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追憶~冷たい太陽、伸びる月~

  • 空の果て

  • 第33話 2078年―田中家の歴史

 田中朝陽(あさひ)が二十六歳のとき、息子のAoiが生まれた。

 孫の誕生を見届けると、光樹は朝陽に看取られた。

 五十二歳という若さで病に冒されやせ細った光樹。先立たれた妻の分まで朝陽に愛情を注いだ姿を、神は見ようともしなかった。ミッション系男子校出身の朝陽は冒涜心が深くなった。しかしヨーロッパで生まれ育った朝陽は本音を一度も他言したことがない。そもそも神の不滅を信じられない時点で、学校生活で誰かと打ち解けるはずがなかった。

 代わりに、Aoiには妻に悟られないよう教えを託した。

『人にとっての真実は一つではなく、必ずしも他者と共有できるものではない』

 それがAoiに届いたのか否は、五十一歳で病没するまで朝陽には分からなかった。


 Aoiはそばかすのある笑顔が魅力的な青年に成長した。十九歳のとき、AoiはSakuraに出会った。

Sakuraを紹介された瞬間、朝陽はSakuraが人間でないことを見抜いた。しかしSakuraが無害であること、なによりAoiが隣で幸せそうに微笑んでいることが決定打となり、二人の結婚を祝福した。


 AoiとSakuraとの間に生まれた孫娘Pansyは、Sakuraのもえぎ色の色彩を受け継いだ。活発でありながら細かい箇所まで表現する絵には優しさが溢れていた。

 またPansyは幼いながらも細かいところにとらわれない思考主で、Aoiを介して朝陽の教えを受け継いでいた。

 朝陽は五歳になったPansyの成長を楽しみにしていたが、家族全員に看取られた。


 最期の瞬間、朝陽にとって一つの真実が見つかった。


 家族の幸せを願うという、種族に関係なく共通する真実だった。

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