第5話 声も言葉も感情が混じって‘温度’がある。
この回のあらすじ…
この日のお客もひと段落した昼休憩のある日。タカシとサヤカは、マスターが人と話すのが好きになった理由を聞きます。
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この日、午前中の来客が終わり、カフェも昼休み。午前中に訪れたお客のカップにテーブル、豆の手入れなどひとしきり終えると、タカシやサヤカも休憩の時間に入る。店内で息抜きをしながらも、マスターのことについて話し始めます。
「あっ、マスター。そういえば…どうして、ひとと話すのが好きになったんですか?」
「あっ、それ、私も知りたかった。最近は、そこまで話したがる人って、いないですよ?」
ひとと話をすることが減っているタカシたちの世界は、それが普通で当たり前になっていたため、ひとと話すことが好きということに疑問を持ってしまっていた。
「ふっ、君たちの間ではそんなことになっているんだね。まぁ、今では私が特殊。なのかもしれないけれど…」
「こんなこと…聞いたことはないかね? 言葉や声の‘温度’という言葉…」
マスターの言葉を聞いて、タカシとサヤカは顔を見合わせながらも、不思議そうく日をかしげる。
「声や言葉の…」
「温度? そんなのあります?」
「そう…なるよね。まぁ、感じ取れる人と、そうでない人に分かれてしまうからね。」
複雑でモヤモヤとした感覚が芽生えたものの、それを言葉にするのをためらってしまうマスター。
『二人には、二人の未来があるのだから、押し付けてはいけないよね。』
そう思いながらも、マスターは言葉を続ける。
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「こうしてタカシくんやサヤカくんと話しをしているけれど、これにはしっかりと体温も混じっているのさ。」
「その言葉を通じて、私たちは感情が伝達していくことになるものなのさ、こんなことはないかい? 隣の人が嫌な気持ちになっていたら、自分も嫌になったとか…」
マスターの何気ない問いに、二人とも心当たりがあったようで……
「あっ、あります。特に…タカシが…」
「もう、なんだよー。」
「ふふっ。そういうことなのさ。実は、阿吽の呼吸もこれを言うのだけれど、多く会話を交わさなくても、相手の言いたいことを察してしまうものなのさ。」
マスターはこの会話をしている間も、クスクスと笑いつつタカシやサヤカの話を聞くマスターは、実に楽しそうに聞き耳を立てる。
「ふふふっ。こうして会話をしていると、心が温かくなるものなのさ。言葉を交わすだけで、温かくもなれば寒くもなる。それが‘言葉’というものなのさ。」
「そうですよね。」
「ですね。」
タカシとサヤカに話をしながら、マスターも二人に‘会話をする愉しみ’を感じてほしいと思う今日この頃だった。