第10話 力持ちとラヴィリオ
アリナがアルコールに弱いことがわかって数時間後……
「これ、どうやって動かすの??」
アリス達の前には、男手が必要なほどのデカイ置物が地下室の扉をふさいでいた……
試しに、アリスが動かそうと試してみるも、ピクリとも動くことがなかった……
どうしようかと迷っていると、ラビティナがキッチンにやってきてアリスに報告した。
「えっと、男手として、騎士団長のラヴィリオがこっちに来るようになってます……」
「えっ、騎士団長? そんな人に手伝ってもらっちゃっていいの?」
「いいのよ、騎士団長といっても、後輩に教えてることが多いから……」
「それなら……」
アリスは、騎士団長と聞いてごつくガッシリとした、いかにも体育会系の姿を想像していた……
一方その頃。王城の騎士の詰め所では……ラヴィリオが店に向かって出発しようとしていた。
「ラヴィリオ。そろそろ、行った方が良いんじゃない? 姫さんまってるじゃ?」
「ラヴィリナ、そのつもりだけど……ラヴィリナも来るんだろ?」
「そりゃぁ、行くけどさ……」
肩まである長い髪と、髪の中に隠れるようにしてある耳は、アリティア種の特徴を色濃く受け継いだ姉弟の二人は、これからいこうとしていた店の話とクラリティア人の話をしていた。
「なぁ、本当かな。姫さんが言ってた、クラリティア人を呼んだっていう話……」
「姫さんが言ってるんだから、本当でしょうよ。あたしも、歴史の本でしか見たことないけど……」
「だよなぁ、本当にクラリティア人っているのかねぇ……」
ラビティア生まれの二人は、学院での歴史の授業でしかクラリティア人のことを知らなかった。
クラリティア人は、ラビティアに産業革命のキッカケを作った象徴として、有名な存在になっていた。
「なぁ。確か。クラリティア人と偽ったやつもいたよなぁ。」
「そうだったそうだった。蓋を開けてみたら、ただのラビティア人だったっていう……」
「そんなにすごいもんかねぇ。クラリティア人って……」
「それを確かめるためにも、あたしたちも行くんでしょう。」
「まぁ、それはそうなんだけどなぁ……」
準備をしながら、ラヴィリオはちんたらと無駄話をしていた。
さすがにイライラしたのか姉のラヴィリナが活を入れた。
「いいから、あんたは先に行きなさいよ。もう。」
「わ、分かったよ、姉ちゃん……」
その頃のカフェでは、地下室に行けないということもあり、ほかの場所のチェックをして待っていた……
「それで、そのラヴィリオさんは、どんな人なの?」
「えっと、騎士団長のラヴィリオは、アリス様よりはちょっと小さいですが、すらっと手足が長いタイプですよ。」
「へぇ~」
そんな話をしていたアリスが、中庭に通じる扉を開けると通り沿いのフェンスからひょっこりと顔を出す人がいた。
もしかして…と思ったアリスが、店内に呼んで確認してみることにした。
「ラティナ……」
「何ですか? アリス様?」
「そのラヴィリオっていう人、こういう人?」
「えっ?」
アリスの横には、騎士の格好をした男の人が立っていた。
「ラヴィリオ。そ、そうです。その人が……」
「あんたが、クラリティア人っていう……」
「は、はい……」
ラヴィリオは挨拶のつもりで肩に手をポンポンとしようと思った。距離感を間違ったのか……
ぽにょっ。
「あっ……」
「ん?」
むにょ。もにょ……
ラヴィリオが手の置いたた場所は、たまたまアリスの胸の位置だった。
男装するために、それなりに巻いていたがそれでも多少のふくらみは残っていた。そこをラヴィリオが触ってしまっていた……
「お、女? 女なん?」
「う、うん……」
「なんでそんな格好……」
「いや、これは、この身長をごまかすために……」
「あ、そ、そう。あははははは。」
ラヴィリオは、触ったことが嘘のように普通に振る舞った。それは、アリスとて同じだった。
ここで、アリスが怒ったのがバレたら、女性であることがかえって周囲に知られてしまう……
ただ、一人。許せなかった人がいた……それは、アリナだった……
ゆっくりと、ラヴィリオの方へと行くと、思いっきり……
バチーン!!!!
シーンとした部屋に、ビンタする音が響き渡った……
「あ、アリナ?」
こういう場合、どちらかが冷静だったり、非を認めることができるのなら収束に向かう。
しかし、ビンタされたラヴィリオは自分の非を認めず。それどころか、アリナに対して対抗心を抱いて、向かって行ってしまった……
「ら、ラヴィリオさん……」
ラヴィリオに対して、非を認めるように諭そうとしたつもりだったが、いいところを見せたいと思ったラヴィリオは……
「アリナさん。ここは、私が……」
「いや、そういうことではなく……」
「いいんだ。ここは私が……」
その横柄な態度にさらに腹が立ったのか、アリナの強烈な右フックが飛んだ……
ドゴォォォォォォォォン!!!!
きれいにヒットしたラヴィリオの体は裏庭へと吹っ飛んだ。
幸いだったのは、飛ばされるのを察したラビリナが中庭に続く扉を開けておいたことだった……
そこを、飛ばされたラヴィリオがそこを通って中庭に吹き飛ばされていた……
「ら、ラヴィリオさん。だ、大丈夫?!」
アリスが声をかけると、ピクリと起き上がり平然と立ち上がる。
「あ、アリスさん。こ、これくらい大丈夫ですよ。へ、へっちゃらですよ。」
『そ、その自信は、どこから……』
あきれるアリスをよそに、勝手にノリノリになっているラヴィリオだった……
『どうなるの?! これ……』
新たにオープンするアリスの店の裏庭で、激高しているアリナとラヴィリオが、対峙するという珍妙な状態になるのだった。
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