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偶然、連絡先を交換したひと⑥
忘れられない景色がある。
夏休みも近づいたある日、彼と神戸へ旅行に行くことになった。
おもに旅行好きな私が行きたい場所を伝え、プランを立てた。
彼の友だちが大阪にいるそうで、帰る前に大阪へ寄ることも決まった。
初めての土地というだけで楽しかったし、綺麗な景色を見ると心が洗われた。
初めて入るバーは、ホテルの最上階で、夜景を見ているだけで言葉もいらないほど、幸せだった。
彼がお金を気にして、カクテルを1杯しか頼まなくても、気にしなかった。
ホテルの部屋へ戻ると、順番にお風呂に入った。
緊張とそれなりの覚悟をしてきた私は、可愛い下着を身につけ、彼がお風呂から上がるのを待っていた。
ふと、ベッド脇のテーブルに置かれた彼のスマホが目に入った。
さりげなく触ってみると、"人のスマホを無断で見る行為は刑法〇〇条に匹敵します"というメッセージが、真っ暗なロック画面にさっと現れた。
私は驚いて、スマホを落としそうになってしまった。
彼の本性を垣間見たようで、少し怖かった。
もともとポーカーフェイスな彼は、旅行中もテンションが上がることもなく、いつも通りの落ち着いたテンションだった。
結局その晩は、ベッドも別々で、セックスはおろか、ハグやキスすらなく、彼はお風呂から上がるといつの間にか眠ってしまった。
セックスを望んでいたわけではないけれど、せっかくの初めてのお泊り。それなりにスキンシップがあってもいいのでは?
ふと、すやすやと寝息をたてる彼の横で、置いてきぼりになったかのように、一人寂しくぽつんと取り残された私がいた。
寂しさが押し寄せ、思わず、今彼の次に告白してきた例の彼に連絡をしてしまった。
翌日、何事もなかったかのように、おしゃれな神戸の街歩きを楽しんだ。
普段、車移動が多い彼は、”疲れたから、休んでいい?“と、時折立ち止まった。
私はちっとも疲れてなんかいなかった。
彼は体格がいいから、てっきりスポーツマンかと思っていたけど、こんなに体力がないとは。
あっという間に時間も過ぎ、そろそろ帰りの新幹線の時間が近づいてきた。
大阪に寄ると言っていたが、友だちとは駅構内で立ち話をすればいいらしい。
大阪駅に着くと、
”ちょっとそこら辺で待っていてね。先に改札を通っていていいよ“
と言い残し、彼は私を置いて歩いていった。
てっきり私も一緒に行って、友だちと3人で会うのかと思っていたので、面食らった。
どうやら、友だちと会うときに、私は邪魔らしい。
私は改札を通らずに、遠くから彼の様子を伺っていた。
しばらくすると、“友だち“と会えたようで、彼が楽しそうに話す姿が見えた。
距離があるため、会話の内容は全く聞こえないが、相手が女性であることは認識できた。
私との旅行中に、あんなにはしゃぐ様子はあったっけか。
私は、正直ムッとしてしまった。
こそこそ友だちに会いに行くかと思ったら・・・相手は女か。
随分と親しげだけど、まさか元カノ?
私を連れて行かないってことは、付き合ってることを隠してるのかな。
(もともと、"付き合っていることはあまり周囲に言わないでほしい"と口止めされていたので、ちょっぴり不信感を感じていた。)
しばらくして彼が慌てて戻ってきて、改札を通ろうとした。
改札より手前に私がいることを確認すると、こちらへ近づいてきた。
”お待たせ。ここにいたんだね。これもらったよ”
と手には、551の肉まんが2つ入った袋をぶら下げていた。
お友だちは、彼に旅行の同伴者がいることを知っていたのだろうか。
彼に友だちのことを尋ねると、”学生時代に旅先で知り合った人”とのこと。
元カノではないらしい。
私を連れて行かなかった理由は、”恥ずかしいから“
思い返せば、付き合った当初から、“付き合っていることをあまり周りに言わないでほしい“と彼から言われたことを思い出した。
その理由に納得がいかない私は、帰り道中、終始もやもやしていた。