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【米国株】相場サイクル論における「利下げと暴落の関係」から見える暴落回避の指針

景気と株価と金利にはサイクルがあります。景気は好景気と不景気を繰り返します。株価は景気に連動して動く(実際には景気よりも少し先に動く)ので、こちらにもサイクルがあります。金利は、不景気になれば景気支援のために下げられて、好景気になればインフレ抑制のために上げられるので、やはりこちらも景気に連動して動きます。

つまり、景気と株価と金利の動きを見れば、今がサイクルのどの部分にいるのかが判断できるのです。

画像引用元 https://shikiho.toyokeizai.net/news/0/607197

1. 金融相場(上昇相場)

特徴:このフェーズは金融環境が緩和され、市場に豊富な流動性が供給されている状態を指します。中央銀行が低金利政策を実施し、資金調達コストが低いことで株式市場が上昇します。景気にとって悪いニュースが出るほど、追加緩和・緩和継続の必要性が出てくるため、それが期待されて株価は上昇します。金融相場は比較的長く続き、企業業績に関係なく株価が上昇するため、トレードし易いです。

  • 株価:上昇しやすい。景気回復の初期段階であり、投資家はリスク資産(株式など)に資金を投入します。

  • 景気:回復途上。経済指標が改善傾向にありますが、全面的な回復にはまだ時間がかかります。

  • 金融政策:緩和的。中央銀行は低金利政策や量的緩和を実施し、経済を支援します。

  • ドル円:ドル安(円高)傾向。低金利政策とリスクオンの動きが交錯し、ドルが売られやすくなります。

2. 業績相場(上昇相場)

特徴:企業業績が改善することで株価が上昇するフェーズ。企業の収益増加が投資家の信頼を高め、株式市場がさらに上昇します。景気が回復し、金融緩和の縮小・打ち止めが意識され始めると業績相場の色合いが強くなり、緩和が終了すれば業績相場に完全に移行します。この金融相場から業績相場への移行期には、緩和打ち止めを嫌気する下げが出やすいため、景気回復に反応しての長期金利上昇や、FRBによるテーパリング(緩和縮小)のアナウンスがいつ行われるかについて神経を尖らせる必要があります。金融引き締め策(利上げ)が企業業績を圧迫しますが、まだ業績成長が優っている状態です。

  • 株価:上昇基調。企業業績の改善が株価の上昇を押し上げます。

  • 景気:拡大。経済は全面的に回復し、消費や投資が活発になります。

  • 金融政策:維持または引き締め。景気回復が進むと、中央銀行は金融緩和政策を見直し始める場合があります。

  • ドル円:ドル高(円安)傾向。米国の経済指標の強さがドルを支える動きが見られます。

3. 逆金融相場(下落相場)

特徴:中央銀行が引き締め政策が景気中立レベルを超えて、企業業績を圧迫し始めます。金利の上昇が資金調達コストを引き上げ、株価に圧力をかけます。

  • 株価:調整局面または下落。利上げが株価の上昇を制限することが多い。

  • 景気:拡大の鈍化。過熱した経済を冷ますための引き締め政策が影響を与え始めます。しかし、依然として景気指標は強いです。

  • 金融政策:引き締め。中央銀行はインフレ対策や経済のオーバーヒートを防ぐために金利を引き上げます。

  • ドル円:ドル高。利上げによる利回りの上昇がドルの価値を高めます。

4. 逆業績相場(下落相場)

特徴:企業の業績が悪化し始めるフェーズ。経済の減速や景気後退により、収益が圧迫され株価が下落します。逆金融相場から逆業績相場の移行期においては、これ以上金融引き締めが強くならない(利上げのテーパリング)ことへの期待から株価が一時的に上昇することがあります。

  • 株価:下落基調。企業の業績悪化が株式市場にネガティブな影響を与えます。株価が大きく下落することが多いです。

  • 景気:減速または後退。経済指標が悪化し、消費や投資が縮小します。

  • 金融政策:再緩和の可能性。景気後退に対応するため、中央銀行は再び緩和政策(利下げ)を検討することがあります。

  • ドル円:ドル安(円高)か不安定。米国経済の弱さがドルを圧迫することがあり、リスクオフの円買いが発生することも。

以上が景気・株式・金利のサイクルです。
ざっくりとまとめると以下の通りです。

では、株価の暴落(逆業績相場)を回避するという観点から、逆金融相場→逆業績相場の移行期に焦点を当ててみます。

この時期は、まだ景気は強いです。ゆえに景気指標にも陰りは見られません。株価はこれ以上の金融引き締めが無いことを好感して上昇しています。本格的な下落は始まっていません。政策金利は上昇が止まり、横ばいのフェーズに入り時間が経っています。

