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第4話 学園と姉妹Ⅱ

 生徒会室から出たあさひとみやびは、転入することになる1Aのクラスの廊下を歩いていた。その道中。案の定というか生徒たちから、好奇の目の嵐だった。
 自分から何も話さないことで、謎が深いみやびと今日から転入予定の美少女が、二人並んで歩いているのだから、それだけでも注目を否応なしに浴びてしまう。
「あの、みやびさん。かなり注目を浴びてるんですけど……」
「これくらい、いつもの事……」
 視線を浴びることにはなれているのか、みやびは当たり前の事のように淡々とあさひを連れて校舎を案内していた。周囲の生徒からこのような声が聞こえてきていても、みやびは我関せずを突き通していた。
『あのこ、図書室の姫だよね?謎だらけの』
『そうそう。図書室の妖精とか言われてたわよ。』
 噂の尾ひれがあらぬ方向に広がっていて、これが入学して約半年でこの尾ひれの付き方にあさひも驚きを隠せずにいた。
「あんなこと言われてるけど……」
「気にしちゃダメ。うわささせておけばいいから……」
「へぇ~」
 こういう時のメンタルが弱いのか、うわさされている声を聞くほどに、足が段々早くなっていく……
『あさひさんにうさわ聞かれてるし。恥ずかしい……』
 メンタルが弱いというわけではなく、ただ単純に。あさひにうわさを聞かれたことで、恥ずかしいだけのみやびだった。
『図書館の妖精って何?姫?どこが?もう。うわさが好きなんだから……』
 自分たちのクラスの前につく頃には、若干。ふたりの息が上がってしまっていた。入口の前で一呼吸置いたふたりは、これからの説明をする。
「これから、わたしが先に入って先生に知らせるから、呼ばれたら入ってきて。」
「う、うん。」
「それから、あんまり、気負わないで。そのままでも普通に女の子してるから。」
「う。うん。」
「それじゃ。」
 教室の扉を開けてみやびが入っていったあと、担任に説明しているらしく、数分間の会話ののちに着席した音が聞こえてきた。
『いよいよ、かな?』
 そんなことをあさひが考えていると、扉が開き中から担任の先生がひょっこりと顔を出した。
「え~と。あなたがあさひさんね。よろしく。」
「はい。よろしくおねがいします。」
「あまり、かしこまらなくていいわ。」
「あ、は。はい。」
「これから、私があなたの事をよぶから、入ってきて自己紹介してくれる?」
「わかりました。」
「うん。いいお返事ね。じゃぁ。もう少し待ってて。」
「はい。」
 担任が教室の中に戻った後。呼ばれるまでの数分間。あさひにとっては、かなり長い時間に感じた。そんな長い時間もあっという間にすぎ。
「あさひさん。入ってきて~」
 いよいよ、白百合学園での第一歩となるクラスでの自己紹介があさひを待っていた。
 教室の扉を開けて一足、また一足と足を進めるうち、クラスの生徒に男性であることがバレていないか心配になったあさひであったが、その答えは自己紹介を終えたあさひの杞憂に済むことになる。
「今日から、このクラスに編入します。あさひ。今野あさひです。」
「療養も兼ねて転入することになりましたが、よろしくお願いします。」
 一通り挨拶を終えると、教室内が一瞬。シーンと静寂に包まれるが、一気に歓声へと変わっていく。
「キャーかわいいぃぃぃぃぃ」
「なに、あのちっちゃい子。」
 クラスの女子で歓喜するものや、あさひの容姿の可愛さに悶絶するものなど色々な人がいた。その中でも、男子の歓喜具合は常軌を逸していた。
「可愛い女子。キタ~ぁぁぁぁぁぁ」
 あさひが男子であることは、副会長と寮の三人姉妹しか知らない情報で、当然クラスの男子からしたら、あさひはまごう事なき女子として見られていた。
「はいはい。おちついて。それじゃぁ。席が。みやびさんの隣で。」
「は、はい。」
 クラスの窓際にみやびの席とその隣が空席になっていた。そこに座ると左を振り向くとみやびが窓の外を眺めていた。
