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第21話 泳ぎのレクチャーとジャグジーの誘惑?

「いや、なんで、そうなる……」

 屋内プールで立花に泳ぎを教えることになった司。
 遥香も泳ぐことはできるが、実際に教えようとすると……

「こうよ、すいーっと。グンと……」
「そして、こう。バーッと……」
「いや、擬音以外で表現してよ……」

 そして、泳ぎの実践に関しては……

「あのさ、それ……」
「ん? なに?」

 平泳ぎで泳ぐ遥香の姿は、平泳ぎというより犬かきに近かった。それに……

「どう見ても、それ。胸で浮いてるよね……」
「う、うぅ。なんといえばいいか……」

 仰向けで泳ぐ背泳ぎで泳いで見せた遥香だったが……、立花にとって嫌味にしか見えなかった……
 遥香の主張の激しい胸が、水面からプカプカと浮いているのだから立花は腹立たしくなってしまう……

「そ、それ。嫌味?」
「えっ? そんなことないんだけどなぁ~」

 水面に浮かぶ二つのふくらみをいじりながら、不思議そうに首をかしげる……

「でもね、水中に入ると肩がこらなくていいんだよねぇ~」

イラッ!

 あまりにも自分の胸のことを言い始めた遥香にイライラしたのか……

「この口か! この口なのか!」
「ひたい! ひたいから!」

 遥香の頬を引っ張って、ムニムニとそのイラつきを遥香にぶつけていた立花だった。

「立花さん、そ、その。それくらいに……」
「むぅ~」

 かなりのうっぷんがたまっていたのか、立花が掴んだほほを離すと遥香の頬は赤くなってしまっていた……
 それから、司は立花に対して泳ぎを教えてあげることになるが、まずは、どの程度泳げるのかを確かめてみた。しかし……

「いい? 泳いでみるね。えいっ!」

すいぃぃ~

 最初は、泳げるのか? と勘違いしそうになるが、次第に……

ずぶぶぶぶぶぶ……

 次第に沈んでいく立花の体。そして……

「ぷはっ! ね?」
「いや『ねっ?』じゃなくて、どうしてそうなるんだよ!」

 立花は、しっかりと手足をばたつかせているが、それが全くと言っていいほど、推進力として転嫁できていなかった……
 泳ぐというより、潜水艦の要領で沈んで行くという形になっていた……
 そんな立花に泳ぎを教えるために、司はまずプールサイドでばたつく練習をしてみることにした……

ばたばたばた

「一応、ばたつきはできてるんだよなぁ~」

 うまくばたつきをすることで、推進力になるのだが、足をうまく使えていないことで、バシャバシャと子供が水遊びをしているような水しぶきが上がるだけだった……
 司は、そのばたつきを改善するため、立花の両手をつかみ自分の方向に向かせた。

「立花さん、泳ぎで押してみてもらえますか?」
「えっ? そんなの無理でしょ……」
「いや、そこまで強い力でとは言わないので。押してみてください。」

 司は、立花の両手をつかむと自分のおなかのあたりにあてがう。
 男でありながら、手入れが行き届いている司のおなかは、すべすべとしているうえに、男らしいしっかりと筋肉もついていた。
 ウォータースライダーでは、いろいろあった立花だったが、こうして司の体に手でしっかりと触れることは今までなかった……
 異性に触れるのだから、どうしても意識してしまう……

『落ち着いて、私。司くんは、泳ぎを教えてくれてるのよ……』

 司に両手を預けて、顔を水面下に沈めるとどうしても視線が司の下半身に行く。決して、そこに何があるというわけではないが、やっぱり。意識してしまう……
 司に教えられながら、泳ぎの練習をするが、バシャバシャと水しぶきが上がるだけで、少しも司を押すことができてなかった……

「立花さん。ほとんど前に進んでないですね……」
「で、でしょ? どうしても行かないのよ……」
「それじゃ、もう一回。プールサイドに手をついて、バタ足してもらえます?」
「えぇっ。同じだよ……」
「やってみて……」
「う、うん。」

 立花は言われるがままに、プールサイドに手をつきバタ足をして見せる。
 すると、司が横に立ち立花の太ももを触る……

あひゃっ!

