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追憶~冷たい太陽、伸びる月~

  • 杜を巡る旅②

  • 第25話 2020年12月―灼熱の裏側④

その日の夜は新月だった。同伴のトビヒ族四体は深い寝息を立てていた。

 瑚子は本来の姿に転身して、狸寝入りしていた。この年の十一月以降、本来の姿で走る方が速くなっていた。

 漆黒に紺を一滴垂らした色の空を見上げると、白金の光粒が三つ現れた。

 瑚子は後ろ足に力を溜めつつ、前足で木の葉が落ちていない土を押した。一跳びで長身の木々を追い越し、瑚子は自分が次第に人間から遠ざかっていることを実感した。

 ハナサキ族の背に着地する直前で人型に転身した。

 ハナサキ族三体は三手に分かれ、瑚子を乗せた一体が南米杜の中央筋に沿って北上。他二体が左右の杜境界線上を進んだ。その内左側を進んでいた一体がそのポイントで、全身を使い繰り返し円を描いた。南米で鳴くべきでない理由をハナサキ族も知っていた。

「当たりばい」

 瑚子は三体を終結させ、静かに降下した。ハナサキ族は再び三手に分かれ上昇した。

 着地した神跳草は瑚子を認知していた。土との摩擦音が掻き消され、瑚子の足音をも土が吸収した。

 瑚子は人型の姿のまま木に身を隠した。黒い影二つに見つからないよう、口元をマスク代わりの布で覆っていた。

「待っていたぜ、俺のハニー。お前なしじゃもう生きていけねぇ」

「今回もちゃんとお務めができたからな。特別に急いで精製させた。さて、このあとすぐに働いてくれるだろうな」

「もちろんだ。こいつとの蜜月を満喫したら、すぐにでも。しかしあんた、本当にすげぇな。そこらの連中が卸してくれるやつよりも長持ちする。それでいて……あぁ、こいつのためなら俺ぁ何だってするさ」

 悦に入った男声と、もう一つの声はロナルドのものだった。周りに女性の気配はない。代わりに、トビヒ族には強すぎる臭いがツンときた。瑚子は他種の現物を見たことがない。それでも鼻と脳の警告で察した。ロナルドが男性に渡したものの正体、それは杜製のドラッグだ。

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