チェルシー 12月日記「ウィリアンとペドロとカンテ」
クリスタルパレス戦を終えて、2018年のチェルシーの試合は全日程終了しました。
12月のリーグ戦の結果は以下の通りです。
vs フラム 2-0 ◯
vs ウルブス 1-2 ●
vs シティ 2-0 ◯
vs ブライトン 2-1 ◯
vs レスター 0-1 ●
vs ワトフォード 2-1 ◯
vs クリスタル・パレス
リーグ戦のみで月に7試合、カップ戦とELも含めると9試合という超過密日程の中でこの結果というのは、まずまずなのではないかと思っています。
さて今回のレビューでは、12月に出場した選手の中で変化が見られた選手、あるいはこのままではまずいのでないかと思われた選手、そして僕が感じ取ったサッリの今年の狙いについて書いていきたい思います。
1. 台頭しているバックアップ
2. アザール
3. このままではまずい3選手
4. 今年のサッリの思惑
1. 台頭しているバックアップ
超過密日程を乗り越える上で、出場機会を得られた選手が何人かいます。僕が見ていて気になったのは、ロフタス=チーク、セスク、クリステンセンのプレイです。
まずはロフタス=チークです。
彼のプレーの良いところは、"アザールとのパス交換が多い"ことです。
今のチェルシーは、良くも悪くも今のチェルシーはアザールに依存したサッカーをしています。チェルシーが勝つためには、アザールが高い位置でボールを触る機会を増やすことが絶対条件です。ジョルジーニョがマンマークされることが多い試合においては、縦パスの本数が減るためにアザールにボールが行き届かない問題が発生します。そのような状況で、アザールはタッチ数を増やすために自分のポジションから離れてボールを受けにいきます。アザールが下がってボールを受けてしまうと、相手ゴール付近にチェルシーの選手がいなくなってしまうので、相手からすると「ボールは回されるけどゴールは奪われない状況」が発生します。これは先制点を是が非でも奪いたプレーモデルを構築しているチェルシーからすると大問題となります。
この問題を解決できるのがチークです。チークはボールを受けたらまず一番にゴールに近い選手を見ます。サイドに散らすプレーはほとんど選択しません。そして、ボールを出したらまたゴールに向かってランニングしていきます。チークのプレーはこの繰り返しなのです。
チークのプレーにコバチッチも感化されたのか、以前より出した後にもう一度走り込んでゴールに向かうシーンが増えた気がしています。サッリのサッカーを体現する上でチークのプレーは欠かせない要素に今後なっていくと思います。
2人目はセスクです。彼が今のチェルシーにもたらしているポジティブな影響は、"ジョルジーニョとプレースタイルが大きく異なる"点です。
セスクがジョルジーニョの位置で起用される時に特徴的なプレーが2つあります。1つ目は、「持ち場を離れてプレーする」ことです。彼は、相手FWの周辺でボールを受けようという意識はあまりなくて、常にふらふらしています。味方SBの近くでボールを受ける場面もあれば、高い位置まで冒険してボールを受けることもたまにあります。
一方、ジョルジーニョは「止まって受ける」天才で、相手DFのスライドを利用しながら1-2mの細かい外す動きと体の向きの変化でパスコースを作る選手です。このタイプの選手はマンマークをつけられるとボールをほとんど受けられなくなるのが弱点である一方で、セスクのようなふらふらタイプは相手がどこまでマンマークとしてついていけばいいか判断しづらいので、守備のバランスが崩れます。このため、ジョルジーニョがマンマークで消され続けていたエバートン戦(11/11)とレスター戦でセスクが途中出場した際に、相手はどうやって守ればいいのかわからなくなってセスクに自由なスペースを与えていたのです。
