第25話 勉強会からのお泊り会 Part 2

ザァァァァァァァァァァァ!!!!

 外ではけたたましい音を立てて、雨が降っていた……
 窓の外を見ている司の後ろでは、遥香と立花が気を紛らわせるためか互いに勉強を見あっていた。

『あれ……前もこんなことがあったような……』

 司は立花の家で教えたときも同じような転天候になり、自宅に帰ることができなくなった司は、一晩。立花と一緒に過ごすことになっていた……

『今日もなんて……まさかな……』

 司のそんな心配は、妙にかなってしまうもので、雨は一向に止む気配がないどころか激しくなる一方だった。

「やみそうにないわね……」
「そうだね。どうしよう……」
「えっ? 泊まっていったらいいじゃん」
「えっ!」
「えっ?」

 司が驚くのは、納得していた遥香だったが、なぜか立花も驚いていた。

「なんで、立花も驚くのよ。」
「いや、だって……」

 立花の頭の中では、以前にあった司と泊まったことを思い出して、モヤモヤと考えてしまう……

「あっ。そういえば、立花。前にそんなこともあったね」
「そうよ、それがあるから……」
「なに、思い出しちゃった?」
「それは……」

 思い出していないといえば、嘘になる。
 あの時、母の差し金で妙なスイッチの入った立花は、入浴中の司のところへと乗り込んだり、同じ部屋で寝たりといろいろなことがあった……

『き、期待してる……とかそういうわけじゃ……』

 そう考えつつ、努めて平静をよそおうとしていた立花だったが、遥香にはお見通しだった……

『立花。前は、いろいろあったみたいだから。今回はより進展してもらわないと……』

 そんな考えと思惑が、二人の間で交錯していた。

「ふふっ」
「ふふふふふっ」

 不敵な笑いを繰り広げる二人に、不思議な感じを抱いた司だった……

「ちょっと、休憩しようか。ちょうど、雨で帰れないことが分かったんだし……」
「そ、それもそうね。」
「司くんは、ここで待っててね。」

 遥香はそう言い残すと、リビングに飲み物を取りに部屋を出ていった。部屋には立花と司が残される形で、立花の部屋で勉強会をしたときと同じ状況になっていた……
 立花の隣に座る形になった、司。二人の間には、微妙な空気が流れる。外では、相変わらずの豪雨が続いていた……
 二人の間に広がる沈黙に、いたたまれなくなった二人は、どちらともなく会話を切り出そうとする……

「あの……」
「あの。立花さ……」

 二人とも同じタイミングで会話を始めようとした瞬間……

ピカッ!

ゴロゴロゴロ!

「きゃぁぁぁぁぁ!」

 よりにもよって、立花の向いている司の後ろに窓があることで、カミナリがダイレクトに立花を刺激してしまった……
 そして、条件反射的に司に隠れようと、前のめりになる立花。当然、司はそれを受け止める。

「大丈夫? 立花さん。あ、そういえば、立花さんは……」
「えぇ。そうよ、カミナリ怖いの……」
「そうだったね……」

 司の腕の中で震えている立花は、守ってあげたくなるほどに小さく、恐怖でおびえていた……
 その姿を扉を少しだけ開けた遥香が見守っていた……

「遥香さん! これは、深いわけが……」
「いや、いいのよ。どうせ、立花の方から飛び込んできたんでしょ?」
「は、はい。でも、よくわかりましたね?」
「よくわかったも何にも……立花がカミナリ苦手なのを知ってるし……」

 立花と遥香は幼馴染ということもあり、いろいろと知っていることが多かった。好きなものから、嫌いなもの。ほくろの位置や数まで知っていた……
 司が目撃された遥香に言い訳をしている間も、立花は司にしがみついたままで、離れようとはしなかった……