投資家の目線から捉え直すと、これまで相場は長い上昇相場を演じてきた、景気指標は良い、現在の株価も堅調、そして次のFRBの行動は利下げであるという予想がついている状態です。

このような良いこと尽くしに見える状況にも関わらず、サイクル的に相場は天井を打ち、暴落(逆業績相場)が始まるのです。サイクル論的には、まず暴落が来てから、経済指標が悪くなります。そして景気支援のための金融緩和策(利下げ)が行われます。順番的には暴落→景気指標悪化→利下げです。

ゆえに、長い景気拡大の後に、最初の利下げが行われる見通しの場合、もしかしたら利下げが行われる手前のどこかで暴落が始まるかもしれないと警戒すべきなのです。いつ利下げが実施されるのか、そのタイミングに神経を尖らせべきです。この時期はFRBの一挙手一投足に気を配る必要があります。

【例外局面:ソフトランディング】
稀に逆業績相場にならずに、再び業績相場に戻る事例もあります。1995年の業績相場(ドットコムバブル期)、2019年の業績相場(2020年コロナショックにより早期崩壊)などがその例です。近年の暴落と比較しながら、その違いを見てみましょう。

●暴落①2000年ドットコムバブル崩壊
インターネット企業への過剰な投資と高騰した株価、実体のない企業評価、金利引き上げによる資金調達の困難化、収益モデルの未確立などが複合的に作用しバブルが崩壊しました。S&P500は約49%下落し、ナスダック総合指数は約78%下落しました。利下げ開始9ヶ月前から下げ始め、利下げ期間中はほとんど下落相場でした。最後から2番目の利下げ時期に底打ちして反転し始めました。

左端の青線が第一回目の利下げ

〈時系列〉
【利上げ】
1999年から2000年にかけて、FRB(連邦準備制度理事会)が継続的に金利を引き上げました。これにより企業の資金調達コストが上昇し、特に多くの負債を抱えていたインターネット企業に打撃を与えました。

【大手IT企業の決算ミス】
2000年後半から2001年にかけて、Dell、Cisco、Intelなどの大手IT企業が相次いで業績予想を下方修正しました。IT相場のリーダー銘柄の決算ミスによって相場は利下げ前からギクシャクし始めました。

【初回いきなりの大幅利下げ】
短期間で大幅な利上げが行われ、景気減速の兆しが見え始めたことから、FRBは2001年1月3日、0.50%の大幅利下げ(通常の利下げ幅0.25%の2倍)を実施しました。前回12月のFOMCではFRBは「インフレ警戒」から「景気配慮」へとシフトしていました。以降FRBは大幅利下げを繰り返しました。

●暴落②2008年リーマンショック
米国の低金利政策下で膨張したサブプライムローン市場のバブル崩壊を起点に、住宅価格下落、証券化商品の焦げ付きが連鎖。世界的な信用収縮と金融システム不安に発展し、リーマン・ブラザーズの経営破綻に繋がりました。S&P500は2007年10月の高値から2009年3月の安値まで約57%下落しました。株価は利下げ開始2ヶ月前から下げ始め、一時戻しましたが、結局利下げ期間中は下げ続けました。最後の利下げが終わった後も、もう一段株価は下げました。

〈時系列〉
【初回いきなりの大幅利下げ】
2007年9月18日、米国の連邦準備制度理事会(FRB)は、金融市場の混乱を緩和するため、政策金利であるフェデラル・ファンドレート(FF金利)の誘導目標水準を0.50%ポイント引き下げ(通常の利下げ幅0.25%の2倍)することを発表しました。これは2003年6月以来4年3ヶ月ぶりの利下げで、市場予想を上回る大幅な措置でした。

利下げ幅について、市場では、FRBが、景気のダウンサイドリスクが一層高まったものの直ぐにリセッションに陥るとは見ていないこと、最近の物価指標が落ち着きを見せる中でもなおインフレ圧力への警戒を解いていないこと、等のスタンスをとっていることが窺われるとして直前の予想でも0.25%説が根強かったです。株価はこれを受けて急落しました。