2つ目の特徴は、「テンポが遅いこと」です。まず前提として、サッリはテンポの遅いプレーを好んでいる訳ではないです。しかし、今のチェルシーのレシーバーに値するFWの選手で、早いテンポでボールが受けられるタイミングで動き出せる選手はアザールしかいません。セスクは、持ち方がよくてボールを絶対に失わない自信があるので、味方がボールを受けられる準備が出来るまでボールをキープします。そのタイミングで縦パスを供給するので、味方にボールが到達する確率が高く、より中央から攻める機会が増えるのです。
ただ、これについては誤解が生じるポイントがあります。
まず、サッリがこのテンポでプレーすることを望んでいないことです。よくジョルジーニョがダイレクトでフライスルーパスを送って、誰も反応せずに相手キーパーまでボールがいくシーンをチェルシーサポの皆さんは散見するかと思います。本当はあのテンポで受け手が動き出すことをサッリは望んでいるのです。ワトフォード戦でPKを獲得したアザールのような動き出しのタイミングで他の選手にも動いて欲しいので、ジョルジーニョは失敗しても全く動じずに同じタイミングでパスを供給し続けています。あれは味方と噛み合わなかったことによって発生したミスではなく、味方にあのタイミングで動いて欲しいことを暗示するジョルジーニョの意思伝達なのであります。
話をセスクに戻しますが、ジョルジーニョと正反対なプレーをするセスクは今のところでは相手のリズムを崩す起爆剤として機能しています。が、これは同時に受け手がテンポの早いパス回しをするための動き出しが出来ていないことを露呈しています。この課題は習慣の問題になるので、解決方法もが長期的なスパンを見据えていくと思います。よって、今シーズンいっぱいはセスクとジョルジーニョの併用は効果的ではないかと考えています。
最後に、クリステンセンの話をして終わります。クリステンセンについては、ウルブス戦でのパフォーマンスのみ観戦しましたが、彼の"体の向きで相手を騙す力"には驚かされました。
ブスケツがよく得意としているプレーですが、ボール保持時の体の向きを変えるだけで相手DFはかなり動かされます。
ウルブス戦では、クリステンセンが自分の体の向きと異なる方向にパスをだすシーンが散見されました。リュディガーとルイスはそこまで方向転換をするタイプではないので、ボールの受け方がうまくない選手の多いチェルシーでクリステンセンのようなパサーが下にいるのは大きいのではないかと感じました。
ただ、被カウンター時の対応を見ると、まだ守備のところでサッリに信頼を得られていない部分はあるのではないかと思ったので、今後どのように改善してスタメンに食い込んでくるか楽しみな選手です。
このように面白い芽は少しずつ出ているので、あとは組み合わせと戦術でどれだけ各選手の弱点を補えるかどうか。サッリの今後のプランに期待したいと思います。
2. アザール
サッリが就任して約半年が経過しましたが、私自身が見ていて最もサッリが信頼を寄せているのはアザールだと思います。僕がわざわざ説明しなくてもアザールの素晴らしさは皆さんが感じ取っていると思います。僕からは"なぜアザールが点が取れるようになったのか"について書きたいと思います。
最大の理由は、ゴールを奪うための動きを覚えたことに尽きると思います。彼の最近の動き出しを見ると、フロンターレで全盛期を迎えていた大久保嘉人に近いです。大久保の動き出しで怖いのは、「1度相手CBの管轄から離れて、最後にいきなり現れる」ことです。アザールもまさにそうで、自分が1度低い位置でボールを受けて味方を使い、味方に前進してもらった最後のおこぼれを拾える位置まで全速力でランニングしてゴールを奪います。アザールがさらにすごいのは、目の前の相手が自分を警戒しなくなった途端にドリブルで抜いて数的優位を作ってしまうことです。スピードに乗ったアザールを止めるのは容易ではないので、相手DFはいかにしてアザールにパスをさせるかを考えます。しかし、パスをさせてもスルスルと相手の視野外からペナルティエリアまで侵入してゴールを"横取り"してしまう。今のアザールが止められないのは必然かなと思います。そしてウィンガーがストライカーに成長していく過程はあのクリスティアーノ・ロナウドにも近いと思うので、今後どこまで化けるのかに期待をしています。
