったニーズが優先的だったせいでトモミとの約束をつい忘れてしまったこと、しかし彼女との約束を守りたいという誠実のニーズもあり、それが果たせなかったことを後悔していること、できればいまからでも約束を果たさせてもらって誠実のニーズを満たしたいこと、などを伝えることができる。

これらの会話を読んで、一見、非現実的であり、自分にはそのような会話はありえない、と思った人が多いかもしれない。
もちろんこれは例であり、私の創作であって、現実にこのように会話が進むわけではない。
しかし、ここで大切なのは、会話の進め方ではなく、いつも相手に共感を向ける、相手がなにを大切にしているのかに興味を向ける、というこちらの「ありよう」なのだということだ。
そのことをまずは理解していただければ、と思う。

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