【リーマン破綻】
2008年9月15日、アメリカの大手投資銀行リーマン・ブラザーズが経営破綻しました。負債総額は約6000億ドル(約63兆円、当時)と史上最大級の規模でした。

【緊急利下げ】
連邦準備制度理事会(FRB)は2008年10月8日、フェデラル・ファンド・レート(FFレート)の誘導目標値を2%から1.5%に緊急に引き下げることを決めました。欧州、英国、スイス、カナダ、スウェーデンの各中央銀行も協調利下げを行いました。株価は下げ足を早めました。

【史上初のゼロ金利】
FRBは12月15、16日にFOMCを開催し、FFレート誘導目標を75~100bp引き下げ、 ゼロ%~0.25%の目標レンジを設定することを決定した。 事実上のゼロ金利政策の実施であり、米国では初めてでした。

●暴落③2020年コロナショック
新型コロナウィルスの世界的パンデミック(感染爆発)による経済の混乱よって、S&P500は僅か1ヶ月で-35%以上の大暴落を喫しました。株価は利下げ1ヶ月前のアップル利益警告から下げ始め、FRBによる大幅利下げが発表されると下げ足を早めました。利下げ期間中も下げ続け、通常の4倍の幅(1%)の利下げと量的緩和策を発表した後も株価は下げ続けました。

〈時系列〉
【新種のウィルスが中国で見つかる】
2019年12月31日、中国湖北省武漢市で病因不明の肺炎の集団発生が報告されました。1月9日、中国当局は、このウイルス性肺炎の原因が、新しいタイプのコロナウイルスであると最初に同定され、既知の他のヒトコロナウイルスとは異なるものであったことをメディアで報告しました。

米株式市場は小幅な下げにとどまりました。投資家は世界的なパンデミックになるとは予想していませんでした。

【アメリカで初感染】
1月21日、アメリカ国内で初の新型コロナウイルス感染者が、ワシントン州シアトルで確認されました。米株式市場は無風でした。

【1月相場はマイナス】
その年の相場を占う1月相場は-0.16%に終わりました。大統領選挙の年の相場で1月、2月が安ければ、現職の負けるシナリオだけに2月相場に不安を感じさせる結果でした。

【アップルが利益警告】
アップルは2020年2月17日(米国時間)、新型コロナウイルスの影響で、2020年第2四半期(1〜3月)の売上高ガイダンス(予想)未達となる「利益警告」を出しました。当初のガイダンスも630億〜670億ドルと幅を持たせており、新型コロナウイルスの影響を織り込んだものでした。しかしこの下限も達成できないほど売り上げが棄損する見通しとなりました。この日を境に米株式市場は下げ始めます。

【FOMC臨時会合/大幅利下げ】
米連邦公開市場委員会(FOMC)は3月3日に臨時会合を開き、全会一致で0.5%の大幅な政策金利引下げ(通常の利下げ幅0.25%の2倍)を決めました。市場は3月17・18日の次回FOMCで0.25%~0.5%の利下げを事前に織り込んでいましたが、こうした市場の期待に先手を打つ形で、緊急利下げが実施されました。

声明文には、「経済を支えるために適切に行動する」との文言が用いられました。2月28日に出された緊急声明にも用いられた文言であり、近い将来の追加緩和実施の可能性を明確に示しました。会見では過去のソフトランディング成功時に発せられたような「予防的利下げ」「予防は治療に優る」などの投資家が手掛かりにするようなワードは一切なく、ぶっきらぼうな印象を投資家に与えました。

結果的に、大幅な利下げはFRBが事態の後手に回っているという印象を与え、投資家は先行きに強い不安を感じました。米株式市場は大幅に下落し、ドル安も進行しました。

【緊急FOMC/大幅利下げ】
米国連邦準備制度理事会(FRB)は3月15日、臨時の連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、政策金利のフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標を、1.00~1.25%から0.00~0.25%に1.0ポイント引き下げる(通常の利下げ幅0.25%の4倍)ことを決定しました。3月17~18日に予定されていた次回定例会合を中止した上で、3月3日に続く臨時会合を開催しました。パウエル議長は電話記者会見で、今回の決定について「米国経済全体がこの困難な時期を乗り越え、新型コロナウイルスによる(経済的)混乱の収束の後、正常な状態へより力強く戻ることを促す」ための措置だとしました。

