実例:洗濯物を干すのを妻に頼まれたが夫は忘れた(前)

共感的コミュニケーションの実例集を書いていこうと思う。
実例には失敗した例と成功した例を併記する。
勉強会や共感カフェの例題として私が作って提供しているものもあるし、実際に参加者から聞いたほんとうの実例もある。
とても豊富な実例が私の手元に集まっているので、すこしずつ書いていきたいと思うが、「こんな場合はどうすればいい?」といった実例があれば提供していただけるとありがたい。
私と共感的コミュニケーションの学び・進展に貢献できるチャンスを、あなたに差し上げましょう(笑)。

さて。
最初の実例として、いっしょに暮らしている夫婦なりまたはパートナーの関係のふたりのあいだで、しばしば起こりうる事態において想定される会話の、非共感的なものと共感的なものを書いてみる。

前提。
ふたりはすでに何年かいっしょに暮らしているパートナーで、ここでは男女としておくが、性別も年齢も、関係性がパートナーでなくて家族であったり友人であったり、あるいは仕事の同僚であっても、似たようなことは起こりうる。
この例では、夫であるヒロシは仕事が休みの日であり、妻であるトモミが用事があって外出する、というシチュエーションにしてある。

トモミ「ヒロシ、わたし、ちょっと出かけてくるから、あとお願いね」
ヒロシ「(テレビの前でごろごろしながら)わかった」
トモミ「あ、それから、洗濯機を回してあるんだけど、終わったら干しといてくれるとうれしいんだけど」
ヒロシ「わかった。全然オッケー」
トモミ「ありがとう。じゃあ行ってくるね。1時間くらいでもどってくるから」
ヒロシ「ああ、気をつけてね」

トモミが出かけ、それから1時間後くらいに用事をすませて帰ってくる。
ところがヒロシはあいかわらずテレビの前に寝転んでいて、洗濯物はそのままになっている。

〔非共感的な会話〕
トモミ「ねえ、洗濯物、干してくれなかったの?」
ヒロシ「あ、悪いわるい、すっかり忘れてた。いまからやるから」
トモミ「もういいよ。わたしがやるから」
ヒロシ「やるっていってるじゃん。うっかり忘れたんだよ。やる気がなかったわけじゃない」
トモミ「いいって。わたしがやるほうが早いし、きれいに干せるから」
ヒロシ「なんだよ、せっかくやるっていってるのに」
トモミ「だって忘れてたんでしょ? わたしとの約束なんてどうだっていいんでしょ? いつもそうなんだから」
ヒロシ「きみとの約束がどうだっていいなんて思ってないよ」
トモミ「だったらなんで忘れたのよ」
ヒロシ「うっかりしてただけだってば」
トモミ「それこそどうだってよかったっていう証拠じゃない」
ヒロシ「そんなにおれのこと信用できないなら、最初から頼まなきゃいいじゃない」
トモミ「わかった。今度からなにも頼まない」

たかが洗濯物でふたりの関係は台無しである。
これを修復するのはかなり骨の折れることだろう(共感的コミュニケーションには「修復」というプロセスもあるが)。

〔共感的な会話〕
トモミ「ねえ、洗濯物、干してくれなかったの?」
ヒロシ「あ、悪いわるい、すっかり忘れてた。いまからやるから」
トモミ「(ここから相手に共感をあたえる)あなたが〈悪い〉と思ったのは、わたしとの約束を守れなくて誠実さを大切にできなかったからかな?」
ヒロシ「うっかりしてたんだよね。休みなんでついだらだらしちゃったよ」
トモミ「たまの休みに気楽にしていたいとか、ゆっくりしていたいと思ってるのかな?」
ヒロシ「うん、それはあるけど、約束は約束だからね、うっかりしてた。すまん」
トモミ「だれかとの約束を守る誠実さが、ヒロシには大事なんだね?」
ヒロシ「そう、とくにきみととの約束はね」
トモミ「それが守れなくて残念に思ってるのね?」
ヒロシ「そうなんだ。だから、いまからでもやらせてよ」
トモミ「わかった。そうすればヒロシの誠実さのニーズが満たされるのね?」
ヒロシ「だと思うよ」
トモミ「じゃあお願いできるかな。わたしもヒロシがわたしとの約束を守ることを大切に思ってるということがわかって、うれしいな。ありがとう」
ヒロシ「おれも遅ればせながら約束をはたせてうれしいよ」

なかなかこのとおりにはいかないかもしれないが、共感的コミュニケーションを用いるとこのように進展するかもしれないひとつの例ということで。
もうひとつのパターンもやっておきたい。
それは、ヒロシのほうからトモミに共感する、というパターンだ。
(つづく)

※あさって7月16日(水)夜の下北沢〈Stay Happy〉での「共感カフェ」の詳細と参加申し込みはこちら。
⇒ http://www.voicetherapy.org/info/cccafe_stayhappy1407

いいなと思ったら応援しよう!