「みやびさん。よろしくね。」
 考え事をしているのか、みやびは外を向いたままコクリとうなずくと納得したようだった。
 それからというもの、お昼まであさひにとって地獄のような時間が訪れることになってしまった。
「あぁ。疲れた……」
 授業が終わるたびに、あそこ行こう。部活は何に入ってるの?など色々と質問攻めの応酬に合っていた。それから逃げるように屋上へと避難してきていた。
「足。開きそうになってるわよ。」
「あぁ。あれ?いずみ生徒会長。」
「いまは、いずみさんでいいわよ。」
「は、はい。」
「みやびとは、一緒じゃないのね。」
「あぁ、それなら。僕が……」
 編入から昼に至るまでの教室での一件を一通り説明すると、クスクスと笑い始める。
「そりゃぁ。こんなかわいい子が、クラスに編入してきたら、放っておかないでしょうね。」
「ほんと、質問攻めで疲れてしまいましたよ……」
「ははは。みんな。最初はそんなものよ。慣れてしまえば、普通になっていくし。」
「そうでしょうか。バレないかヒヤヒヤですよ。」
 あさひといずみがそんな話をしていると、みやびがサンドイッチなどをあさひの元へと持ってきてくれた。
「あっ。生徒会長。」
「いずみねぇでいいわよ。お昼だし。」
「そ、そう?いずみねぇ。あさひさん。質問攻めで……」
「きいたきいた。となりで大変だったでしょ。」
 一気に囲まれる形になっていたあさひ。その外側から、なんとかあさひを連れだろうとはしていたらしく、残念そうな表情をしながらがっくりと肩を落としていた。
「あさひさんが困ってたから、連れ出そうとはしたんだけど……」
 午前中の各休み時間には、あさひの周りには常に人だかりができていて、みやびの入り込むスキが全くなかった。
「何回か、トライしたのよ。そのたびに、気付いてもらえなくて……」
「みやび。基本的に声低いもの……」
「あ、あやねぇ。」
 屋上で会話していたのを見つけたのか、あやのが姿を現すとあさひの後ろに回り込んで、後ろから抱きしめ始めた。
「あの。あやのさん。なにしてるんですか?」
「あさひちゃんに会いたかったんだよ~」
「なんでもいいですが、重いです。頭の上に載せないでください。」
 モデルスタイルで、結構なナイスバディ―で共学化間もないにも関わらず、男子のファンクラブが存在する。その証拠に、屋上のあちらこちらにファンクラブのメンバーと思われる生徒がいる。
『これ。ファンクラブに男ってバレたら、最悪なことに……』
 そのことを想像しただけで、血の気が引く思いのあさひだった。白百合荘のメンバーが学園でも集合するという、稀有な状況に包まれているあさひだったが、周囲からは別の視線で見られていた。
「みてみて、生徒会長のいずみ様とあやのさま。そしてみやび様よ。」
「三人揃うことは数えるほどしかないのに、これは絵になるわ~」
 非公式情報ながら学園には、生徒会長のいずみ。あやのとみやびは、ブロマイドがあるらしく、生徒会の資金源になっているという噂があるほどである。
 そうこうしているうちに、午後の授業の始まるチャイムが鳴り響く。
「もうこんな時間ね。ふたりとも、午後からも頑張ってね。」
「はい。」
「ほら。あやの。いくわよ。」
 あやのは屋上に来て以来ずっと、あさひを後ろから抱きかかえるのが定位置になっていた。話を聞くうえでもあさひを抱えたままという、ぬいぐるみの気持ちがわかったあさひだった。
「みやびさん。わたしたちもいこうか。」
「みやびでいいよ。一緒に暮らしてるんだし……」
「いいの?」
「うん。」
「わかった。みやび」
 みやびにとっては、体がなかく普通の事だったのだが、我に返ったみやびは、自分を呼び捨てで呼ばれたことで、なんとも言えない感情が生まれ始めていた。
 それから、午後の授業があっという間に終わりを告げると、みやびと一緒に部活をのぞいてみることにした。
