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第9話 好きと肉体的好意は表裏一体?

 司とのデートから数日。立花の司への思いは募る一方だった……どんなことが好きなんだろうという疑問から始まり、好みの女性はどんな人なのか?やぐいぐい行くほうが良いのか、一歩引いたほうが良いのかと悩み始めていた。
 それと同時に、更衣室の時の記憶まで思いだし立花の体も大人への階段を着実に一歩ずつ上がっていた。しかし、立花にとって一番苦労しているのがやっぱりあのことだった。
『なんで!司くんと会話しようとすると、おなかが反応するのよ!』
 司に好意を抱き始めて以来、立花のおなかも活発に活動をしていた。それも司に接近すればするほどに、より活動的におなかも反応していた。それはまるでレーダーのように敏感に反応していた。
 一方の遥香はというと、夢とはいえ立花のあのおなかの状況を経験したことで、立花のつらさが身に染みてわかっていた。それと同時に、遥香の体を経験した立花は、遥香の体で司を誘惑できたらどれほどいいか、ということを考え始めていた……
 そして、遊園地の一件以来。積極的になり始めた立花の行動に、司本人もどう対応していいか困惑していた。司もそこまで彼氏彼女のような関係になった相手も多いという訳ではなく、学園に来る前はそれなりに人気はあり告白もされてはいたが、本当の「好き」という感情になれなかった司は、ほとんどの告白を断っていた。そのこともあり、かえって人気が出たこともあったが、転校を期にそんなうわさも立ち消えになっていた。
 そんなさなかに興味を持ったのが立花だった。主席で編入し始業式で盛大な注目を浴びた立花に、研究一家で暮らした司の好奇心が立花に向いたことは間違いなかった。
 それは、好奇心という名の一目ぼれに近く、立花の事を知ろうとすればするほどに体の奥がもやもやする司だった。そして、観覧車での急接近から、司は立花をある意味で特別な感情を抱き始めていた。そして、いまである。
 それは、体育の授業の事だった。いつものように体育の授業を済ませた立花や遥香と司たちは、授業で使った用具を片付けることになり遥香は先に教室へと戻り、立花と司が最終的な片付けとなったのだが……
ガチャン!
「ん?」
 体育倉庫の外からは、開けっ放しでダメだろう。というような先生の言葉とともに、倉庫の扉が閉められ、鍵がかけられてしまっていた。幸いか、かろうじて抑えることのできていた立花のおなかは、一気に窮地へと立たされることになる。
 狭い体育倉庫の中で、互いに汗まみれの立花と司。そして外に知らせようにも肩車などをして密着しなければいけない状態に、ふたりは陥ることになってしまう……
『なんで、こんな状況に!?そりゃぁ。ふたりっきりになりたいとは思ったけど。思ったけどさ。どうしてこのタイミングなの?』
 その考えは司も同じようで……
『気まずい!もじもじする立花さんが、ここまでかわいいとは…いやいや。何考えてるんだ!とりあえず脱出を……』
 それまで、司は純粋な研究心から立花へと興味を持ったが観覧車の一件以来、異性として立花を見るようになってしまっていた。それまで、女性の容姿などにそれほど興味を持ったことのない司にとって、いきなり訪れる形になった思春期は司の研究心としてみる目をあっという間にピンク色に染め上げる。
 それは立花も同様で、事故とはいえ司に逆壁ドンするなど普段ならそこまで接近することがない異性との急接近に、自宅に帰ってから思いだしてしまったことで一気に乙女心に火が付いた。観覧車の時には不思議なほどに落ち着いていた立花のおなかは、司を意識しだすと同時に、接近しただけで敏感に反応し理性を刺激してきていた。
 そして、ふたりのこの懸念は「体育倉庫への閉じ込め」という、あたかもお約束かのような状況に陥っていた。
「あ、あの。立花さんどうします?」
「どうしよう……」
 授業の一番最後が体育だったこともあり、次の授業での出席状況でいないことが分かることはなく、校内アナウンスには帰宅を促す放送が無常にも流れる。あわよくば、体育系の部活が倉庫を開けてくれれば助かるのだが……
「体育系の部活が明けてくれれば……」
「あの、司くん。それなんだけど、遥香さんいるでしょ。運動系の部活なんだけど、今日。休みらしいの……」
「えっ!じゃぁ。」
「うん。自力で何とかするしか……」
「うわぁ。どうしよう……」
 体育倉庫の構造は、棚の上に40センチくらいの大きさの通風孔と、棚の下に同じような通風孔がある程度で、スレンダーな立花であれば通り抜けできそうなスペースだった。そして、肝心の正面の扉は鍵の反対側に開けられる構造があるかと思いきや、全くなかった。
「立花さん。ここからなら出れそうですよ。スタイルのいい立花さんなら通りぬけできそうです。」
「うそ。そうなの?」
 司は、上と下にある通風孔を司が確認すると、通風孔の外は綺麗に切りそろえられた角材にビニールシートが掛けて積み上げられていたことで、上から脱出したとしても手が届きそうな高さまで積み上げられている様子だった。
 この状況であれば、男の司が行くよりも少しでも身軽な立花が行くことになるのだが、立花は率先して首を縦に触れない理由があった。それは……
『おなかが限界!この状態で、司くんに抱えられたり、肩車とか……無理!』
 立花のおなかはすでに、臨界点に達しようとしていた状況で、この状況で司に肩車されようものなら、ダイレクトに股関節が受ける刺激がおなかを直撃し司に向って出してしまいそうになるからである。