数日後に予定されていたFOMCを前倒しにしていることから、FRBがかなり切羽詰まっていることが如実に伝わってくるFOMCでした。株式市場は大幅な利下げ措置と大規模な量的緩和策が発表されたにも関わらず下げが止まりませんでした。

ソフトランディング成功例①1995年
米国では1995年7月6日から1996年1月31日までの約7カ月、0.25%ずつ3回の利下げが行われました。この間、FF金利は、6.00%から5.25%へ低下しました。当時の米国株は、利下げ開始後も、開始前と変わらず、堅調な推移が続きました。

〈時系列〉
1990年代初頭の景気後退】

  • 1990年から1991年にかけて、アメリカは軽度の景気後退を経験しました。この後退は、1980年代後半の貯蓄貸付組合危機の影響や、湾岸戦争による原油価格の高騰などが原因でした。

  • FRBは景気後退に対処するため、1991年から1992年にかけて大幅な利下げを実施しました。しかし、景気回復は緩やかで、1995年時点でも完全な回復には至っていませんでした。

  • FRBは、景気回復を確実なものとするためには、金融緩和を継続する必要があると判断しました。

【抑制されるインフレ率】

  • 1990年代は、一般的に物価上昇率が低く抑えられた時期でした。これは、グローバリゼーションの進展による競争の激化や、技術革新(インターネット革命)による生産性向上が背景にあります。

  • インフレ率が低いため、FRBは利下げによるインフレ加速のリスクが小さいと判断しました。

【メキシコ通貨危機】

  • 1994年末、メキシコで通貨危機が発生しました。これは、メキシコ政府の財政赤字や対外債務の増加が原因でした。

  • メキシコ通貨危機は、アメリカ経済にも悪影響を及ぼす可能性がありました。特に、メキシコとの貿易が多い企業や、メキシコに投資している金融機関への影響が懸念されました。

  • FRBは、メキシコ通貨危機の影響を緩和するため、予防的な措置として利下げを実施しました。

◆ソフトランディング成長例②2019年
利下げは2019年7月から始まり、9月、10月と計3回行われました。利下げ幅は0.25%ずつの小幅な利下げに留まりました。利下げ期間中はレンジ相場でしたが、利下げ打ち止め後、株価は上昇基調に入りました。

〈時系列〉
【2018年10月〜19年1月の-20%暴落】
2018年10月から2019年1月にかけての米国株式市場の下落は、複数の要因が重なって発生したものでした。以下に主要な要因をいくつか挙げます:

1. 金利上昇とその影響

  • FRBの利上げ:米連邦準備制度理事会(FRB)は2018年に利上げを継続し、年内に4回の利上げを実施しました。金利の上昇は資金調達コストを引き上げ、企業の利益率に影響を及ぼすとともに、借入を減少させます。このような状況は、特に高成長株やテクノロジー株に対してネガティブな影響を及ぼしました。長期金利は利上げが繰り返される間に上昇していき、3.2%につっかけた10月から相場が下落していきました。

2. 米中貿易摩擦

  • 関税引き上げ:トランプ政権は中国に対して高い関税を課し、中国も報復措置を実施しました。この米中貿易戦争は、グローバルなサプライチェーンに対する不確実性を増し、企業の収益予測に対してネガティブな影響を及ぼしました。

  • 市場の不安:貿易摩擦による企業業績の悪化懸念や経済成長の鈍化、さらにはグローバルな景気動向への影響が投資家の心理に不安をもたらしました。

3. 経済指標の悪化

  • 経済指標の弱さ:2018年後半から2019年にかけて発表された経済指標が予想を下回ることが多く、特に製造業やPMI(製造業購買担当者指数)が低調でした。これにより経済成長の鈍化が懸念され、株式市場にネガティブな影響を与えました。

4. 石油価格の急落

  • 原油価格の下落:2018年10月から12月にかけて、原油価格が急落しました。これによりエネルギーセクターの株価が下落し、さらに市場全体のリスクアペタイトの減少につながりました。