3. このままではまずい3選手
タイトルにも書いた通り、このままでは冬の移籍マーケットによって立ち位置を失ってしまう可能性がある選手についても言及します。ウィリアン・ペドロ・カンテです。ただ、直近のクリスタル・パレス戦でカンテはMOM級の活躍をしていて、プレー面で大きな改善の傾向がありました。なので今回はウィリアンとペドロに絞って書きたいと思います。
まずは、ウィリアンです。ここまで17試合に出場していますが、彼の挙げた得点はわずか2点。アシスト数も「2」であり、厳しいシーズンを送っています。この頃批判の矢先にもなっているウィリアンですが、僕はサッリがウィリアンに期待しているのがよくわかります。
その理由は"サッリが教えられないものを持っている"からです。
彼にはドリブルとキックという強みがあります。この強みは指導者が身振り手振りで伝えたところで身に付くスキルではありません。幼少期から培ってきたウィリアンのサッカー環境によって生み出された彼独自の強みです。しかし、その強みを持っていても2得点2アシストしか挙げられない。それどころか、決定機を外したというシーンすら少ないといった状況であります。
この過密日程で練習で色々仕込むのは厳しいですが、サッリはウィリアンにいろんなタスクを課しています。左ウィングをやらせてみたり、右ウィングだけどフリーマンのように自由に動かしてみたり、あるいは右サイドに張らせてウィングのタスクを課したりしています。しかし、目に見えた結果は出ないのでそろそろウィリアンに見切りを付ける可能性も十分あります。
"どうやったらウィリアンがアザールみたいになれるのか"
こんなことを考えてみながら試合を見てみると、皆さんも面白い気づきが得られるのではないかと思うので、ウィリアンについてはここで留めておきます。
次に、ペドロです。
ペドロを見ていて1番悲しいのは、"どこでプレーしていいかわからない現象"が発生していることです。
僕がペドロのプレーで1番良いと思うのは、斜めの裏の抜け出しです。もっとゴールを取るのが上手い選手だと思っていましたが、チームの戦術に馴染めていないのもあってか、組み立ての部分に必要以上に絡むシーンが多いことが散見されます。そのため、カンテと共に先発をするとしょっちゅうポジションが被ってしまいます。動き回りたいし、守備でも気が利くタイプなのできっと考えているプレーが似ているのでしょう。
もっとバイタルで前を向いてドリブルをしたり、斜めの抜け出しから得点を奪うペドロが見たいです。そして、それに専念することができなければ結果を出すことも難しいのではないか、とまで僕は思っています。31歳という年齢もあるのでラスト半年に期待を込めたいと思います。
4. 今年のサッリの思惑
最後に今年のサッリの思惑について書きます。
本人もインタビューで繰り返し述べていますが、今年優勝することは全く考えていないと思います。むしろサッリの今年のテーマは、"「自分の手がかからなくても済む選手」をどれだけ増やせるか"ではないかと考えています。
現時点で、上記の対象に当たるのは、アザールとアスピリクエタのみで、他の選手についてはまだまだ改善の部分が大きいと感じていると思います。僕個人の目線では、次に化けるのはカンテ、チークになるかなと思いますが、サッリとしては何としてでもウィリアンを活躍させたいと考えているのではないでしょうか。
アロンソ、ルイス、ジョルジーニョなど中心選手ではあるものの、要所要所に守備の欠陥を抱えている選手もおりますが、サッリは今年は攻撃の改善一本で臨むと思われます。失い方を改善することで守備の負担を削ろうとしている姿は、日本にいる1指導者と同じ匂いがします、、笑
選手の成長も促しながらまずまずの結果を出しているサッリにはさすがの一言です。来年はさらに成熟度が上がって面白くなると思うので、これからの微々たる変化に対応できるようにここからギアを上げて更新頑張ります!
それでは、良いお年をお過ごしください!