「ちょっ、立花さん?」
「も、もうちょっと……」
「も、もうちょっと?!」

 そんな立花のめったに見ない姿に、遥香は驚く表情をした後でにゃっとした顔に変わっていった……

「なに、立花。そんなに司くんとくっつきたかったの?」
「!!!!」

 カミナリが鳴り驚いた瞬間に抱き着いた立花。耳も同時にふさいでいたこともあり、遥香がそこにいるとは思っていなかった……

「遥香!? 何でいるのよ!」
「なんでって、戻ってきたら、抱き着いてるんだもの……」
「いつから?」
「ん?」
「いつから? って聞いてるの!」
「『いつから?』もなにも、カミナリが鳴った直後にはいたわよ」
「…………」

 慌てて司から離れた立花は、事情を説明しようとあたふたし始める……

「こ、これはね……」
「落ち着いて、何年付き合ってると思ってるの? カミナリが嫌いなことくらい知ってるわよ。」
「それは、そうよね……」
「それに……」
「それに?」

 それまでのあきれ顔の遥香から、一気にニヤッとした表情に変わり……

「カミナリに怖がるのに乗じて、司くんに抱き着こうとしてたことくらい……」
「!!!!」
「!!!!」

 にやにやと楽しそうに語る遥香は、勉強の苦行からの解放感と、立花の楽しい状況を拝めたことで、よりイキイキしていた……

「はるかぁ!!!!」

 二人のやり取りは、すでにおなじみになっていた。司も二人のやり取りを見ていて、自然と笑顔が漏れてしまう……

「ほら、司くんもにやにやしちゃってるし……」
「えっ? あっ! 司くんまで……もう……」
「いや、こ、これは……」
「いいの。慌ててる立花は、かわいいでしょ?」

 横に来て耳元でささやく遥香の言葉は、的を射ていた……

『た、確かにそうだけど……』

 遥香に指摘され、ぐうの音も出なく膨れる姿は、確かにかわいい姿に他ならなかった……
 それから、三人で食事をとった後。お風呂に入ることになった司だったが……

『今日は、来ないよなぁ……』

 以前に、立花の家に泊まった時は、立花が水着を着て乱入してきていた。そのことを思い起こす似たような状況。しかも、今回は遥香の家ということもあり、遥香までが乱入してきそうな感覚になる……
 しかし……

『考えすぎだよな……自意識過剰かな……』

 当然、入ってくるはずもなく、着替えて部屋に戻ると二人ともパジャマに着替えを済ませていた。
 以前の泊まりの時とはまた違った、二人ともかわいいデザインのパジャマになっていた。

「そのパジャマは……」
「あぁ。これ? 遥香のうちに泊まるときもあるから、お泊り用ね」
「へぇ。」

 二人が並ぶと、遥香が姉で立花が妹のような印象すら受ける。すると、遥香はパジャマの上が何やらきつそうだった……

「どうしたんですか? 遥香さん……」
「いや。育ったのかな? ねぇ。司くん。どう思う?」

 グイグイと近寄ってくる遥香は、見ようによっては、見えてしまいそうになる。それを、立花が黙ってみているはずもなく……

「ちょっと! 何してんのよ! 遥香……」
「いや、司くんに診てもらおうと……」
「何をしてんの……てか、それ。私の置きパジャマじゃん!」
「あぁ、それで……」
「どうりで、こっちのパジャマが、ぶかぶかだと思ったわ……」

 確かに立花の着ているパジャマは、ゆとりが多めだった。普通の身体に合わせたパジャマであれば、そこまでのゆとりは生まれないが、今着ていたパジャマは首元から鎖骨が見えていた……

『鎖骨が……ってことは……』
「ん? 司くん?」

 ぶかぶかに近いパジャマを着ようものなら、やはりいろいろと見えてしまう……
 司と視線が合った立花は、司がどこを見ているかわからなかったため、その視線の先をなぞると……

「!!!!」
「つ、司くん!」
「あ、ご、ごめん。今のは、事故……」

バチーン!