「一応、文芸部と言う体だけど。お互い、好きなことをやっている感じ。」
 部室の入口には、『文芸部』というプラカードが出ているが、部室内はというと文芸部らしく文庫やそれなりの本はあるものの、コミックなどの少年誌や雑誌などのほうが文庫や書籍より多くなっていた。
「みやびさん。新人かな?って、あれ。あさひ姫じゃん。」
「えっ?あさひ姫?僕?」
「あっ!」
 思わず『私』ではなく『僕』が出てしまったことで、男子であることがバレてしまったかと思ったが僕と間違えたことで、それがかえって杞憂に済むことになった。
「僕っ子姫かぁ。かわいぃぃぃぃ」
「えっ!」
 可愛いといいながら両手を広げて走ってくる姿は、あやのを彷彿とさせ、身構えてしまうあさひ。しかし、その横からクイッとあさひをみやびが引っ張ってくれた。
「あさひさん。大丈夫ですか?」
「あ、ありがとう。」
 あさひとみやびが寄り添って立つ姿は、お姉さまと妹のような身長差に見えたことで、部長のあざといセンサーが反応し、スマホの連写機能で二人を撮影していた。
「ふたりとも、そのまま。絵になるわぁ~」
「『絵になるわ~』じゃないですよ。部長」
「それはそうと。」
「聞いてないし。」
「あれ。書いてくれた?」
「一応、書いて持ってきましたよ。」
 なにやら、みやびにはあさひに秘密にしていることがあるらしく、それにどうも部長も関係しているようだった。
「あれ、あさひちゃん知らないの?」
「えっ?」
「ちょっ!部長!」
 よっぽど恥ずかしいのか、必死に部長の発言を止めようとあれやこれやと必死にするものの、全てが空をつき空振りに終わっていた。そして。
「リリィって知ってる?」
「!!!!」
「それなら、知ってますけど……」
「へぇ。あさひちゃんもこっち側か。」
「????」
 そういうと、部長はみやびの肩を抱き、満面の笑みで名前の真実をあさひに伝えた。
「わたしとみやびちゃんで、百合の同人作家をしてま~す」
 笑顔満点の部長とは反比例のみやび。その様子を見るに、嫌々やらされているような様子に見えた。
 それと同時に、リリィという名前に対して、あさひは聞き覚えがあった。
『リリィって名前。僕のファンの作家。』
 そして、あさひはこのリリィという作家の大ファンで、創刊号から最新号までの全5巻をコンプリートしてるほどだった。
「私が脚本でみやびちゃんがイラストなんだけどね。だから、ふたりでリリィなの。」
「私は、渋々ですが……」
「そういえば、百合小説でも人気が出てきててね。」
「そっちでも結構有名な人が手で来てるみたいだけど……」
「へ、へぇ~」
 部長が話し始めた百合小説に関し、一番身近なあさひは何とも言えないばつの悪い表情になってしまう。
「それでね、なかなかいい小説なのよね。こう、読んでるこっちもモヤモヤしてくるのよね。」
「言葉の言い回しがうまいというか……」
「部長もすきなんですね。ここだけの話。うちのいずみねぇも。好きで……」
 部長と、みやびが自分の書いている小説で盛り上がっているのを聞くと、ここまでいたたまれなくなってしまう。
 そんな表情をしているあさひを見たみやびは、あさひが白百合荘に入寮した時の事を思い出していた。
『あれ?あさひさんの持ってた小説。リィムだったような……』
『じゃぁ。もしかして、リィムって。あさひさん?』
 みやびの中で、しっかりとあさひ=リィムの公式がつながってしまっていた。そして、あざとい部長は、そんなあさひの表情を見逃さなかった……
「ん~ん。あさひちゃん。もしかして……」
「な、なんでしょう?」
 真横にニヤッとしながら寄ってきた部長は、わざとらしくあさひの呼び方を変えてみる。
「こう呼んだ方がいいかしら。リィム先生。」
「おぉぉぉぉ」
「あ。やっぱり。」
 なんだかんだで、部長やみやびに自分が百合作家であることがバレてしまったあさひであった。

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