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前世の町

その町では
悲しむことを禁じていたので
人々は思い出すのをやめた
そのせいか 時々
相手の顔が
薄い花びらのように透けていった
町ではまた
苦しんでもいけなかったので
人々は夢を見なくなった
足もとがふと浮き上がるのは
その分軽くなるかららしい
おかげで町には
不幸な恋人たちがいなくなった
恋は互いの目に映る
一度きりの美しい風景だった
それでも
人々は見えない涙を流して生きていた
誰かの何者でもないのは
やはり淋しかったので

ー あなたに逢うまえ
わたしはそんな町に住んでいた
悲しみさえも
強くあなたにつなぐ記憶とは知らずに
鋭い痛みに打つ鼓動が
再び生きる確かさとは気づかずに


2004年  詩誌『 アリゼ 』発表

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