「ちょっ! 司くん?!」
「そのまま、続けててください。」
「えっ? う、うん。」
「あぁ。やっぱり……」
「やっぱり?」

 立花が進みにくい理由がバタ足だった。
 通常のバタ足なら、足をしなりを利用して推進力にしているが、立花はそれが全くできていなかった……
 そのため、いくらバタ足をしても、子供がバシャバシャと水遊びをしているだけの状態になってしまっていた……
 そこを改善すると、いとも簡単に推進力が得られるようになった立花は、普通に泳げるようになっていた。

「ねぇ、ねぇ。泳げるようになったよ~」
「よ、よかった……」

 よほど泳げるようになってうれしかったのか、立花は泳ぐことが楽しいらしく、プールの脇にあるジャグジーの方へと移動していった。

「ちょっと、立花さん?」

 この時の立花は、司に太ももを触られながらレクチャーを受けたことで、いろいろとおなかが大変なことになっていた……

『おなかが、やばい! じゃ、ジャグジーで……』

 ジャグジー。人工的に体をマッサージする目的で泡を作り出す設備がプール下にある。そこから送り出される空気で泡を作り出している。
 立花は、そこならば自分が放出しても周囲に気づかれずに放屁することができると考えていた。
 しかし、それを知らない司は、立花のあとを追いかけ、ジャグジーの方へと向かう……

「ちょっ! 司くん?! どうして来るの?」
「いや、だって。そっちは……」
「いいの、気にしないでいいから……」
「そんなわけに行かないですよ……」

 立花を追いかける司。その数メートル前を立花が泳ぐという光景が繰り広げられていた。
 暇になっていた遥香は、そんな立花と司の様子に気が付いたのか? プカプカと司の方に近寄ってきた……

「あれ? 司くん。どうしたの?」
「立花さんが、ジャグジーに向かって泳いで行っちゃって……」
「え? あぁ、あれ?」
「そうなんですよ。ジャグジーは泳ぐといろいろまずいんですけど……」
「えっ? そうなの?」

 そんな司の気持ちとは裏腹に、ずいずい進んでいく立花……
 そして、案の定……

「いたっ!」

ごぼごぼごぼ……

「あっ! 立花さん?!」

 ちょうどジャグジーに入ったところで足がつったのか、ジャグジーの中に沈んでいってしまった……
 さすがにまずい状況に陥った立花は、沈んでいく水中の中で必死にもがいていた……

『こ、これ。やばい……』

 立花が沈んでから、少し遅れる形で立花が沈んだ場所にたどり着いた司は、さほど深いというわけでもないジャグジーに手を伸ばした。
 差し伸べられた手にしがみついた立花は、何とか態勢を保持することができた。

ぷはっ! はぁはぁ。

 かろうじて水を飲んでいるというわけではないようだったが、ギリギリの様子だった……
 司の体にしがみつく形で、体制を保っていた立花は、しがみついたままでしばらくふるえていた……

「だ、大丈夫? 立花?」
「げほっ。な、何とか……」
「でも、どうして、ジャグジーに泳いでいったの?!」
「えっ? そ、それは……」
「何があるの?」

 まさか、おならを出そうとして、ジャグジーのところに行って足をつったなんて言えるはずもなく……

「そ、その。いってみたくて……」
「はぁ? 全く……。立花ったら……」
「ははは。」

 そうしてジャグジーの上で会話している間に、そっと解き放っていた立花だった……

 無事に事なきを得た立花は、泳げるようにもなり疲れも出てきたことから、三人は帰宅の途につくことにした……

「わたし、先にいくね~」
「あ、私も。」
「じゃぁ。一緒に帰りましょう。」

 そして、遥香が先にプールサイドへと上がりそのあとを立花。そして、一番後ろを司が付いていく形になったのだが……
 プールサイドにある階段を上がっていく立花が一番上で足を滑らせてしまった……

「あっ!」

 器用にかかとを滑らす形で態勢を崩した立花は、後ろをついてくる司へと倒れこむ……

「えっ……」

 プールサイドへと上がる階段は段数こそ多いものの、そこそこの高さがある。
 その高さが、絶妙に立花と司のお尻の位置と頭の位置がぴったりと合っていた。そして……

ぎゅむっ!

「わっぷ!」
「んんっ!」

 司の顔面に座る形で立花の体がのしかかった。それも、ピンポイントで司の鼻がダイレクトに大事な部分をとらえていた。
 そして、立花とはいえ乙女一人分の体重を首一つで支えているのだから、当然の負荷がかかり……

グキッ!

「ふごっ!」

バシャ~ン!

 そして、二人は仲良くプールへと落ちていったのだった……

「二人とも、大丈夫?」

 遥香の声もむなしく、沈みゆくからだから水面を見ながら司は思っていた……

『あれ? なんか、いい匂いがした気がしたんだけど……』

 そんな淡い記憶とともに、司は気絶してしまったのだった……

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結城里音
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