交響楽団大浴場
大浴場には色んな人、もとい色とりどりのオジがいる。
サウナが好きで、仕事柄出張の機会も多いので、大浴場付きの宿に泊まることが多々ある。
それなりに人がいる大浴場には、大抵なんだか気になっちゃうオジがいるのだが、今日の大浴場はタレント揃い。さながらオーケストラのよう。
タオルを身体に叩きつけリズムを刻むオジ。
シンバルさながら定期的にデカい声を発するオジ。
小さく響くため息のメロディー。
水風呂を何故か歩き回るオジ。
桶に張った水を凝視して微動だにしないオジ。
あれ、動かんぞ?大丈夫か?あっ動いた。めっちゃシャンプー連打するやん。場違いハミングバードのライブバージョンの鈴木貴雄のカウントくらい早いな。ほんでその毛量で10プッシュは出し過ぎやろ。毛量ないから泡立ちもせんでクリームチーズみたいになっとる
いつの間にか上がった雨。雲の切れ間。遠くに浮かぶ山影と薄茜に染まりゆく空。
何も自分だけが特別じゃないなんてことはない。
仁王立ちで大浴場の窓から夕焼けを眺める私も、このイカれたメンバーのひとりだ。
サウナで整い、世界との境界が揺らぐなかで、どこかこんがらがってしまった脳をほぐす。最近は真面目なことしか書いていなかったから、この一夜限りの公演を書こうかなんて思った。
暫く外で涼んだ後コンサートホールに戻ると、示し合わせたように彼らは居なくなっていた。
静かに謎の液体を配合する、マッドサイエンティストがだけが残るばかり。静けさが耳に残る。
薄明に染まる空が塗り潰されていく。
街にやわらかな明かりが灯る。
今日もまた、夜がやってくる。
脱衣室で迎えてくれた、微動だにしないオジ。