追憶~冷たい太陽、伸びる月~
杜を巡る旅②
第23話 2020年12月―灼熱の裏側②
瑚子が案内された場所は、南米の杜南部で最も花が咲き乱れる園その。甘く鼻にツンとくる香りが漂っていた。
「中々ばい」
「だろ? 一人でリラックスしたいときにもオススメさ」
ロナルドは瑚子の手を取り、神跳草をソファー状に固定した椅子へ座らせた。
「なるほど、こういう使い方もあったとね」
「杜の内部にも生えていたからね。敵襲もない所ならではの活用法さ! 気に入ってくれたかい?」
「ああ、腰への負担も軽くなりそうやし」
この椅子にに関してのみ、瑚子は素直に褒めた。ロナルドは気をよくした。
「それで、女王サマは何が気になるんだい」
「こん杜の文化。ずいぶんとハナサキ族が例えに出とったと思(おもぅ)てな。独特な文化だと」
瑚子は他杜の事情に触れないよう努めた。特に中国の杜ではトビヒ族がクリア・サンストーンに傅(かしず)いたと知られては、後々面倒なことになりかねない。
ロナルドはそれを悟ったが、感情を表面化しなかった。
「ああ、あれな。俺は生まれたときからこの杜にいるから他のトビヒ族とは交流がない。まったく連絡がないわけではないが、それ以上でもそれ以下でもない。おかげで新しい王が女だと知ったんだが。俺は他のトビヒ族が可哀そうだと思うよ。ハナサキ族の連中に騙されてタダ働きをしているんじゃないかってね。とはいえ、この杜の広さを考えると、身近な同胞のことで手いっぱいだ。ようやくハナサキ族との決着が落ち着いたんだ。空から俺らの糧を奪い続けた連中とな。人間に関してもそうだ。糧そのものこそ奪わないが、開拓とか言って俺らの領土を削りにやって来る。自然と共存してこそのトビヒ族にとっては最も許せないことの一つさ。だが女王サマが神跳草を生み出してくれたおかげで、しばらく不穏なことがない。女王サマには感謝しきれない」
ロナルドにこれ以上話しをさせても、トビヒ族の被害妄想が止まらない。瑚子は「そうや」の一言でロナルドを止めた。
「さて、ウチはもう行かんば」
「遠慮すんなよ、女王サマ。寝床はちゃんと用意するさ」
「お前が言(いぅ)たとおり、この杜は広い。グリーン・ムーンストーンとして、少しでも早はよぅ全体を見ておきたか」
「なるほど、それなら同胞を二、三体……いや、女王サマが望むだけ派遣しよう。空を飛ぶだけが能のハナサキ族なんかよりもずっと役に立つさ」
瑚子は自分の鼻を信じて、ロナルドの提案を受け入れた。