 肩口がはだけたパジャマになってしまった立花の胸元は、見事にはだけて肩紐とブラが少しだけ見えてしまった……
 当然、事故とはいえ、見えてしまったことで司の頬には見事な手形が付いたのだった……

「あれは……不可抗力…」
「だから、ごめんって……」

 あの後、不可抗力で見えてしまったことを理解した立花は、平謝りしていた。
 扉越しに話す立花と司は、部屋の中で立花と遥香が着替えているということもあり、司は廊下で待っていることになった……

「まさか、あんなにはだけるとは、思ってなくて……」
「ちょっと、それ。あたしが太ってるとでも言いたいの?!」
「えぇっ。その主張の激しい二つのふくらみが、邪魔なのよ。もう。」
「えぇっ、立花だってあるじゃん……」

 廊下に立たされる形の状態で、部屋の中では下着姿の二人が胸の大きさ比べを繰り広げていた……

『これ……生殺し……』

 扉の向こう側では、下着姿の二人がどっちが大きいだの、感度がどうだのと会話が廊下にまで聞こえてきていた。
 下着姿の二人がいるというだけでも、いろいろと煩悩を刺激してくるのに、胸のサイズを争いだすという、司にとっては苦行でしかなかった……

『いつまで……』

 そんなことを思っていると……

「司くん。入ってきていいよ~」

 遥香の呼ぶ声が聞こえた司は、やっとの思いで苦行から解放され、立花たちのいる部屋を隔てる扉を開ける……

「ちょっ! 司くんまっ……」
「えっ?」

 司は、扉を途中まで開けたタイミングで、静止に来た立花と鉢合わせした。二人の着替えが終わったものだと思っていた司の目の前には、下着姿の立花と、にやにやしながら笑いをこらえている遥香の姿があった……

「え、えっと……」

 こういう時の、視野というのはスローモーションに見えるもの。たとえ、一瞬しか見ていなくても、視野は条件反射的に見てうれしいところにズームインするもの……
 しばらくの沈黙の後……

「ごめんなさいぃぃぃぃぃぃ!!!!」

ばたん!

 勢いよく閉めた扉の向こうで、司が謝る声が室内にも響いていた……

「きゃぁぁぁぁぁ!!!!」

 それと同時に、立花の悲鳴もとどろいたのだった……

バチーン!

 改めて着替えが終わった司が部屋の中に入ると、遥香の頬には見事なほどに立花の手形が付いていた。

「さ、寝よっか。」

 頬をジンジンさせながら言う遥香は、滑稽で吹き出しそうになった司だったが、寝るということだったので、ほかの部屋に自分が移動するものだと思っていた……

「じゃぁ、どこか別の部屋に……」
「何を言ってるの? 司くん……」
「えっ?」
「司くんも、この部屋よ。」
「いや、それ、まずいんじゃ?」
「立花まで何を言ってるのよ。立花も一緒に寝たんでしょ?」
「うぐっ!」

 確かに、司が立花の家に泊まった時は、立花の部屋に泊まる形になっていた。そして、翌日。寝ぼけた立花が司を抱き枕にしていたという事件があった。

「でも、あれは……」
「だったら、司くんも一緒でいいじゃん。それに……」

 遥香の言われるがままに横になった三人は、司を真ん中に両端を遥香と立花が挟む形になっていた……

「いや、どうして。こうなった?」
「あ、あと。あたしも抱き枕愛用してるから……」
「いや、遥香さん。それ。シャレにならない……」

 司の耳元でささやく遥香の声は、それだけで司はゾクッ!っとしてしまう。そして、なぜか立花も……

「ちゃ、ちゃんと、抱き枕になって。司くん……」
「い、いや。まって……て、もう寝てる?!」
「って、こっちも?!」

 司を挟む形で、寝息を立てる二人は、司の腕を抱きしめたまま眠ってしまい、身動きが取れない状態だった。

「いや、どうするんだ。これ……」

 二人の寝息は、司の耳を。二人の淡い匂いは、司の鼻を。二人のやわらかな感触は、司の両手越しに司の理性を刺激していた……
 司は、理性を保てるのだろうか……

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結城里音
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