追憶~冷たい太陽、伸びる月~
探し求める者
第44話 さすらいの者③
Lisyは当時十八歳、美術大学への進学を控えていた。
それなのに。
「今決めた。オネーサン、私を弟子にしてよ。神学は辞退するからさ」
ね? と、LisyはPansyの背中を軽く叩いた。
「絵を描くだけじゃないっていうか、すごく引き込まれるんだよね」
やら、
「さっきはおとぎ話って言ったけどさ、そこが現実世界にある感じがするんだよね。オネーサンの絵ってさ」
などと言って、LisyがPansyのしゃっくりを増長させた。
「ね、私、自分の持ち味をオネーサンの指導で活かしたい。それで、故郷の平和や自然を守りたい。私の名前の花と父のルーツ、同じ地域なんだ。母はアジア出身だけど私は住んだことがなくてね。幼いころからこの大星大国に住んでいるの。ああ、私ったら話の順番がめちゃくちゃ! 今までこんなに興奮することってあったかしら!」
Pansyは臀部と踵に力を込めた。昂りを抑えられず、口が滑りやすい性格では、杜に眠るCocoを公に晒しかねない。瞬時に離れるべきだと判断した。
それでもLisyはPansyを離さなかった。
「オネーサンの名前は?」
「強引だね。私、誰にも絵を教える気がないよ」
Pansyはしゃっくりを呑み込み、Lisyを見上げた。
「じゃあ、私が唯一の弟子だね! で、名前は?」
Lisyは頑として引かなかった。
「あなたは」
「Lisy!」
「……Lisyは自分の絵を多くの人に見せるのが目標だと思うけど、私は逆なの。むしろ大衆に見せないための弟子以外はお断りよ」
「じゃあ、オネーサンはどんな風に絵と共生するの?」
Lisyのことを指したつもりだったが、Pansyの意図は伝わらなかった。
「少なくともLisyに答える必要はないわ。もちろん、私の名前も」
「必要あるよ」
「なぜ?」
Lisyは満面の笑みで答えた。
「だってオネーサン、もうとっくに私を案内しているんだもの。オネーサンの絵(せかい)に」