5. テクノロジー株の調整

  • FAANG株の下落:Facebook、Apple、Amazon、Netflix、Google(Alphabet)などの主要テクノロジー株、いわゆるFAANG株が大幅に下落しました。これらの株は市場全体の指標にも大きな影響を与えるため、テクノロジーセクターの調整が波及して市場全体が下落しました。特にアップルが中国市場の減速から売上見通しを引き下げたことにより、アップル株は-10%急落、市場に悪影響を与えました(アップルショック)。

6. 政治的リスク

  • 米国政府のシャットダウン:2018年12月から2019年1月にかけて、米国政府は予算を巡る対立により部分的なシャットダウン状態となりました。これにより投資家の不安が一層高まりました。

これらの要因が複合的に影響し、2018年10月から2019年1月にかけて米国株式市場は大幅に下落しました。投資家は貿易摩擦による不確実性や経済成長の鈍化、金利上昇の影響を強く意識し、不安が増大した結果として市場のボラティリティが高まり、幅広いセクターで株価が下落する事態となりました。ただし、この下げは利上げフェーズの後半で起きた下げであり、サイクル的には逆金融相場だと思います。金利上昇を嫌気して始まった下げに、諸々の悪材料が重なり、大きな調整となったと考えられます。ゆえに、この暴落は逆業績相場(暴落)ではありません。また、12月FOMCにて来年の利上げ回数が3回→2回に減らされることが示された辺りから相場は反転しました。これ以上の金融引き締めが無いことを好感して株が買われることは、この下げが逆金融相場であった証だと考えられます。

【利下げ前夜】
6月18~19日の両日開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)では米国の政策金利であるFF(フェデラルファンズ)レートが現行の2.25~2.50%のまま維持されることが発表されました。市場では、次回FOMC(7月30日、31日開催)以降の利下げの織り込みが進んでいたため、今回の会合では、「利下げに向けた地ならしの度合い」が焦点となっていました。

FOMC声明をみると、冒頭の経済活動の拡大ペースに関する表記が、「堅調」から「緩やか」に下方修正されました。また、経済見通しの「不確実性」が強まったことが新たに示されたことに加え、これまで用いられていた、政策判断について「辛抱強くなる」との表現が削除されました。

パウエル議長は「予防は治療に勝る」と語り、経済が悪くなる前に機先を制するカタチで利下げに踏み切ることをほのめかしました。CME FEDWATCHでは次回FOMCでの利下げが強く織り込まれました。

【利下げ開始】
FRBは、7月30日、31日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)で、市場予想どおり、政策金利であるフェデラルファンド(FF)レートの誘導目標レンジを2.25%~2.50%から2.00%~2.25%へ引き下げました。また、バランスシート(BS)の縮小を従来の予定から前倒しして8月に停止することも決定しました。

声明文では、米国経済は緩やかに拡大してきたと指摘しつつも、海外経済の動向やインフレ圧力の落ちつきを考慮して利下げを決定したとしました。

FRBのパウエル議長はFOMC後の記者会見で、今回の利下げは景気循環の途中の調整であり、世界景気の減速や通商政策の不透明感(米中貿易戦争)に起因する下振れリスクに備える予防的なものであると述べました。今後については、今回が長い利下げサイクルの始まりではないとしつつも、利下げが1回のみとは言っていないと述べ、状況次第で追加利下げに踏み切る可能性を否定しませんでした。

【2回目の利下げ】
米国連邦準備制度理事会(FRB)は9月17、18日に連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、政策金利であるフェデラルファンド(FF)レートの誘導目標レンジを2.00%~2.25%から1.75〜2.00%に引き下げることを決定した。バウエル議長は記者会見で「米国経済を力強く保ち、(世界的な成長鈍化や貿易政策の不確実性といった)進行中のリスクに対して保険をかけるため」の措置だとした。

パウエル議長は「経済が悪化すれば、より長期の継続した利下げが適切になる可能性もある」としつつ、現在は想定しておらず、「FOMCは引き続き状況を注意深く監視して、景気拡大が順調に続くよう適切に行動していく」と述べた。

【3回目の利下げ】
米国連邦準備制度理事会(FRB)は10月29、30日に連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、政策金利であるフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標を、1.75~2.00%から1.50~1.75%に引き下げることを決定した。パウエル議長は記者会見で「世界経済の変動に直面する米国経済を力強く保ち、進行中のリスクに対して保険を提供するため」の措置だとした。