 しかし、そんな立花の思いとは裏腹に、司はもじもじとする立花の姿に好奇心すら抱いていた。それに合わせて、男である自分が行くよりも助かる率が高い立花を先に行かせて誰かを呼んできてもらったほうが最善と判断していた。
「立花さん。僕が肩車するので、上の通風孔から外へ……」
「い、いやぁ。それは……」
 立花の状況に対して、男として女性を先に逃がすという司の判断に、少しときめいたものの、それと同時に立花のおなかは出してしまえと刺激してくる。こんな状況で肩車をされ酔うものなら、棚にたどり着いて出ようとした段階で、下からも出てしまう状況が目に見えていた。しかし、せっかくの司の提案に乗ることにする立花……
『お願い!今は出ないで!』
 そう願いながら立花は、司へと身をゆだねる。互いに体育後ということもあり一応に汗ばんでいたこともあり、いつにもまして肌が敏感になっていた。それは司も同じで、スポーツ短パンを履いている立花の足の間に頭を通し肩車をするが、柔らかな立花の太ももが司のほほをはさみ込む。
『や、柔らかい……立花さんの太もも……いやいや、何を考えてるんだ!僕は。立花さんを先に脱出させないと!にしても……やわらかい……』
「立花さん。いくよ!」
「う、うん。」
「よいしょ!」
「はうっ!」
「だ、大丈夫?」
「へ、平気……」
 司の頭が立花の太ももの間に入る。そして司の肩に座る形で持ち上げられると、股関節だけで自分の体重を支える形になる立花のおなかは、悲鳴を上げるようにキュルキュルと活発に動く。条件反射的に足に力が入ってしまって司の頭を挟み込んでしまう。
「り、立花さん。あ、あし。足。」
「ご、ごめん。ちょ、ちょっと待って。落ち着くまで……」
「う、うん。」
 立ち上がった状態で立花が両足を閉めたことで、下になっている司はふらついてしまう。そのふらついた司の動きを反映する形で上になる立花も姿勢を保とうと腰を動かす。すると、その刺激がダイレクトにおなかを刺激してしまう。
『出ないで!おねがいだから!』
 立花の切実な思いはなんとか通じたらしく、なんとか落ち着いたことで一歩、また一歩と棚へと足を進ませようやく棚に立花の体が乗り、司は見守る形になる。
 うつぶせの形で棚に乗る立花。この態勢が一番まずかった。全体重を悲鳴を上げているおなかで受け止めるのだから、足を引き上げようとすればするほどにおなかを刺激する。上がれない立花をサポートするように、手で立花の足を押し上げる司の顔の前には必然的に立花のお尻が顔の部分に来てしまう。
 意識しまいと司は顔をそらせるが、それでは力を入れるべき方向が定まらなくなってしまうこともあり、視線を外そうにも外すことができなかった。
 立花の全体重をおなかで支える形な上に、司に足を抑えてもらっていることで踏ん張りが聞くようになってしまったことで、最悪な条件がそろってしまう……
『出ないで!お願いだから。今は……』
 せっかくここまで堪え耐えてきた立花は、固く結んだ風船の口が今にも緩みそうだったが、ギリギリ押しとどまっていた。そして、なんとか通風孔にたどり着いた立花は、通風孔から体を乗り出すと、確かに手の届く高さまで木材が積み上げられていた。
 そこで、ひとつ誤算があった。それまで立花は司の前で漏らすまいと我慢を繰り返していたことで、おなかがふくらんでしまい引っかかってしまっていた。通風孔を出るのであれば、おなかを引っ込ませる必要があるが圧迫されたおなかを引っ込ますということは、必然的におならをしなければいけない状況になる。
「つ、司くん。これから外に出て先生に鍵をもらってくるから、待っててね。」
「は、はい。お願いします。」
 司が立花の状態を見ていないことを祈った立花は、ゆっくりとおなかの風船の口を緩めてたまりにたまったものを放出する。それは、加瀬が流れるように。静かにしっかりと放出する。そして何とか外に出ることができた立花は、職員室へと行き倉庫の鍵を借りて扉を開けて司と再会する。
「そ、その。ありがとう立花さん……」
「いいの。司くんのおかげだし。」
「そ、それもあるけど……」
「ん?ほかに、何かあるの?」
「いやね。立花さんが棚に上がって、通風孔から出るときに動きが止まったから心配になって、台に上がったんだ。」
「へっ?」
「立花さんの様子を確認しようとしたら、その。風を感じて、ちょうど外の空気を感じたかったし……」
 そう、あの時。立花は上半身が倉庫から出てしまっていたことで、まさか司が立花の事を確認するために頭を上げてのぞき込んでいるとは思ってもいなかった。そんなところに、おならをしてしまったのだから顔から火が出るくらいはずかしいことをしてしまっていたことに、いま気が付いた立花だった。
「いやぁぁぁぁ~はずかしぃぃぃぃ~」
『穴があったら入りたい!どんな顔して会えばいいの?』
 一方の司はというと……
『やっぱり、匂いがしないのは変だよなぁ~』
 と立花の恥ずかしさとは裏腹に、研究者の思考が働いてしまっていたこともあり、そこまで気にしていない様子だった。しかし、立花はそうもいかない。自分が好意を持ち始めた相手に、事故とはいえ至近距離でおならを嗅がせてしまったのだから、どんな顔をして会えばいいのかわからなくなってしまった立花であった。

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結城里音
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