アビスパ福岡:失敗の歴史1995-2014:はじめに

(タイトルを「大迷走」から「失敗の歴史」に変更しました。20240930) 

 藤枝ブルックスが静岡から福岡の地に移転するための運営会社・福岡ブルックス(株)が誕生したのが1994年9月である。翌1995年、チームは福岡に移転し福岡ブルックスと名前を変え、本格的な活動を始める。
 移転1年目のJFLで優勝しJリーグ(現在のJ1)に昇格した福岡ブルックスは、1996年のJ昇格をきっかけに「アビスパ福岡」と名前を変え、29年間、福岡の地で活動を続けてきた。その歴史は苦難の歴史であった。たびたびの経営危機、成績不振、そして4度のJ2降格という苦難を強いられたのだ。特に厳しかったのは、(株)アパマンショップホールディングスグループ(現在の「APAMN(株)」が本格的に経営参画する2015年以前の1995年から2014年の20年間であった。迷走につぐ迷走、七転八倒ならぬ「七転蜂倒」の歴史であったと言えるだろう。
 2011年、3度目のJ2降格の時から、一アビスパサポーターとして筆者は「なぜアビスパ福岡というクラブは、こんなにも迷走を繰り返すのか?」を思索し始めた。ただ、その答えは遠く関東の地から「ピッチ内の出来事」を分析しただけでは分からなかった。「2013年10月の経営危機」をきっかけに「迷走する最大の理由」が「ピッチ外の経営・運営」にあることにようやく気がついたのだ。「1995年から2014年のアビスパ大迷走時代」の最も大きな原因は、アビスパ福岡歴代経営陣(社長)の度重なる迷走にあったと断言してもいいだろう。それは歴代経営陣を送り込んできた福岡財界と福岡市役所の迷走の歴史でもある。

 アビスパ福岡は1996年に15番目のJクラブとして正式なJリーグ会員となった。1996年の売上高はJリーグ全体では15位の21億4910万円であった。それが2012年になると8億5458万円でJリーグ全体では30位に下がってしまっている。単純に言って、他の後発クラブに15も追い抜かれてしまったのだ。最も「追い抜かれた」という表現は正しくないかもしれない。1996年から2012年の16年間で約13億円の経営規模縮小、約40%ものマイナス成長なのだ。右肩だだ下がりの自滅であると断言してもいいだろう。このアビスパ大迷走時代の頂点が、2013年の経営危機問題であった。そこから2度の社長交代、アパマンショップグループの経営参画を経て、ようやく大迷走は解消され始めたと思う。ただし「1995年から2014年の20年に犯した過ち」を繰り返せば、また同じような迷走を繰り返すのではないかという強い危惧があるのだ。「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」という言葉があるが、「アビスパ大迷走1994-2014」の20年、アビスパは、自らが経験した「過ち」からも学ばなかった。正確に言うと、社長交代の度に、それまでの経験までがリセットされてしまって、学べなかったのかもしれないが。
 二度とアビスパ福岡が同じ過ちを繰り返さないためにも、過去のアビスパ福岡の経営・運営の失敗の歴史をサポーターだけではなく、福岡の行政や財界、一般市民が知って共有する必要があるのではないか。それが本稿執筆の一番の動機である。ぜひ多くの方に一読していただきたい。そしてアビスパ福岡が「同じ過ち」を繰り返そうとした時には、それを軌道修正して欲しいと思う。

 これは一地方スポーツクラブの悪戦苦闘、大迷走の歴史でもある。元日本代表監督でもある岡田武史は次のように語っている。「(Jリーグ)最初の10年で選手がプロになり、次の10年で監督がプロになった。最後に残ったのは経営者のプロ化問題だ」と。1993年のJリーグ誕生以来、31年経ったが、日本のJクラブ経営者は、その多くが依然としてプロと呼べるレベルには達していない。2016年には、資金力的にはJ2降格などとは無縁そうな名古屋グランパスが、経営陣の大迷走の末J2降格し、大混乱のシーズンオフという悲劇を繰り返した。試行錯誤と失敗、そして改善。その積み重ねが、歴史の積み重ねがプロへと至る道なのかもしれない。しかし、アビスパや「名古屋のようなビッグクラブ」が経験した「過ち」を他のクラブが、わざわざ経験する必要はないとも思うのだ。
 「天国に行くのに最も有効な方法は、地獄へ行く道を熟知することである」イタリアの政治思想家ニコロ・マキアヴェッリの有名な言葉である。「他クラブの成功例よりも失敗例が役立つ」という心理を、この言葉は示しているようにも思えるのだ。他の多くの地方Jクラブのサポーターの方にも、ぜひ「アビスパ福岡失敗の歴史」を参考にして「愛するクラブ」を守り育てて欲しいと思うのだ。この一連の稿が「アビスパの未来」だけでなく、日本のプロビンチア・地方jクラブ経営・運営の向上にも一役立てれば幸いである。

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