まとめると、利下げは小幅で整然としたものに終わりました。その間、FRB議長は予防的な利下げであることを繰り返しコミュニケートしました。ゆえに、大幅な利下げを伴うほど経済が傷んでいないことを示し、経済のソフトランディングが演出できました。利下げ完了後、株式市場は上昇基調に入っていきました。

〈まとめ〉
ソフトランディングは極めて稀有な事例であり、2019年の事例では後にコロナショックによって早々に景気後退に追い込まれたため、完璧なソフトランディング事例はドットコムバブル期の1995年、1例しかありません。

そもそも、ソフトランディングができるかどうかが問題になる局面では、長い景気拡大の後に経済が高金利に耐えられなくなってスローダウンしている状況です。

並大抵のことがなければ、そのまま景気後退になることが自然です。その流れを無理矢理捻じ曲げて景気拡大に持っていくようなパワーがなければ、ソフトランディングは不可能なのかもしれません。唯一完全に成功した1995年はインターネット革命の初期でした。

つまり、インターネット革命に匹敵するようなパワーのある動きがない限り、利下げが見通される局面では、ハードランディングを想定した方が良いということです。具体的には、利下げ前には、逆業績相場(暴落)に備えるために、ポジションを手仕舞っておくことが無難なのです。

そして、利下げ期間中は小幅で、かつ数回程度の少ない回数の利下げに留まるか見守ります。粛々と慌てふためいたオーラが出ていないか確認します。ソフトランディングでは予定調和な整然とした利下げでないといけません。

利下げ幅が拡大したり、利下げが何回も繰り返されるならば、FRBが景気の動きの後手に回っている証拠であり、それはハードランディングシナリオです。利下げ期間中も株価は下がっていく可能性が高いです。

【結論】
相場サイクル論的に、長い景気拡大の後に利下げが見通される状況では、利下げの手前のどこかから逆業績相場(暴落)が始まる可能性が高いです。例外であるソフトランディング(逆業績相場にならず、再び上昇相場である業績相場に戻っていくケース)が起きることは極めて稀だからです。特に、インターネット革命のような景気拡大に大きくプラスな材料がない場合、そして利下げ幅が大きく、利下げ回数も多い場合はハードランディング濃厚でしょう。

ゆえに、最初の利下げが行われる見通しの場合、利下げ開始までのある地点から景気後退に先立つ大きな調整局面が来るかもしれないと警戒モードになって、防御を固めるためのポジション調整を行うべきと考えます。

ちなみに、最初の利下げが始まる何ヶ月前から下落が始まるのか、過去の景気後退による株価暴落(逆業績相場)において共通点はないのか調べました。

引用元 https://money-bu-jpx.com/news/article044537/

●1981年 利下げ4ヶ月前の3月下旬下落開始
●1990年 利下げ12ヶ月後の7月中旬下落開始
●2001年 利下げ9ヶ月前の4月初旬下落開始
●2007年 利下げ2ヶ月前の7月中旬下落開始
●2020年 利下げ1ヶ月前の2月中旬下落開始

期間における共通点は大半は利下げ開始前から下落が始まるという程度ですが、シーズナリティー的に株が弱含むタイミングや、相場的に悪い材料が出たタイミングでの株価の下落が、そのまま大きな株価の下落に発展していっているように見えます。実際に利下げが行われる数ヶ月程度〜半年前から株価が弱含みそうなタイミングには一層の注意を払うべきでしょう。

ただし、現実の相場では、市場参加者の織り込みよりも実際の利下げ開始時期がズレる場合があります。2024年の相場では、年初に年内7回、夏頃から利下げが開始される見通しでしたが、好調な経済指標や高いインフレ率を受けて、どんどん開始時期の予想が後ズレしていきました。その間、株価は好調でした。市場予想を何の考えもなくアテにしていると上げ相場を取り逃がしたことになります。一体、いつから利下げが開始されるのか、その時々の状況に応じて、自分で当たりをつける必要があります。

〔暴落回避のために行うこと:まとめ〕
①ステージ分析から逆業績相場の一方手前であるか確認
②利下げは実際にいつから行われそうか当たりをつける
③利下げ開始数ヶ月〜半年前の株価が弱含みそうな時期からポジション整理して防御を固める
④利下げ幅は小幅で、回数も数回程度に収まるか観察

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