追憶~冷たい太陽、伸びる月~
杜を巡る旅②
第19話 2020年10月―桃源郷①
「鬱陶しい(せからしか)! いつまでもウチにくっついて回らんちゃよかたい」
「お前が危なっかしかけんやろうが。クリア・サンストーンばこがんこき使うとはお前くらいだぞ。グリーン・ムーンストーン」
中国の杜から南下すると、本来の姿に転身した瑚子と利矢が口論を始めた。瑚子が単独行動すると言い出したのがきっかけだ。
「さっさと空の穴に戻ればよかやん! 弟のおるっちゃろ」
「お前と違ってしっかりしとるけん、弟のことは心配なか。というかお前がしっかりせんば、俺は空の穴に戻れん。お前のヘマは結局、ハナサキ族がフォローせんばとぞ」
「弟と会わん理由にせんで!」
瑚子の一言で利矢が言葉に詰まった。羽を休め、瑚子も脚を止めた。
「あいつには、俺が兄だという認識のなか。空の穴にいる同胞みんなに育てられたからな。同胞全体が親で兄弟、俺自身が特定の血縁だという考えがなかけん。もちろん、母さんのことも」
今度は瑚子が言葉を噤んだ。
「そがん訳で、あいつは寂しがってなんかおらん! そいよりもそがん暗か面ツラの方がよほどせからしかぞ。いつまでも俺の視界にこびりついてかなわん。キモかとって」
瑚子は後ろ脚で地面を蹴り、利矢の胸元に土がかかった。
「何(なん)ばすっとか」
「アンタがさっさと道案内ばせんけんやろ。こいから南アジア、オセアニアの杜に行かんばとけん」
瑚子が再び駆け出すと、利矢は体を左右に振って土を払った。
翼の影が瑚子の頭上を過ぎた。